太田述正コラム#14574(2024.11.10)
<G・クラーク『ユニークな日本人』を読む(その30)>(2025.2.5公開)
「能力主義は、アメリカではある程度うまくいきました。
これは競争心をかりたてるというものなので、頭のいい連中はたしかに伸びます。
上のほうの人は張り切るかわりに、上へゆけない人は、ドロップアウトしてしまう。
というより、いかにサボるかばかりを考えるようになる。
反感を示すために、組織の中で組織をこわそうとするんです。
一人は伸びても十人が伸びない、これではプラスになりません。・・・
⇒欧米では、詳細な法律を作り、詳細な契約を結ぶ、のと同様、大組織では詳細なマニュアルを作成します。
ラテンアメリカは日本よりも更にOJTを好むとされています・・私は疑っています・・が、それを捨象するとすると、日本と米国は、この点で世界の両極端です。(注28)
(注28)「日本人は教室における勉強にはあまり価値を置かないので、より役立つと確信している OJTに重点を置きます。 同時に 、OJTを通じて、従業員が必要な技術を自然に身に付けると期待しています。
しかし、<米国>人にとって勉強は体系的なものなので、セミナースタイルや教室、マニュアルによる言葉の説明や論理を期待し、もしそれがないと教育を受けたとは感じません。」
https://ej.alc.co.jp/tag/TRENDS/20180220-global-mind-20
つまり、米国では、マニュアル通りの仕事さえできない者やサボる者や組織の中にいて組織をこわそうとする者、は、即解雇されてしまうので、組織の中に留まる者は、マニュアル作りができるものとマニュアル通りの仕事ができる者だけなのであり、クラークが言っていることはナンセンスです。
米国流経営の問題点は、「マニュアル通りの仕事さえできない者やサボる者や組織の中にいて組織をこわそうとする者」が、組織外に放り出された状態のまま推移し、それが犯罪の猖獗や社会の不安定をもたらすことなのです。(太田)
日本のやり方をすると、英才を出さないという面ですこしの犠牲はありますが、そのかわりに大きなプラスが得られます。・・・
生活水準があがって、<金銭的利益といった>素朴な刺激が弱くなって、生産性が下がりはじめて、労働者を刺戟するためには、英語でいえばエモーショナル・インボルブメント(emotional involvement)<(注29)>、つまり気持ちのうえで積極性をもたせることが必要ではなかという反省ムードが出てきました。・・・
(注29)「「エモーショナル・インテリジェンス」とは、感情を理解し、コントロールし、適切に扱う能力のことです。つまり、自分の感情や他人の感情を上手に扱い、良好なコミュニケーションや関係を築くための能力を指します。・・・ある仕事でトラブルが発生した際、エモーショナル・インテリジェンスの高いリーダーは、チームメンバーの感情を理解し、適切なアプローチで問題を解決します。」
https://educe-hd.jp/glossaries/1082
⇒クラークの用語はともかくとして、感情面も重視した組織経営の必要性、重要性が欧米において強調されるようになっているのは確かのようです。
しかし、日本における組織経営は、「感情面」を重視しているというよりは、人間主義性という、人間の本来的「本能」を重視したもなので、クラークの言っていることは的外れであるというべきでしょう。(太田)
つまり、われわれのほうがかえって日本的になろうとしています。
日本の経済成長を見せられて、われわれとしても、どうしても説明しなければならなくなったのです。」(73~74、76)
⇒日本的経営は、匠を生みかつ維持し易く、そして、長寿企業をもたらし易いけれど、およそ経済成長とは無縁なのです・・経済成長の源泉は戦争対処です!・・が、そこのところを、クラークを含め、欧米人達は全く理解しておらず、結果は、マインドフルネスなるインチキ仏教崩れの無用無益の暇つぶしの流行をもたらしただけに終わっている、というのが私の見方です。(太田)
(続く)