太田述正コラム#3086(2009.2.9)
<人間にとって青年期とは何か(その2)>(2009.3.25公開)
・・・<青年達>はひどくものぐさに生まれついており、ほっておけば、13歳から20歳まで寝通しになりかねない。起きるのはブルームーン<(3年ないし5年に1回起きる)>の時くらいで、自分を傷つけるかヘロインを自分に注射する、といったところだ。・・・
一般的に言って、我々は年を取るにつれて睡眠時間が短くなる。その例外が青年期だ。
ベインブリッジは、これは我々の内部時計を司る脳内のsuprachiasmatic nucleusの作用ではないかと示唆している。・・・
一体どうして青年達はかくもベッドから起きるのが困難なのだろうか。
一つの理論は、脳の再配線作業を行うためには、体内時計が大人よりゆっくり時を刻まなければならないというものだ。・・・
もう一つ考えられる説明は、青年達は疲れを感知するために必要なメカニズムがまだ発達していないというものだ。・・・
青年の時は、朝は極めて退屈であるのに対し、夜は極めて面白い。だから、遅くまで起きていて楽しむ<、その結果疲れ果てて起きられなくなる、>というわけだ。・・・
青年達はどうしてやかましい音楽が好きなのか。
やかましい音楽は反抗の要素を持っているだけでなく、やかましい音楽を聴いていると、脳内へのドーパミンの分泌が増えることが明らかになっている、とベインブリッジは語る。・・・
<また、>「我々は誰でも、青年達が、第三者にはほとんど聞き取り不能な言葉をしばしばしゃべることを知っている。しかし、彼らは普通のコミュニケーションをしようと思ったら通常そちらに切り替えることができる」<とベインブリッジは言う。>
これは、恐らく青年達の前頭葉における言語能力の突然かつ急速な発達がもたらしたものなのだ。いや、それだけではなく、自己発見と自意識の発達にもよるのではないか、と彼は示唆する。
青年達は、帽子が落ちただけで説明がつかないほど怒ったりする。そして自分の寝室に駆け込んだり誰かの喉を刺したりするのだ。・・・
怒りと攻撃は進化上のメリットがあり、これを惹き起こすのは恐怖だ。
彼は、「青年期の恐怖は子供達と成人達のそれとは異なって」血中にホルモンが大量に分泌されることが、ことを悪化させている可能性があり、形成されつつある成人世界におけるヒエラルキーの中でしかるべき位置を占めようとする狂乱的試みである可能性があることを示唆する。性的フラストレーションが青年期の少年達を一層怒らせる。これらすべてはボスの座(dominance)を巡ってのことなのだ。・・・
青年達はまた、彼らすべての脳に大量に分泌されるホルモンによる効果と似た効果をもたらすものがあるということも一つの理由だが、タバコ、アルコール、コカイン、馬用の鎮静剤の誘惑と魅力に抗する力が弱い。
彼らは酔っぱらうと、成人よりも一層「社会的弛緩」状態になり、記憶も甚だしく薄れてしまう。彼らは成人よりも、後で後悔することをしでかす傾向がある。ただし、彼らは後悔しないとも言える。何と言っても、彼らは自分達が何をしでかしたかを覚えていないのだから。
少女達は、<少年達より>・・・18ヶ月も・・・早く成熟する。・・・
10台半ばの少女達は脚線美と曲線美を誇り乳房も膨らんでいるのに対し、同じ年頃の少年達は、「ちんちくりんでひょろひょろしていて見栄えのしないくすんだ体毛が生えている」ときている。・・・
これは、・・・12000年前には意味があったことだが、・・・近親結婚を回避するため、・・・種族の間で少女達が取引されるためだ。・・・
ベインブリッジは、「・・・取引されるのに一番良いのは、性的成熟(puberty)直前で、まだ少女達が処女で、しかし成熟しているように見えることで、買い手が彼女達の潜在的値打ちを値踏みできる時だったのだ」と語る。・・・
皮肉なことに少女達は、少年達より成熟しているように見えるけれど、女性の再生産機構は極めて複雑で仕事ができるようになるには長年月を要することから、実際には同じ年頃の少年達より未成熟なのだ。
(<ちなみに、少女達の>言語能力が早く発達するのは、家庭に入った少女は他の女性達と十分コミュニケーションができなければならないからだ。・・・)
<他方、>少年達は、成人男性の脅威にならないようにしていなければならない。・・・
仮に少年達が威張って歩き回っていたとしよう。そんなことをしていたら、年上の若手の成人男性達に袋だたきに遭うかもしれない。・・・
(ニキビも、あえて10台の少年達を非魅力的にすることによって、彼らが成人男性達の有力者達との間で競争関係が生じないようにするためであると考えられる。・・・)
<もう一つ考えられるのは、>ちょっと心理的に未成熟であることによって、少年達が、特に自分自身につい悩み過ぎ<て精神疾患に罹るようなことが>ないようにするためだ。・・・
「青年時代の恋愛関係がとりわけ激しいものになるのは、・・・思うに、我々は生物学的には、最初の恋愛、あるいはせいぜい2回目ないし3回目の恋愛で・・・生涯の配偶者との・・・番の成立に至るようにプログラムされているからなのだ」と彼は語る。・・・
近現代においては、人々が配偶者にもっと後になって出会うようになった。しかし、だからといって、脳があなた方が16歳くらいの時にそれを行うように設計されているという事実が変わったわけではない。・・・
もしあなたが少年でスポーツに秀でていたり、あなたが少女で見栄えが良ければ、あなたは恵まれている。しかし、だからといって何も問題がないというわけではない。驚くべきことに、どちらの性にとっても知性は重要度のリストにおいて極めて低い位置におかれているように見える。・・・
恥毛が生えるのは、性的臭いの吸収のためではなく、「<セックス>営業中」という看板が掲げられたということであり、また恐らくは<セックスの際の>擦れを防ぐためでもあろう。・・・
5 終わりに
最後にベインブリッジは、「我々は10台が、<客観的に見て、>人生において最も劇的で濃密で面白い季節であることを知らない。我々は、青年達を批判すべきではなく、むしろ彼らを祝福すべきなのだ」と締めくくっています。
私自身の青年時代を振り返ってみると、それは軽い鬱状態が続いた苦しい時代であり、私はこれまでそれは、自分が帰国子女で、日本の首都東京においてデラシネのよそ者であったからだと思い込んでいました。
しかし、ベインブリッジのおかげで、この私の青年時代は決して特殊なものではなかったということが分かりました。
皆さんは、このシリーズを読まれてどう思われましたか。
(完)
人間にとって青年期とは何か(その2)
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