太田述正コラム#14620(2024.12.4)
<浜口恵俊『間人主義の社会 日本』を読む(その15)>(2025.3.1公開)
「・・・”根回し”を中心とする稟議制度が成り立つためには、自らのセクションの視点のみに依拠するのではなく、関係部門の立場を配慮しようとする姿勢がなくてはならない。
つまり、「アウトサイド・イン」の原理が不可欠なのである。・・・
まず集団のまとまりを確保したうえで、組織目標の達成をはかる、というのが日本人の常套手段だ。
その場合、・・・聖徳太子の制定した十七条憲法の第一条<に言う>・・・”和”の精神は、欠くことのできない要件だとされる。
つまり”和”は、戦略的にみても、業績を上げることに直結しているのである。
より一般化していえば、調和を保つということが仕事をはかどらせ、前進を可能にするのだ。・・・
⇒十七条憲法に言う「和」は、私の言う人間主義のことである、というのが私の考えであり(コラム#14163)、調和は現代漢語では和諧ですが、中共の胡錦涛政権は2004年に「和諧社会建設に関する若干の重大問題に関する中国共産党の決定」が採択され、・・・2005年胡錦濤は、地方政府の幹部の討論会の講話において、社会主義和諧社会とは「民主、法治、公平、正義が実現されな誠心友愛にあふれ、活力に満ち、秩序が安定し、人と自然が互いに調和されている社会である」と述べた」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%92%8C%E8%AB%A7%E7%A4%BE%E4%BC%9A
ところですが、私は、それを2014年11月末の時点で既に、「儒教の復権や「和諧社会」は、人間主義導入への地ならしであり、習近平体制は本格的に人間主義導入を始めている」(コラム#7325)ととらえており、「和」を人と人との関係だけのことと受け止めている浜口は「和」を矮小化してしまっている上、比喩的にでもそれを「「集団」のまとまりを確保したうえで、組織目標の達成をはかる」こと、といった、日本人が集団主義的であると読者を誤解させかねない書き方をすべきではありませんでした。(太田)
アメリカ人が仕事そのものを組織化することに熱中するのに対し、日本人は仕事をするさいに人間を組織することから始める、といわれる(パッシン・竹村健一・加瀬英明『アメリカ人の発想・日本人の発想』昭54)<(注22)>。・・・
(注22)『アメリカ人の発想・日本人の発想―“合わせる”文化と“個”の文化 トライアングル対談』(徳間書店。1979年5月)
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A2%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%82%AB%E4%BA%BA%E3%81%AE%E7%99%BA%E6%83%B3%E3%83%BB%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AE%E7%99%BA%E6%83%B3%E2%80%95%E2%80%9C%E5%90%88%E3%82%8F%E3%81%9B%E3%82%8B%E2%80%9D%E6%96%87%E5%8C%96%E3%81%A8%E2%80%9C%E5%80%8B%E2%80%9D%E3%81%AE%E6%96%87%E5%8C%96-%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB%E5%AF%BE%E8%AB%87-%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%B3/dp/4191417622
ハーバート・パッシン(Herbert Passin。1916~2003年)は、「米国の文化人類学者、日本研究家。・・・シカゴ出身。イリノイ大学卒。1946年、GHQ職員として来日、民間情報教育局に配属され、日本に初めて世論調査の手法を紹介した。1951年帰国。1962年コロンビア大学教授。フォード財団顧問として多くの日本人学者の渡米を手助けし、1967年の日米民間人会議(下田会議)の発足に尽力した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%B3
日本の近代化は、実はこのような集団主義に基づいて達成された。」(47~50)
⇒パッシンらが、米国の文化を「「個」の」文化とし、日本の文化をそれと対照的な「合わせる」文化であるとしたのは、米国の方が日本よりも集団主義的らしいことが判明した(コラム#省略)以上は、その全てが誤りである、と言ってよさそうです。(太田)
(続く)