太田述正コラム#14805(2025.3.7)
<皆さんとディスカッション(続x6188)/映画評論280:検事ナンシーとハナハン巡査部長>

<HH>

 コメントありがとうございました。
 今ひとつわからないとの指摘の点と杉山構想における米国の対ソ防衛肩代わり戦略等について少々、補足します。

縄文人と弥生人との出会い

 太田説では弥生人は日本に侵攻することで地歩を築いたということだと思いますが、私は軍事的な侵攻は不可能だったのではないか、という仮説に基づいています。海図も羅針盤もない時代、そして船も少人数しか載せることができない時代です。天文知識、海流、風が吹く季節の把握といった地学的知識および目印となる島嶼の位置、1日にどれくらい進むことが体力面から妥当か、途中の補給する場所はどこにするか、というロジスティックス上のノウハウ、こういったものが乏しい集団が軍団的な行動で大陸から日本に侵攻できる可能性は著しく低いと思います(まして動物で多くの糧秣が必要となる馬を大量に持ち込むのは無理ではないかと思います)。逆に縄文人は確かに大規模な輸送こそできないまでも海洋渡航のノウハウを持って環日本海を中心に東支那海も含めて行動しいていたとの説があります。その目的は軍事ではなく交易でしょう。そして交易であれば農業技術も対象として購入し持ち帰ることができるのではないか。ただ貴金属のような動産ではなく技術ですから人の支援が必要で大陸弥生人を日本に連れてくる必要があった。その場合は軍団的な移動ではなくせいぜい家族レベルですから縄文人の丸木舟でも日本に連れてくることは問題ない、或いは大陸弥生人が使っていた奴隷を買ったのかもしれませんが、これも広義的に見れば交易の一種であります。これが仮説1。もう一つは東アジア各地に出没していた縄文人は当然ながら現地の人間と交流があった。その時に、部族として戦いに敗れ彷徨っていた集団がいた。彼らに救いの手を差し伸べ日本に連れていくことを提案した。そしてその対価として農業技術と軍事技術を手に入れた。いわば亡命貴族集団と提携し彼らを参謀として遇することで力を蓄えていった縄文人集団があり、それがやがて古墳時代の部族国家に繋がっていった、これが仮説2です。

⇒どんな形であれ、重要なのは比較的平和裏に(水田稲作技術をひっさげた、弥生的縄文人たる)弥生人が日本列島に到来した、ということだと思います。(太田)

杉山構想の終着点

 北海道が本土防衛から切り離されたのは対米開戦後であり、それは現実の戦争進行による状況の反映で杉山構想に当初から入っていたものではないのではないか、という点について、では何により米国による対ロシア防衛肩代わりのきっかけとなる状況の出来を構想していたかを考えてみました。
 まず杉山たちが構想していた戦略の最終的な開始点でもあり帰結点はいつ、何だったかということを考えました。そしてそれは時期は昭和16年であり、対米英開戦とそれによる世界的戦争の発動と見ます。

⇒いや、第二次世界大戦は、その2年も前の昭和14年に始まってますよ。
 英仏は、当時まだ世界帝国でしたからね。
 それはともかく、杉山構想には「最終的な開始点」などなく、1931年に本格的実施に移され、ほぼ予定通りに1945年に完了した、というのが私の見解です。(太田)

 そしてその時には当然ながら対ソ戦略も含まれていたわけで戦後のアメリカによる対ソ防衛肩代わりも視野に入れていたということに同意するとして、米ソ角逐の場所がどこがバイタルとなるか、それが北海道というのは率直にいってあまりに局地的で日本にとっては死活的であっても、米国にとっては(少なくともローズベルト政権的には)たかが北海道ですし、スターリン的にはもう少し食指を伸ばす動機はあったにせよ、米国と本気になって争うほどの地域でもないと思います。

⇒北海道より南に米軍がいなければ、ソ連軍が更に侵攻を続け、日本列島全体を支配下に置くだろうと米国が考えるのは必然である以上、米国は、米軍を本州以南に駐留させ、ソ連と対峙状態に入らざるをえないだろうと杉山元らは見通していた、というのが私の考えです。
 貴兄が、日本(列島全体)なんて、当時の諸大国が「本気になって争うほどの地域でもな」かった、とお考えだとすれば何をかいわんやですが・・。(太田)

 では、杉山構想における米ソ対立を内包するピースは何か、それはドイツの対米宣戦布告ではないでしょうか。3国同盟における参戦の強制力は薄く、であるが故に日本は対英開戦をしなかった。同じ理屈でドイツも対米開戦をすぐに行う必要はなかった。にもかかわらず対米開戦後すぐにドイツは対米宣戦布告をしています。これを駐独日本大使館の工作の成果だと考えればどうでしょうか。時の大使は現役陸軍将官である大島中将です。彼に杉山構想が明かされていたとは思えませんが杉山が駒として彼を使った可能性は充分あります。

⇒大島なんぞの出る幕はありません。チャーチルの英国政府が、日本が対米英開戦をした時に小躍りした(典拠省略)のは、米国が対独開戦することを(杉山元らと同様)確信していたからであり、ドイツの対米宣戦布告いかんにかかわらず、米国は対独宣戦布告もしたはずです。(太田)

 そして元々、欧州政治軍事の専門家であった杉山から見ればドイツの敗戦はアメリカの参戦があれば火を見るより明らかであり、また当時の国力分析からも戦後の欧州政治は相当程度、アメリカの影響下に置かれること、そして結果として欧州大陸全般で対ソの対立が表面化するであろうし、その影響が極東に及ぶこともまた自明。その時、日本がアメリカの影響下にあれば当然、アメリカが軍事的に対ソ防衛の主体となるコミットメントがあるだろう、それが島津斉彬コンセンサス中における対露防衛に関する杉山構想の回答だったのではないでしょうか。

⇒ですから、「その時、日本がアメリカの影響下にあ」るように、杉山構想は作られていたはずだ、と、思いませんか?(太田)

北海道侵攻作戦

 こちらは文官とはいえ軍事官庁にいた太田さんに素人の講釈になるのですが、航空戦の優位が必要なのは上陸用艦艇の保護のためだと思います。その点で軍事集団が上陸するのは或いはできるかもしれません(私は海上特攻作戦が北海道上陸阻止で実施された場合、それは相当困難だと思いますし機雷の敷設もあり得ると思いますが、それらは想定しないとします)。

⇒ソ連の航空優勢下では海上特攻も機雷敷設も殆どできませんよ。(太田)

 また軍事作戦の優劣については私の知識は皆無ですので、対空防衛も含む帝国陸軍が陸上戦闘能力について軍事上の優位にあるなしも考慮していません。ただ、一点、ロジスティックスの維持、特に冬季における海上補給の維持は結氷するオホーツク海では事実上、できないと思いますし、上陸して物資を収奪しようにも冬季の北海道では万単位の人員及び移動車輌の需要を満たす食料や燃料を住民の協力なしに確保するのが困難です。それらを先祖が屯田兵由来の北海道民が簡単にソ連に協力するとは、それこそ考えられないのではないでしょうか。大軍を擁した米軍ですら沖縄戦で相当の苦戦をした本土決戦です。逆にゲリラ戦で孤立した部隊が翻弄されるのがオチだと思います。

⇒終戦当時って8月半ばでしたが・・。
 オホーツク海が結氷するまでには北海道での正規戦は、ソ連勝利で終わったことでしょう。
 ゲリラ戦?
 太平洋諸島での正規戦が終わってからのゲリラ戦なんて、挿話的に語られるだけですよね。
 なお、いかなる季節であれ、日本側は津軽海峡等を渡っての兵站補給がソ連の航空優勢下ではできない一方、ソ連側は、空中からの補給は常にできたであろうことを付け加えておきます。(太田)

中共の法治主義の欠如について

 これについて太田さんは中共による人間主義の普及に期待して彼らの施策に対して全般的に少々、採点が甘いのではないかという感想も正直ありますが、それはともかく、支那大陸において早くに人間主義が醸成されるべきだ、という視点で考えると支那人特有の一族郎党主義の早急なる克服、それらから脱して社会への帰属意識の普及醸成が不可欠であり、そのためにはえこひいきや恣意的な判断基準の横行は速やかに退治して行くべきでしょう。有事の有無というのを理由にするのは15年前に終わっていたと思います。もう中共の実力はそこをつけ込まれるほど弱くなはいでしょうし、少なくとも大日本帝国の大正時代と比べても十分な世界的プレゼンスと国力はあると思います。汚職の撲滅はやっているので、その次といった順位づけではなく同時並行で進めるべき課題だと思います。であるから怠慢であると考えるのです。

⇒中共人民は、いまだにその過半は阿Q(漢人的非人間主義者)だと私は見ていますが、中共当局からは、被統治者の過半が潜在的犯罪者/(通敵者を含む)反逆者であると見えていると想像され、だとすれば、中共当局が、法治主義の徹底は、犯罪/反逆への抑止力を著しく低下させる、と、考えたとしても理解はできる、ということです。
 日常生活で阿Qと接した経験がないとなかなか理解できないでしょうが、ぶっちゃけ、彼ら、アタマが我々並みのズル賢い人非人達であり、こんな連中を統治しなければならない中共当局に、深甚なる同情の念を禁じ得ません。(太田)

<太田>

 安倍問題/防衛費増。↓

 <彼らの論理に照らしてさえマチガイ。↓>
 「「由々しきことだ」 仏大統領の“核の傘拡大発言”に被爆者ら憤り・・・」
https://news.yahoo.co.jp/articles/333d7cd1de526bcadd9300e71da96f191ecd8ce1
 ・・・France and the UK are the only two countries on the European continent which have nuclear weapons. Currently France has just short of 300 nuclear warheads, which can be fired from France-based aircraft or from submarines.
 The UK has about 250. The big difference is that the French arsenal is sovereign – i.e. developed entirely by France – whereas the UK relies on US technical input.・・・
 French presidents going back to de Gaulle himself have all hinted that some European countries might de facto already be under the umbrella. In 1964 de Gaulle said that France would consider itself threatened if, for example, the USSR attacked Germany.
 So in one way there is nothing new in Macron suggesting a European dimension to France’s deterrent.
 What is new, according to defence analysts, is that for the first time other European countries are also asking for it.・・・
https://www.bbc.com/news/articles/c871e41751yo
 <いかなる意味においてもその通り。↓>
 「自衛隊「制服組」を国会答弁から排除すべきではない・・・」
https://news.yahoo.co.jp/articles/cbf10ec5ad6e1c017316c99d247ce1222e6d12ad
 <片務性を是正しようとするのなら手段が逆。在日米軍を廃止しその分米軍を削減すべきなんだよ。↓>
 「日米安保条約は「片務的」 トランプ氏が不満表明、防衛費増額迫る可能性も・・・」
https://www.sankei.com/article/20250307-H7KUUQKYBJKIFA4MNKX4ONXEVE/

ウクライナ問題/ガザ戦争。↓

 なし。

 妄想瘋癲老人米国。↓

 <慶賀の至り。↓>
 A Trump recession has become a real possibility–Widespread tariffs and swift government cuts add pain to an already slowing economy.・・・
https://www.washingtonpost.com/opinions/2025/03/06/trump-recession-tariffs-layoffs/

 それでは、その他の国内記事の紹介です。↓

 こーゆー記事を載せ続ける、永久に悔い改めないらしいNYタイムス。↓

 A Plea for Justice for Japan’s So-Called Comfort Women–Mina Watanabe has made it her life’s work to tell the stories of the women who were sexually enslaved by the Japanese military before and during World War II.・・・
https://www.nytimes.com/2025/03/06/world/asia/women-japan-comfort-women.html

 非業の最後を迎えたのは、武道は身につけたが兵学の研鑽を怠ったんだろうなあ。↓

 「・・・第13代将軍・・・足利・・・義輝は、関東の剣客・塚原卜伝(つかはらぼくでん)が上洛して都にいることを知ると、卜伝を屋敷に招き武技を教わった。その結果、卜伝の新当流の奥義を伝授されている。さらに、新陰流を開いた上泉伊勢守(後に武藏守)信綱からも、その秘技・奥義を得ている。信綱が上州から上洛すると、義輝はすぐに「花の御所」と呼ばれていた二条の新御所に招いた。信綱は、義輝の上覧に供したが、その時に信綱の相手(打太刀)を務めたのは、後に体捨(たいしゃ)流の祖となる九州・人吉、相良家の臣・丸目蔵人佐であった。こうして義輝は、新陰流も自らの武技に加えた。・・・」
https://news.yahoo.co.jp/articles/b3d67f2e409f8a20cd67b282055ff71beff737b0

 日・文カルト問題。↓

 <文カルトのカガミ。↓>
 「横領した慰安婦寄付金を返さない尹美香元議員…有罪判決確定後も和解勧告を拒否・・・」
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2025/03/06/2025030680107.html
 <文カルト、逃げ隠れすんなー。↓>
 「有罪判決の韓国元国会議員、元慰安婦への支援金の返還を拒否・・・韓国・毎日経済・・・
 この記事を見た韓国のネットユーザーからは「ずうずうしい人」「こんな人が国会議員だったなんて」「拒否するなら無理やり奪ってでも取り戻さないと」「元慰安婦への支援金をだまし取るなんて人間のすることではない」「旧日本軍よりひきょうで醜い」「元慰安婦の敵は日本だろうか?泥棒は別にいる」「財産を強制的に没収し、韓国から追放せよ」など怒りの声が上がっている。」
https://www.recordchina.co.jp/b949643-s39-c10-d0191.html
 <日韓交流人士モノ。↓>
 「韓国制作会社SLL テレ朝とドラマ「魔物」を共同制作・・・」
https://jp.yna.co.kr/view/AJP20250306003500882?section=entertainment-sports/index
 <何はともあれ、健闘を称える。↓>
 「韓国の1人当たり国民所得は世界6位、また日本を上回る・・・韓国・イーデイリー・・・韓国ネット「なぜ体感できない?」・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b949597-s39-c20-d0191.html

 中共官民の日本礼賛(日本文明総体継受)記事群だ。↓

 <人民網より。
 ・・・。↓>
 「・・・南京市にある中国侵略日本軍南京大虐殺遭難同胞紀念館(以下、「紀念館」)で今月5日、中国と外国の若者たちが「平和の鐘」を鳴らしたほか、紀念館の南京大虐殺史料陳列ホールを見学。さらに、歴史的事実である南京大虐殺について伝える「紫金草ボランティア」チームに加入した。中国新聞網が報じた。・・・」
http://j.people.com.cn/n3/2025/0306/c94475-20285570.html
 <ここからは、レコードチャイナより。
 定番だが、とにかく、総体継受継続中。↓>
 「中国のSNS・小紅書(RED)に・・・、「日本の道路で出会った男の子」と題する動画が投稿され、反響を呼んだ。・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b949574-s25-c30-d0052.html
 <片面的日中交流人士モノ。↓>
 「羽生結弦さんと米津玄師のコラボが中国でも大反響!「天才と天才」「30歳でビールマン、すごい」・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b949640-s25-c50-d0052.html
 <反日中交流人士モノ。↓>
 「ONE N’ONLYの上村謙信、香港で逮捕報道=日本のネット民「フェイクニュース」―香港・・・01・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b949635-s25-c30-d0193.html
 <健闘を称える。↓>
 「BYD、ジャパンEVオブザイヤーで2年連続グランプリ・・・中国メディアの快科技・・・中国ネット「日本での高評価は高品質の証し」・・・」
https://www.recordchina.co.jp/b949632-s25-c20-d0192.html
 <猫なで声の習ちゃん。↓>
 「中国メディアの環球時報は・・・、「石破茂内閣の外交政策はなぜ『ねじれている』のか?」と題する論評記事を掲載した。・・・」

https://www.recordchina.co.jp/b949641-s25-c10-d0052.html

        –映画評論280:検事ナンシーとハナハン巡査部長–

 今回の『検事ナンシーとハナハン巡査部長』(Black Widower)は、実話に基づく2006年の米・加テレビ映画で、
https://ameblo.jp/asukagirara/entry-12885758621.html
それなりに面白かったけれど、実話はこの映画よりもっと奇なりだった、という視聴者による映画評が下掲に出ている。
https://www.imdb.com/title/tt0482468/
 実際、事実は小説より奇なり、であることよ、と、太田コラムの日本史再解釈に接して思ったコラム読者も少なくないのではないか。
 日本の歴史学者や政治学者達のみならず、歴史小説家達でさえ、日本史をつまらなくつまらなく解釈してきたことは、不思議であり、遺憾でもある。
 ところで、監督のクリストファー・レイチ(Christopher Leitch。1974年~)だが、監督作品が多数あるのに、独や仏語ウィキペディアはあっても英語のがなく、しかも、どちらのウィキペディアにも出身地や学歴等が載っていない
https://www.bing.com/ck/a?!&&p=786c5ec86ac6ea8b1c6a745c2250e98529b99f4d8fcef433dbd17df5507e2bdaJmltdHM9MTc0MTIxOTIwMA&ptn=3&ver=2&hsh=4&fclid=00cb7a4f-890f-66e8-130d-6f15880a6721&psq=Christopher+Leitch%e3%80%80wikipedia&u=a1aHR0cHM6Ly9mci53aWtpcGVkaWEub3JnL3dpa2kvQ2hyaXN0b3BoZXJfTGVpdGNo&ntb=1
https://www.bing.com/ck/a?!&&p=67a2dae382c16e73cae380a20c67af43bea0f6178228be90fecccbcaa6a8b3c0JmltdHM9MTc0MTIxOTIwMA&ptn=3&ver=2&hsh=4&fclid=00cb7a4f-890f-66e8-130d-6f15880a6721&psq=Christopher+Leitch%e3%80%80wikipedia&u=a1aHR0cHM6Ly9kZS53aWtpcGVkaWEub3JnL3dpa2kvQ2hyaXN0b3BoZXJfTGVpdGNo&ntb=1
のは、一体、どういうことなのだろうか。

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太田述正コラム#14806(2025.3.7)
<遠藤誉『毛沢東–日本軍と共謀した男』を読む(その5)>

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