太田述正コラム#14634(2024.12.11)
<浜口恵俊『間人主義の社会 日本』を読む(その22)>(2025.3.8公開)

 「・・・日本人にとっては、他者との共存的生活形態を確信することなしに、自己の生存意義を見いだすことはむずかしい。
 いいかえれば、日本人はそれぞれ、何人かと親密な間柄(おたがいに拒絶される恐れをもたずに要求をだしあえるような関係)をもつことによって、はじめて安堵し、そしてその間柄での交渉を保つことに、もっとも基本的な生きがいの領域を見いだすのである。・・・

⇒何らかの典拠が必要なくだりです。
 Bingで「生きがい」を検索してトップにヒットしたサイトでは、「生きがいを見つける方法のひとつとして、まずは考え方について」として記述されている最初の2つは「内観」「周囲に流されない」、ですし、「人生の生きがいを見つける方法・・・行動・習慣」として記述されている最初は「あなたにとって良い人間関係を築くことができない付き合いかたをしている人は整理する必要があります。あなたの生きがいを見つけるためにこれまでの環境を変えて人間関係を変えてみる」ですし、
https://spicomi.net/media/articles/1108
 その次に来る「生きがい」のウィキペディアは飛ばしてその次の三番目にヒットしたサイトでは、「生きがいがない人に見受けられる特徴」として記述されている6つのうち、人間関係に言及しているのは、最後の1つであるところの、「恋愛経験が少なく異性と話すことも苦手」だけです。
https://smartlog.jp/149639
 よって、浜口のこのくだりの主張を否定する典拠ばかりの感があるのですが・・。(太田)

 ”子を生き甲斐とする母”と、”心の支えとしての母”をもつ子との相補的な関係は、われわれ日本人の親子関係の、一つの基底をなすものであった。・・・」(88)<山>村賢明<(注37)>『日本人と母』)<(注38)>。」(88、92)

 (注37)よしあき(1933~2002年)。東京教育大卒、同大博士(教育)、同大助手、埼玉大助教授、筑波大教授、立教大教授、文教大教授。「土居健郎などに基づく日本文化論を唱え、茶道を研究、実践した。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E6%9D%91%E8%B3%A2%E6%98%8E
 (注38)1971年。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/eds1951/40/0/40_0_9/_pdf/-char/ja

⇒ 「松原治郎<(注39)>・・・は 「ここで得られたコンセプションズが,’日本人の’それであることの検証は,… …不十分」<であり、>・・・もしかしたら 「万国共通の母の観念」かもしれない。そういう危惧から・・・,それを「日本人の」母の観念にもってゆくためには,さらになにかの経験科学的実証が必要なのではないかとし<た>」(上掲)ところ、私も、全く同感です。

 (注39)はるお(1930~1984年)。東大卒、東京学芸大助教授、東大教育学部助教授、教授。「家族、青年問題などで積極的に発言。農村の実地調査など積極的に行い、地域社会学(コミュニティ社会学)に関して広く研究成果を発表し・・・た。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%BE%E5%8E%9F%E6%B2%BB%E9%83%8E

 その上でですが、例えば、「食事の世話,勉強を教えるなどで日本は,「主に母親がする」という回答が最も多かった.欧米3力国では「両方」が圧倒的に多い結果と比べると,父親の子育て参加率は日本では非常に低い.父親は,専ら「生活費を負担する」役割を果たしており,「男は仕事,女は家事 ・育児」の性による役割分業が,韓国とともに明確にみられ<る>」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhej1987/46/4/46_4_391/_pdf
ことについてですが、これは、母子関係が親子関係の基底、的な山村/浜口の主張を裏付けるデータと見るべきでは必ずしもなく、日本が女性優位社会であることを裏付けるデータの一つと見るべきではないでしょうか。(太田)

(続く)