太田述正コラム#14664(2024.12.26)
<浜口恵俊『間人主義の社会 日本』を読む(その31)>(2025.3.23公開)

 「・・・日本の「家」が、アジアの他の家族形態と非常にちがった、独自の構造をもつことは、多くの研究者の私的するとおりである。
 それは、直系家族(stem family)<(注56)>の形態をとる生活共同体を指しているが、中国やインドにおける、拡張家族(extended family)や合同家族(joint family)のような大家族的な居住形態とは、まったく構成原理を異にしている。

 (注56)「親(夫婦)と未婚の子供、および既婚の子供であり跡取りである一組の子夫婦とその子供からなる家族で、跡取りとの同居を世代的に繰り返すことにより家系が直系的に維持されることから、この名を得た。直系家族は合同家族とともにアメリカの人類学者G・P・マードックによる拡大家族の概念に含まれる。
 直系家族はフランス、ドイツ、アイルランド、イタリア(南部)、スペインなどのヨーロッパ諸国、および日本、韓国、タイ(北東部)、フィリピンなどのアジア諸国の農村に広くみられるが、継嗣(けいし)の選び方、家産の相続の仕方など直系家族形成の面で多様性があり一定しない。時間の経過の側面から長期的に直系家族の形態的変化を考察すると、老親の没後に次期の直系家族形成までの間、短期間ではあるが同じ家族が核家族の外観をとる時期のあることがわかる。つまり直系家族は固定した家族形態でなく家族周期の一段階でもある。・・・
 <なお、>日本の家は厳密な意味で父系とはいえず,非単系とみるべきであ<る。>」
https://kotobank.jp/word/%E7%9B%B4%E7%B3%BB%E5%AE%B6%E6%97%8F-98416

⇒「注56」の「なお」書き以外の部分を踏まえれば、この限りにおいては、「日本の「家」が、アジアの他の家族形態と非常にちがった、独自の構造をもつ」という言い方は誤解を呼ぶと思います。
 世界的には、日本の「家」は極めて一般的なものだからです。
 日本の「家」の独自性は、「なお」書き部分、すなわち、「父系とはいえ」ない点、と、下出の、構成単位が「個人ではなく・・・個々の「家」」である点と、その「家」に「非血縁者の「家」も包含されている点」にあるのです。(太田)

 中根千枝の表現を借りれば、前者が「継承線を基盤とする家族」であるのに対して、後者は、「兄弟の連帯を基盤とする大家族」なのである・・・。
 親族体系レベルで比較してみても、日本における「家」の連合体としての「同族」は、中国での「宗族(tsung tsu)」<(注57)>、朝鮮での「宗中(Jongjung)」<(注58)>、さらにはヒンズー・インドの「ゴートラ(gotra)」<(注59)>などのリネイジ(クラン)とも違っている。

 (注57)そうぞく、しゅうぞく。「父系同族集団のこと。古代東アジア法とローマ法に存在した。
 <支那では、>同姓不婚の原則に立ち、女系は含まない。・・・
 族長のもとに族譜を有し、宗祠を設け、族産をおくものが多く、特に華中・華南に普及した。宗族という言葉や理念は儒教体制が浸透した朝鮮半島やベトナムにも伝わって、定着している。逆に日本では氏姓社会が比較的維持されたまま、儒教体制を取り入れたために宗族制は形成されずに中国や朝鮮半島とは異なる儒教観・家族観が形成されることとなる。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%97%E6%97%8F
 (注58)「宗中」ではネットでヒットしない。朝鮮語で検索するしかないのかも。
 (注59)「インドのバラモン(ブラーフマナ)の氏族の総称。伝説的始祖を同一とする血縁集団のこと。ゴートラ名は一般に、その人の家族からさかのぼることができる父系一族のうち最も古い祖先と考えられる聖仙(リシ)の名であるが、祖先から伝わる職業名や居住村名の場合もある。・・・
 同一<ゴートラ>における結婚を禁じた。一方、ヒンドゥー社会では同一のジャーティ(カースト)のなかでの婚姻が推奨され、「ジャーティ内婚、ゴートラ外婚」が顕著に指向される。族外婚はアーリア人のインド来住以前の慣習だったと考えられており、当初はゴートラもバラモン(ブラーフマナ)に限定されなかったと推定されるが、祭式にかかわるヴェーダ文献においてゴートラの制度がととのえられ、バラモンに限るものとされた。・・・ゴートラ内婚姻は、21世紀においても一部の地方ではしばし名誉の殺人を引き起こしている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B4%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%A9

 「同族」の構成単位は、親族成員である個人ではなく、それに加入する個々の「家」なのである。
 すなわち、本家や分家、孫分家(分家の分家)、奉公人や小作人などの家を、その構成メンバーにしている。
 そのばあい留意すべきことは、「同族」には非血縁者の「家」も包含されている点である。」(202~203)

(続く)