太田述正コラム#14678(2025.1.2)
<木村敏『人と人との間』を読む(その6)>(2025.3.30公開)

 「・・・諸民族の生き方・・・の多様性、その民族的差異は、どのようにして説明されうるのだろうか。
 この興味深い問題に学問的な考察を加えた先駆者は、ヨーハン・ゴットフリート・ヘルダー<(注5)>であ<り、その著書(注6)において>・・・であった・・・。

 (注5)Johann Gottfried von Herder(1744~1803年)。「ドイツの哲学者・文学者、詩人、神学者。・・・カントの哲学などに触発され、若きゲーテやシュトゥルム・ウント・ドラング、ドイツ古典主義文学およびドイツロマン主義に多大な影響を残すなどドイツ文学・哲学両面において忘れることの出来ない人物である。優れた言語論や歴史哲学、詩作を残したほか、一世を風靡していたカントの超越論的観念論の哲学と対決し、歴史的・人間発生学的な見地から自身の哲学を展開し、カントの哲学とは違った面で20世紀の哲学に影響を与えた人物としても知られている。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%B4%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%80%E3%83%BC
 (注6)Ideen zur Geschichte der Menschheit。’a historical-philosophical treatise by Johann Gottfried Herder, which was published between 1784 and 1791 by Johann Friedrich Hartknoch in four parts. Herder, who, along with Goethe, Schiller and Wieland, is counted among the “quadruple” of Weimar Classicism, summarised in the treatise his findings about the earth and man, “whose sole purpose of existence is directed towards the education of humanity, which all the low needs of the earth should only serve and lead to it”.’
https://de.wikipedia.org/wiki/Ideen_zur_Philosophie_der_Geschichte_der_Menschheit 独→英Google翻訳
 2023年9月15日付で岩波文庫から5分冊で『人類歴史哲学考』と題して邦訳が上梓されている。
https://www.iwanami.co.jp/book/b631511.html

⇒木村は、「注6」の本の刊行年を1794年としていますが、この本の種本とでも言うべき、ヘルダーの1794年の’Auch eine Philosophie der Geschichte zur Bildung der Menschheit (Also a Philosophy of History on the Education of Mankind)’(上掲)と混同しているのではないでしょうか。(太田)

 ヘルダーは、この地球上の至るところで、それぞれの身体的・精神的特徴を備えた諸民族が、それぞれに固有の歴史を形成しているという事実の基礎に、それぞれの土地に見られる特徴的な風土(Klima<(注7)>)の、人間形成への関与があるものと考えた。

 (注7)climate、atmosphere
https://dictionary.reverso.net/german-english/Klima/forced

 人間は、さまざまな風土の中で、自己自身をさまざまに風土化(Klimatisieren)する。」(83)

⇒ヘルダーは神学者でもあり、神、と、様々な形で風土化させられた人間諸集団、とを対峙的に対置させていると考えられるところ、私は、人間の本性たる人間主義(縄文性)、と、その堕落の程度に応じた堕落形たるところの、弥生的縄文性、縄文的弥生性、弥生性、とを因果論的に「対置」させている、という点で、大きな違いがあるわけです。
 但し、私の場合も、風土を無視しているわけではなく、縄文性、弥生的縄文性、縄文的弥生性、弥生性、それぞれの維持に風土も関わってきますし、弥生的縄文性、縄文的弥生性、弥生性、それぞれの諸タイプの形成に風土も関わってきます。(太田)

(続く)