太田述正コラム#3120(2009.2.26)
<アカデミー賞報道(その3)>(2009.4.8公開)
 米タイム誌が「おくりびと」の受賞を大々的にとりあげたので、紹介しておきましょう。
 「・・・<ある日本人映画評論家は、>日曜日の受賞は日本映画がエキゾティシズム的な感覚でとらえられる時代が終わったことを意味している」と語った。・・・
 ・・・日本映画は、昨年400本以上が日本国内で封切られた。今やその数は外国映画を上回り、競争が激化したことで徐々に映画の質が高まり、「おくりびと」のように頂点に上り詰めるような映画を出現する環境が形成されたのだ。・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1881620,00.html
(2月26日アクセス)
3 英国
 「・・・予期されぬ「スラムドッグ」の勝利は、英国のオスカー歴における最高記録の一つとなった。すなわち、<獲得オスカー数は、>「恋に落ちたシェークスピア」より一つ多く、「イングリッシュ・ペイシェント」の9つには及ばなかった・・・。・・・」
http://www.guardian.co.uk/film/2009/feb/24/slumdog-millionaire-oscar-win
(2月24日アクセス。以下同じ。)
 「それは「炎のランナー(Chariots of Fire)<(1981年作品賞受賞)>」以来の英国にとっての最大の勝利だった。・・・
 英国人達はオスカー受賞の常連だ・・・。
 <スラムドッグ>に加えて、2009年のオスカーの一つは、文字通り歓迎すべきことに、フィリップ・ペティット(Philippe Petit)・・1974年にニューヨークのツイン・タワーの間を綱渡りした男・・に関する英国のドキュメンタリーたる’Man On Wire’に与えられた。
 この映画こそ、私はあえて言うが、・・・表彰式において栄誉を称えられるべき最高の映画だ。またこの映画は、9.11<同時多発テロ>の傷を癒す役割を演じてきたと言ってよかろう。・・・
 ウィンスレットは受けて当然の賞を与えられた。もっとも私は、「燃え尽きるまで(Revolutionary Road)」での彼女の演技に対してこの賞が与えられてしかるべきだったと思わざるをえない。はるかに優れたこの映画における、彼女のより優れた演技に対して・・。・・・」
http://www.guardian.co.uk/film/filmblog/2009/feb/23/oscars-danny-boyle
 「ゴードン・ブラウン<英首相>は、ダニー・ボイルのムンバイを舞台にしたロマンスが8部門で受賞したことと、’The Reader’におけるウィンスレットの最優秀主演女優賞受賞は、英国が世界をリードする才能ある人々を擁していることを示した、と語った。・・・
 「私は幸運なことに[スラムドッグ$ミリオネア」を自分自身観ており、この映画がどうして世界中の人々の想像力をとらえたのか分かっている。この映画の成功は当然のことだった」とも。・・・
 「スラムドッグ$ミリオネア」の成功は、この映画のスポンサー<の一つ>となったところの、経営が苦しい<英国の>フィルム4にとって神風になるかもしれない。この映画会社は近年立て続けに政府補助金を削減されてきてたところだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/film/2009/feb/23/oscars-2009-british-triumph
 「「おくりびと」は同夜の意外な勝利だった。というのも、イスラエルのアニメ入りのドキュメンタリーの「戦場でワルツを」が最優秀外国映画賞をとるとみんなが考えていたからだ。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7905303.stm
 「・・・「スラムドッグ$ミリオネア」は完全に英国製の映画(film with wholly British backing)の作品賞受賞としては1947年以来のものだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2009/feb/25/american-cinema-trash
(2月25日アクセス)
 「長年なかったことだが、経験豊富なアカデミー賞評論家達は、この<「スラムドッグ」という>映画は、巧まずして世に出たものだと異口同音に言う。・・・
 「スラムドッグは人々が知っている俳優達が出ているわけではないのに映画俳優組合の最高賞を受賞した。また、編集組合賞も受賞したけれど、「ベンジャミン・バトン 数奇な人生(The Curious Case of Benjamin Button)」の半分も編集なんてしていない。私にはこれがすべてを物語っていると思う」と・・・は結論づけた。・・・」
http://www.guardian.co.uk/film/filmblog/2009/feb/24/oscars-danny-boyle
(2月25日アクセス)
 「・・・<「スラムドッグ」に出演した>9歳の・・・は、今一つ部屋のあばら屋に家族と住んでいるし、10歳の・・・の家族の家は、防水布で覆っただけで混雑する道路<の片隅>にあり、つい最近<ムンバイの市当局によって>片付けられた。・・・
 <しかし、これらの子供達の栄誉を称えて、ムンバイ市はこの二つの家族に家を提供することになった。>・・・
 この二人の子供達は、当地の平均賃金以上でこの映画の撮影のために30日間働いたが、監督のダニー・ボイルは、彼らを搾取したのではないかとの嫌疑を強く否定している。
 彼らの教育のための基金が設立され、彼らは初めて学校に通学を始めた。
 この映画の制作者達は、この二つの家族のためにレンガとモルタルづくりの家を提供すると約束していたが、これに代わって当局が乗り出してきたわけだ。・・・
 ムンバイの総人口の半分前後がスラムに住んでおり、マハラシュトラ州の諸当局は、かねてよりムンバイの状況を改善するよう圧力をかけられてきた。」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/7909660.stm
(2月26日アクセス)
 英国も鼻高々な様子がお分かりいただけたことと思います。
 それと同時に、旧宗主国として、英国がインドに抱く並々ならぬ思い入れも感じ取っていただけたのではないでしょうか。
 それにしても、今回のアカデミー賞自体が、受賞した映画以上にドラマティックでしたね。
4 終わりに
 最後に、紹介しきれなかったけれども読み応えある記事が他にもあったのでURLだけご紹介しておきます。
http://www.guardian.co.uk/film/2009/feb/23/oscars-results-slumdog-kate-winslet
(2月24日アクセス。以下同じ。)、
http://www.guardian.co.uk/film/2009/feb/23/india-celebrates-slumdog-millionaire-oscars-victory
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/7905228.stm
http://www.ft.com/cms/s/0/3a2c1ea6-0167-11de-8199-000077b07658.html
↑は、邦訳↓があります。
http://news.goo.ne.jp/article/ft/entertainment/ft-20090223-01.html
(完)