太田述正コラム#14682(2025.1.4)
<木村敏『人と人との間』を読む(その8)>(2025.4.1公開)

 「・・・問題は、この地球上のさまざまな土地に、さまざまな文化が発生し、その発生のそこにさまざまな風土の様相があるという、この多様性はどうして出て来たか、ということである。・・・
 ヘルダーは、「人類はこの地上にかくも様々な形で現われていながら、しかもすべて同一の人類である」(『イデーン』・・・)という前提から出発して、「この唯一の人類が地上の至るところで自己を風土化している」(・・・)と言う。
 しかし私は、この前提に疑問を感じている。
 はたして私たちは、すべて同一の人類の一員なのであって、たまたま日本という土地に住みついた日本人の血を受けているが故に、自己を日本的に風土化しているのであろうか。
 自己を風土化する以前の、白紙の状態の人間というようなものが考えられるのであろうか。・・・
 日本人はすでに日本人として、ヨーロッパ人はすでにヨーロッパ人として、生まれて来るのではないのか。・・・
 人間は自己を白紙の状態から風土化するのではなく、生まれた時から、いわば、生まれる前から、すでに風土の一部なのではないのだろうか。・・・
 私は、この地球上にこの地球上に多種多様の風土があり、多種多様の文化があるということのそこには、「すべて同一の人類」ではなくて、多種多様の人間があり、多種多様の生き方があるのだと思う。・・・

⇒これは、人種が、最近の言葉で言えば、ハプログループ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97
が、風土を規定する主要要因の一つである、との主張であると言ってよいと思いますが、これは、個々の人間が違っている部分を個々の人間に共通する部分よりも重視する姿勢であり、この点においては、私は、木村よりも、人間に共通する部分を重視するヘルダーに共鳴します。
 もちろん、ヘルダーと私の間にも、それ以外の点で大きな違いがありますが・・。(太田)

 日本の風土と西洋の風土を比較してみて、直感的にまず了解されることは日本の風土の非合理性と断続性であり、これに対する西洋の風土の合理性と連続性である・・・。・・・
 <これは、>和辻もすでに指摘している風土の多面的な二重構造に現われている。
 すなわち日本の風土の特徴をなす湿気は、自然の恵みであると同時に自然の暴威をも意味し、また日本の風土そのものが熱帯的であると同時に寒帯的であり、さらに日本の気象の変化は(台風によって具体的に示されるように)季節的である反面突発的でもある。<(注8)>」(88~90、102~103)

 (注8)「日本の気象の特徴・・・は・・・世界一の豪雪地<であること、>・・・湿度が高い国<であって、>・・・ジメジメした梅雨と、蒸し暑い夏<を持っていること、>・・・[主に夏から秋にかけて<、>]猛烈な勢力を保ったまま<の>・・・台風の襲来数が桁違いに多い<国であること、です。>」
https://study-z.net/100184494
 「日本は、世界の面積の1%にもならない国なのに、・・・世界の地震の約10%が、日本やその近くで起こっている<という>・・・世界有数の地震国なのです。・・・。津波はおもに地震によって起こる波のこと<ですが、このためもあって、>日本は世界でもっとも津波におそわれやすい地域で<もありま>す。」
https://jishin.go.jp/main/pamphlet/kodomopanf/jishin02.pdf
 「日本の大部分は温帯に属する。
▪地中海性気候:夏は乾燥し,冬は比較的降水量が多い。
▪西岸海洋性気候:大陸の西岸などに見られる気候。ヨーロッパの大西洋岸では,年間を通して吹く偏西風と暖流の北大西洋海流の影響により,緯度の高さの割に温暖である。また,年間を通して平均した降水がある。
▪温暖湿潤気候(温帯湿潤気候):大陸の東岸などに見られる気候。気温の年較差が大きく,年降水量が多い。日本各地の気候はほとんどが温暖湿潤気候にあたる。」
https://www.zkai.co.jp/jr/wp-content/uploads/sites/17/2022/11/c1s.pdf ([]内も)

⇒「注8」を踏まえれば、木村の(事実上日本の気象論であるところの)日本の風土論は、印象論の域を出ないシロウト談義である、と、言っていいでしょう。
 日本の「風土<は、決して>多面的<で>二重構造」的ではありませんし、「季節的である反面突発的でも」なく、また、「熱帯的であると同時に寒帯的で」もないからです。(太田)

(続く)