太田述正コラム#14698(2025.1.12)
<木村敏『人と人との間』を読む(その16)>(2025.4.9公開)
「多くの神経症症状の中で、対人恐怖症<(注20)>ほど日本的人間性の構造を反映した症状はなく、またその日本的特性について、これほどよく考察の行なわれている病像も他にはない。
(注20)「対人恐怖症・・・、英語: Taijin kyofusho, taijin kyofusho symptoms ; TKS)<は、>・・・<米>精神医学会の『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版(DSM-IV)に、<次のように、>・・・日本における特異的な恐怖症として挙げられている。・・・<すなわち、>DSM-IVの社交不安とある意味で類似している。この症候群は、その人物の身体、その一部またはその機能が、外見、臭い、表情、しぐさなどによって、他の人を不快にさせ、当惑させ攻撃的になるという強い恐怖のことである。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BE%E4%BA%BA%E6%81%90%E6%80%96%E7%97%87
「社交不安障害(・・・英: social anxiety disorder: SAD)あるいは社交恐怖(・・・英: social phobia)とは、自分が他人からどう見られるか、どう思われるかを過度に心配することで不安を感じるために、社交(人間関係)を過度に避けたり、耐えたりすることによって、相当な苦痛がある、または生活に重大な支障があるという精神障害である。」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BA%A4%E4%B8%8D%E5%AE%89%E9%9A%9C%E5%AE%B3
「元々、対人恐怖症の報告は日本で突出して多く、海外ではほとんど報告がありませんでした。そのため、日本の文化的背景が原因となっている独特の疾患であると考えられていました。・・・
しかし近年の調査では、海外でも対人恐怖症と似た病態は少なくないことが分かってきました。そして、これらは「社交不安障害(社交恐怖)」として定義されました。
様々な研究・調査が進むにつれて、対人恐怖症と社交不安障害はほぼ同様の病態であることが確認されてきており、現在ではどちらも「社交不安障害」として診断する方向になってきています。」
https://seseragi-mentalclinic.com/taijinkyofu-cause/
第一、この「対人恐怖」という名称事態が、日本人の手になる数少ない独創の一つに属していて、これに相当する西洋語派元来存在しない。
このことは、この型の神経症がその発生頻度の上だけから見ても、圧倒的に日本に多いものであることを示している。・・・
対人恐怖症の根本的な特徴は、患者の自己の評価が自己自身によって内面から評価されえず、もっぱら他人による外部からの(しかもネガティヴな)評価の対象となってしまっているという点にある。・・・
対人恐怖症の中でも赤面恐怖症だけは、日本だけでなく西洋諸国にも(日本よりは稀であるが)かなりみられる症状であって、この名称事態も西洋の言葉<(erythrophobia)>の邦訳である。・・・」(186~187、191)
⇒このくだり全体が、「注20」の三番目の典拠に照らせば、ナンセンスな戯言、ということになりそうです。
改めて、精神医学はまだ科学たりえていないとの感を深くします。
ただし、強いて言えばですが、ほぼ、日本人においてのみ、自分が人間主義者ではない、ないしは、自分には人間主義的言動が適切に行えない、という不安に基づく精神障害があって社交不安/対人恐怖、と診断される人がいる可能性は排除できない、と私は思います。(太田)
(続く)