太田述正コラム#2838(2008.10.8)
<ロアルド・ダールの半生(その1)>(2009.4.14公開)
1 始めに
いつも、最初にコラム(ないしシリーズ)で何を書くのかを明らかにしていますが、今回は初めての試みで、明らかにしないまま始めようと思います。
とにかく、読んでみてください。
最低限、話の主人公が『チャーリーとチョコレート工場(Charlie and the Chocolate Factory)』や『ジェームスと巨大な桃(James and the Giant Peach)』等を書いた児童文学作家のロアルド・ダール(Roald Dahl。1916~90年)であることだけは申し上げておきましょう。
2 任務を与えられるまでのロアルド・ダール
ロアルド・ダールは、英国のウェールズでノルウェー人の両親の下に生まれました。
彼はパブリックスクールのレプトン(Repton)校を卒業後、本来はオックスフォード大学かケンブリッジ大学に入学すべきところ、海外での冒険の夢ほだしがたく、1934年、シェル石油に入社し、英国内での2年間の勤務の後、タンガニーカ(現在のタンザニア)のダルエスサラームに3年間の任期で派遣されます。
ところが、1939年の9月に英国がドイツに宣戦する直前の8月、タンガニーカが旧ドイツ領であったことからダルエスサラームにいる数百人のドイツ人を拘留する計画がつくられ、ダールは現地招集されて英陸軍士官となり現地人部隊一個中隊の指揮官となります。
更に11月には英空軍に移るように命じられ、陸路600マイルを車に揺られてケニアのナイロビで空軍に入隊します。
身長が198cmもあったので、相当無理があったのですが、パイロット不足の折から、ダールは戦闘機パイロットとしての訓練を受けさせられます。
2ヶ月間の基本訓練が終わったところで、彼はイラクのハッバニヤ(Habbaniya。バグダッド南方100マイル)の基地で更に6ヶ月間訓練を受けます。それから彼は、リビアのイタリア軍と戦うべく、エジプトのスエズ運河沿いの基地に戦闘機に乗って派遣されるのです。そこから、西方の砂漠の中にある前線基地に向けて、途中二回給油に降り立つという計画の飛行を行うのですが、計画そのものが間違っていたため、結局第一給油地にすら到達できずに砂漠に不時着してしまいます。
この時、大けがを負ったダールはアレキサンドリアの海軍病院に6ヶ月入院します。
このまま除隊になっても不思議はない状態でも、パイロット不足が更に深刻化していたことから、彼はギリシャのアテネ近くの英空軍部隊勤務を命ぜられ、1941年4月、赴任します。
しかし、ドイツ軍は4月には英軍をギリシャ本土から駆逐し、5月にはクレタ島からも駆逐してしまいます。
ダールの空軍部隊はパレスティナのハイファに「転進」し、ドイツ軍と仏ヴィシー政府軍への抵抗を続けますが、その頃、ダールは大けがの後遺症のためパイロットを続けるのは無理であると認定され、帰国を言い渡され、6月、英国に船で戻らされます。この時、ダールは空軍大尉(Flight Lieutenant)になっていました。
ところが、母親(父親は彼が3歳の時に死亡)の下で休暇をとって療養していた26歳のダールに、1942年3月、ロンドンの空軍次官バルフォア(Harold Balfour)の所に出頭せよとの連絡が入ります。
3 任務が与えられてからのダール
出頭して言い渡されたのは、表向きは駐ワシントン英国大使館空軍武官補として、実際には英領カナダ人のスティブンソン(William Stephenson)(コラム#1383)という元締めの下で米国の孤立主義勢力を弱体化させ米国の政策を英国寄りのものにするためのスパイとしての秘密任務を帯びての米国赴任でした。
ダールとしては、戦闘地域から大洋を隔てた安全な場所で「軟弱」なデスクワークをするのはいやで仕方がなく、「それだけはご勘弁を」と答えるのですが、命令に逆らうわけにはいかず、赴任するのです。
現地で「同僚」で、既に作家として名声を博していたC.S.フォースター(Cecil Scott Forester。1899~1966年)(注1)からの、空軍パイロット時代の話をまとめてみろとの要請を受け、1942年8月、最初の著書『リビアの空で撃墜されて(Shot Down Over Libya)を米国で新聞に掲載させられます。実際には撃墜されたわけではないのですが、フォースターは本文には一切手を入れなかったけれど、タイトルだけは劇的なタイトルに変えさせたのです。
(以上、特に断っていない限り
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2008/08/28/AR2008082802911_pf.html
(8月31日アクセス)、及び
http://en.wikipedia.org/wiki/Roald_Dahl、
http://www.msnbc.msn.com/id/26510367/
(どちらも10月8日アクセス)による。)
(注1)ホレイショ・ホーンブロワー(Horatio Hornblower)を主人公にした海洋冒険小説のシリーズであるホーンブロワーシリーズの作者として有名(
http://en.wikipedia.org/wiki/C._S._Forester
。10月8日アクセス)。
(続く)
ロアルド・ダールの半生(その1)
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ほう……まさかここでダールについて読むことになろうとは。
ところで、訳書の表記ではフォースターではなくフォレスターとなっていますね。
http://www.google.co.jp/gwt/n?u=http%3A%2F%2Fwww.amazon.co.jp%2Fc%25E3%2583%25BBs%25E3%2583%25BB%25E3%2583%2595%25E3%2582%25A9%25E3%2583%25AC%25E3%2582%25B9%25E3%2582%25BF%25E3%2583%25BC%2Fs%3Fie%3DUTF8%26keywords%3DC%25E3%2583%25BBS%25E3%2583%25BB%25E3%2583%2595%25E3%2582%25A9%25E3%2583%25AC%25E3%2582%25B9%25E3%2582%25BF%25E3%2583%25BC%2520%26rh%3Di%253Aaps%252Ck%253AC%25E3%2583%25BBS%25E3%2583%25BB%25E3%2583%2595%25E3%2582%25A9%25E3%2583%25AC%25E3%2582%25B9%25E3%2582%25BF%25E3%2583%25BC%2520%26page%3D1&_gwt_noimg=1&hl=ja&source=m
彼が晩年、子供用にたくさん面白い小説を書いたそうで、我が娘(10歳)はその面白い小説に夢中です。
「チャーリーとチョコレート工場」など、子供にはとても面白いようです。