太田述正コラム#3146(2009.3.11)
<麻薬問題の危機的現状(その3)>(2009.4.16公開)
<補足:失敗国家(?)メキシコ>
「・・・組織犯罪は野放図となっている」と2006年12月にメキシコ大統領に就任するにあたってフェリペ・カルデロン(Felipe Calderon)は宣言した。
彼は陸軍45,000人を麻薬密輸ギャング達との戦いに投入した。
それ以来、麻薬がらみの暴力で約10,000人の人命が失われた。昨年だけで6,268人にのぼる(前述)。
部隊と警察は、ロケット・ランチャー、手榴弾、機関銃、そしてバレット(Barrett)50といった徹甲狙撃小銃で武装したギャング達と激戦を戦ってきた。
しかし、ギャング達の最も効果的な武器は腐敗だろう。11月には連邦検事総長事務局の組織犯罪班の主幹である・・・検察官に、シナロア(Sinaloa)麻薬団に一月45万米ドルの賄賂と引き替えに情報を流していた嫌疑がかけられた。他の6人の係官達も同様の嫌疑がかけられた。
役人達は、暴力<の頻発>と<このような>逮捕は、彼らが勝利しつつあることの印であると主張している。
しかし、米国の本国軍(Joint Forces Command)は、先月公にされた分析で、今後失敗国家となる危険性が一番高い2国はパキスタンとメキシコであると結論づけた(前述)。
世界12番目の経済大国で、米国の2番目の貿易相手国で重要な石油供給国で、しかもこの一世代で安定した民主主義国家へと進化したメキシコが?
当然のことながら、このような予測はメキシコ政府によって怒りをもって拒否された。 しかし、上記分析は、ビル・クリントン政権下で麻薬対策最高責任者であった退役大将による論文が回覧されていたところに出されたものだ。
この・・・大将は、「メキシコにおける危険で悪化しつつある問題は、米国にとって深刻な安全保障上の脅威となっている」という暗澹たる図柄を提示した。彼は、「メキシコがどうなるかは座視できない。我々は隣国に麻薬国家(narco state)の出現を許すわけにはいかない」と結論づけている。・・・」
http://www.economist.com/printedition/displaystory.cfm?story_id=13234157
関心ある方は、昨年の下掲関連エコノミスト誌記事も参照されたい。
http://www.economist.com/world/americas/displaystory.cfm?story_id=11376335
http://www.economist.com/world/americas/displaystory.cfm?story_id=12514107
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英エコノミスト誌は、20年前から、一貫して麻薬合法化を主張してきました。
その最新記事のさわりをご紹介しておきましょう。
「・・・世界の成人人口のほとんど5%にあたる2億人以上の人々が違法な麻薬を使っている。この比率は10年前と変わらない。・・・
米国だけで、麻薬の供給を絶とうとして毎年約400億米ドルも費やしている。そして毎年、米国民が150万人も麻薬がらみの犯罪で逮捕されており、その半分が牢獄にぶち込まれている。
麻薬取締諸法が厳しくなってきていることが主要な理由で、黒人たる米国民の5人に1人が生涯のうち幾ばくかを牢獄で送る羽目に陥っている。・・・
メキシコでは<新大統領が就任した>2006年12月以来、800人以上の警察官と兵士が殺害された。(そして、毎年殺害される人数が6,000人を超える状況が続いている。)
今月の最初の週には、麻薬がらみの問題を抱えた国の一つであるギニア=ビサウの指導者が暗殺された。・・・
このところ、麻薬取締側は、生産されるコカインの半分近くを没収していると主張している。
確かに去年に比べて、米国における<麻薬の>街頭取引価格は上昇したように見えるし、純度も低くなったように見える。・・・
しかし、このことが麻薬をより危険なものにしている。中毒者達は混ぜものの著しく多いコカインやヒロインを買わされているし、その多くが自分で注射する際、汚れた針を使ってエイズを広めているし、どうしようもなくて「クラック(crack)」や「メス(meth)<=メタムフェタミン(methamphetamines)>」に手を出す連中は法の保護の埒外であるため、こんな連中の「治療」をするのは、そもそも彼らを<麻薬に>手を出させた輩だときている。・・・
<しかし、麻薬取締が>厳しいスウェーデンも、緩やかなノルウェーも、中毒率は全く同じなのだ。・・・
<だから、>様々な麻薬の健康リスクについての誠実な情報の提供と、これらの麻薬の値付けを適切に行うことによって、各国政府は顧客達を最も害のない状態へと誘導すべきなのだ。・・・」
http://www.economist.com/printedition/PrinterFriendly.cfm?story_id=13237193
(3月7日アクセス)
4 終わりに
米国、欧州、南米、アフリカ等におけるような深刻な麻薬問題を日本が抱えていないのはまことに結構なことですが、米国には、日本の近傍の、既に歴とした失敗国家であり、かつ覚醒剤生産・密輸国である北朝鮮のことなど頭の片隅にしかない、という感じですね。
金正日による核の「保有」が、かろうじて米国の関心を北朝鮮に向けさせてくれている、といったところでしょうか。
(完)
麻薬問題の危機的現状(その3)
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