太田述正コラム#3194(2009.4.4)
<タックスヘイヴン物語(その2)>(2009.5.17公開)
(2)英国?
「OECD作成の35のタックスヘイヴンのうち10が英国の海外領か英王室の直轄領(dependency)だ。
英国の王室直轄領にはマン(Man)、ジャージー(Jersey)、ガーンジー(Guernsey)の各島<(正式名称は、それぞれの島名の前にBailiwick of がつく)>がある。
この三島とも独立した行政が行われており、英国の一部ではない。
しかし、この三島はいずれも英王室の所有物であり主権国家ではない。
この三島は英国国籍法上は英国の一部という取り扱いになっており、英国政府がその防衛と外交に責任を負っている。
それぞれの島に係る法律を採択する権限はそれぞれの立法議会にあるけれど、ロンドンの議会は、この三島の意思に反する立法を行う権限を保持している。ただし、この権限が行使されることはほとんどない。・・・
英国の14の海外領もまた英国の主権の下にある。・・・」
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2009/03/31/2003439793
上掲(3月31日アクセス)
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≪太田による補足≫
せっかく読者が教えてくれた
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090401/190741/
(4月4日アクセス)
からも紹介をしておきましょう。
ただし私がすぐ、「マン島やチャンネル<(ドーバー海峡)>諸島を構成するジャージー島、ケイマン島」は「マン島やチャンネル諸島を構成するジャージー島、ガーンジー島」の誤りだし、「ケイマン島、マン島、バミューダ島、ジブラルタルなど「クラウン・ディペンデンシー」(英王室属領)と呼ばれ」は「ケイマン島、ジャージー島、ガーンジー島など「クラウン・ディペンデンシー」(英王室属領)と呼ばれ」の誤り、
http://en.wikipedia.org/wiki/Crown_Dependencies
ということに気付くほど杜撰な記事なので、以下の記述についても眉に唾をつけて読んで下さい。
「・・・世界貿易の60%はタックスヘイブンを経て行われ<る>。個人資産額で見れば11.5兆ドル(約1100兆円)ものお金がタックスヘイブンにある・・・
・・・アフリカの貧困<の>・・・要因はどこにあるのか。・・・分かったことは、アフリカの裕福な人たちや多国籍企業が税金を払っていないこと<だ>。タックスヘイブンが貧困を生み出す原因として、重要な悪玉の役割を果たしている<のだ>・・・
・・・<また、タックスヘイブンにおける、>税金がゼロに近い、秘密性が保たれる、規制がほとんどない、という3つの要素が組み合わさると、いかなる金融商品も簡単に作ることができる・・・。そうして<タックスヘイブンで>作られた金融商品が、今回の金融危機を引き起こした一因になっている。
OECDの租税委員会やEUは、ここのところタックスヘイブンの行きすぎた税制優遇措置を正すため、様々な施策を取っている。・・・
・・・米上院議員のカール・レビン(ミシガン州、民主党)は“Stop Tax Haven Abuse Act”(タックスヘイブン乱用防止法)と呼ばれる法案を3月初めに提出した。
その法案は、脱税のためのタックスヘイブン使用の抑止、オフショア持ち株に関する情報開示をしなかった場合の罰金(最高100万ドル)、経済実体のないお金の移動などを無効にするなど、現在タックスヘイブンで行われている活動のほとんどの部分を対象にしている。
毎年、1000億ドルの税金がタックスヘイブンを悪用して、米国で支払われていないというから、この法案が通るとかなりの税金が米国に入ることになり、今の金融危機解消に大いに貢献することは必至である。米財務長官のティモシー・ガイトナーは「オバマ政権もこの法案を100%支持している」とする。・・・
・・・<しかし、>タックスヘイブンの本拠地は英国、というよりもロンドンだ・・・。ロンドンの役割に何らかの規制を加えなければ、本当の意味の規制はできない・・・」——————————————————————————-
(3)米国??
「米国では200万にのぼる株式会社と有限責任会社が毎年設立されているが、誰も真の所有者が誰かが分からない状態だ。・・・
現時点では、株式会社や有限責任会社を設立する人は、銀行に口座を設けたり運転免許証をもらったりする場合に求められるよりも少ない情報しか開示する必要がない。・・・
ワイオミング州、ネバダ州、そしてとりわけデラウェア州では、最小限の金融的開示しか求められない。
デラウェア州については、スイスの銀行界から、自分達が提供しているのと同じレベルの秘密を提供しているではないかという批判が投げかけられている。・・・」
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2009/03/31/2003439795
(3月31日アクセス)
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≪太田のコメント≫
このように、英国も米国も、それぞれの主権が及ぶ地域内において一種極端とさえ言える多様性が確保されている、ということに注目すべきでしょう。
この結果、それぞれの地域内において、日々実験が行われ、競争が行われることで、地域内全体が活性化された状態が続いてきた、ということです。
その結果として、今回の金融危機に端を発した世界的不況のように、英国や米国(の本体)を含む世界中の人々が迷惑を被る、なんてことも起こるわけですが・・。
まあしかし、これは、(次元が違うというお叱りを被ることを覚悟の上で申し上げれば、)移民の積極的な受け入れを行った場合にも、犯罪の増加等のマイナス面が生じることと基本的に同じことです。
全くいいこと尽くしの話などこの世に存在するはずがありません。
日本では、移民の積極的受け入れについてはいまだにコンセンサスができていないところ、地方分権推進についてはコンセンサスができていますが、分権化の歩みが余りにも遅々としているのは残念なことです。
ご承知のように、私は更に過激に、東アジア太平洋版のEU的枠組みを沖縄が提唱し、沖縄がまずその枠組みの中で日本本土から独立することを提唱しているわけですが・・。
(完)
タックスヘイヴン物語(その2)
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