太田述正コラム#3196(2009.4.5)
<世界不況四方山話(その1)>(2009.5.21公開)
1 始めに
現在の世界不況について、四方山話をしましょう。
2 世界不況を予想していた英政治家
英自由民主党の影の蔵相のヴィンス・ケーブルが’The Storm: The World Economic Crisis & What it Means’を上梓しました。
彼は、現在の世界不況を予想していた政治家として注目されるに至っています。
この本の書評から、そのあたりのことをご説明しましょう。
「ヴィンスは、2003年11月に<当時の蔵相であり、現在の首相の>ゴードン・ブラウンに対し、・・・英国<経済>がかくもうまく行っているように見えるのは、単に消費者達が、住宅の価格の上昇を活用するとともに明日のことなど全く考えずに借金をしまくっているからに過ぎない、と論戦を挑んだものだ。・・・英国の経済は危険なまでに不均衡な状況であり、住宅市場と金融業という二つの成長エンジンに余りにも依存しているのであって、この二つが失速した暁にはハード・ランディングが不可避となると言ってのけた・・。・・・
・・・<ヴィンスはこういう人物であるからして、今や首相となったブラウンが、>英国が現在直面している諸問題は大西洋の向こう側から輸入されたものであると主張していることに対し、厳しく批判している。
英国が16年間にわたって中断なくインフレなき成長を遂げてきたことは確かだが、これは、主として安価な工業生産物でもって中共の労働者達が世界経済を溢れさせてきたことと、この結果として生じた貿易黒字をシティーとウォールストリートへと還流させてきたことのおかげだというのだ。
彼はこの本に、「この経済危機が全地球的な起源と性格を持つことは確かだとしても、同時に英国が勝手に思い込んできた、ゴードン・ブラウンの言葉によるところの、英国は「もはや好況も不況も超越した」のであって、全地球的暴風雨をとりわけ巧みに克服することができるという神話を投げ捨てる必要がある」と記している。
ケーブルに言わせれば、話は逆なのであって、英国の住宅及び債務バブルは他より大きかったのだし、英国政府は、好況時に借金をし過ぎたために、減税をしたり財政支出を増やしたりする余地がそれだけ少ないのだし、経済が過度に金融業に依存しているため、英国は「国際金融市場に吹きまくっている暴風の力をもろに」受けているのだ。・・・
ケーブルは、現代の政治家としては珍しく民間部門の生活の経験を実地につんでいる。
彼は<石油会社の>シェルでエコノミストとして働いたことがあるのだ・・・。・・・ これからどうなるかについてだが、ケーブルは、改革陣営は三つに分かれると言う。
まず、まるでやる気のない、というより全く存在しなかったとさえ言えるところの規制の結果この大災害が起こったとし、自由化・規制緩和・民営化からなるワシントン・コンセンサスの、1950年代と60年代の混合経済に近いものによる置き換えを唱える「新介入主義者」。
次に規制のなにがしかの改善は必要だが、究極的には良い市場が悪い市場を駆逐するものだと言う「古き自由主義者」。
ケーブル自身はこの二つの間に自分は位置しているとする。
彼は、金融市場はバブル・パニック・恐慌の繰り返しであるとする一方で、財・サービス、そして貿易に関する市場には効用があるとする。
換言すれば、赤ん坊を盥のお湯と一緒に捨ててしまわないようにしよう、というのだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/books/2009/apr/04/vince-cable-the-storm-review
(4月4日アクセス)
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≪太田のコメント≫
英国は、米国とほとんど同じ原因で金融危機を発生させたのだ、と改めて思いますね。
時間的にはやや米国の方が先行しましたが・・。
大体からして、「古き自由主義者」のリバイバル的全盛期をもたらしたところの、サッチャーが1979年5月に英首相に就任してサッチャリズムを推進し、レーガンが1981年1月に米大統領に就任してレーガノミックスを推進したのもほぼ同時期でした。
やはり、英国と米国は同じアングロサクソンなんだってことですね。
考えさせられるのは、英国においても、日本に後れること久しいですが、政党の間に政策の違いがほとんどなくなってしまったことを伺わせる点です。
つまり、二大政党である労働党と保守党がどちらも「古き自由主義者」の政党になってしまった上、第三党の自由民主党だって、金融市場に関してのみ介入主義的な政策をとる「修正古き自由主義者」の政党に過ぎない、という有様なのですな。
それでも、労働党と保守党の合同とか、(日本のように)主要政党どちらかの恒久的政権ということにはならず、次の総選挙で保守党が労働党から政権を奪回する可能性が高いと言われている(典拠省略)ところが面白いと言うべきか。
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(続く)
世界不況四方山話(その1)
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