太田述正コラム#3202(2009.4.8)
<中共の軍事力2009>(2009.5.23公開)
1 始めに
 先月末に発表された米国防省の報告書、『中華人民共和国の軍事力2009(Military power of the People’s Republic of China 2009)』(以下、『報告』という)
http://www.defenselink.mil/pubs/pdfs/China_Military_Power_Report_2009.pdf
がどのように米英で報じられているかをご紹介しましょう。
2 報道ぶり
 (1)中共の軍事力はまだ脅威とは言えない
 「<『報告』>は、オバマ政権下の初めてのものだが、中共の急速に増大している軍事力は東アジア地域における軍事バランスを変化せしめつつあり、係争中の諸領域に係る中共の要求を力で確保するために使われうる<と記している>。・・・
 <米中軍事関係も危うい限りだ。>
 米中軍間対話は、米国の台湾への武器売却をめぐって5ヶ月間途切れた後、ようやく最近再開された。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/03/26/AR2009032600365_pf.html(AP電)
(3月27日アクセス。以下同じ。)
 「・・・ところが、再開された軍間対話は3月、南シナ海の国際水域で中共の艦艇(複数)が米国の調査船をつけ回し妨害した<(コラム#3150)>ことで開催が危ぶまれたところだ。・・・
 ・・・<しかし、肝心なことは、『報告』>が、中共が2015年までには小規模な部隊をその領域から遠く離れた場所に送ってそこにとどまらせることさえできないと<『報告』が>記している<ことだ>。
 しかも、中共はその後の10年の後の方にならなければ、中共から遠く離れた場所に大規模な兵力を送ってそこにとどまらせることはできないとも記している。・・・ 
 <ちなみに、>2003年から2007年の間に、中共は70億ドル近く相当の在来兵器を世界中に売った。その大部分はパキスタン向けだ。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/03/27/world/27military.html?ref=world&pagewanted=print
 「<『報告』について、BBCとしてはこのように総括している。すなわち、>・・・中共の軍事力は間違いなく、貧弱な装備の農民兵から次第に精緻な現代的軍隊へと劇的な変貌を遂げつつある・・・。
 しかし、その訓練と連携行動の水準及び現実の戦争遂行能力にはまだ疑問符がつく・・・。」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7965084.stm
 (2)しかし、中共は悪い奴だ
 「・・・<この『報告』>は、これまでのものに比べ、微妙だが明確なトーンの変化があった。すなわち、より確固とし、かつ率直になったのだ。
 見直しの結果は、中共が邪で嘘つきだと非難する寸前で止めつつ、かかる方向に向かっていると指摘することとなった。・・・
 『報告』の全体を通じて、「不確実性を作りだし、誤解と計算違いの潜在的可能性を増大させている」中共は、より鋭く批判されている。
 汚職が「あらゆるところで、構造的に、継続している」とも記されている。
 人民解放軍(PLA)における腐敗は、「出世と昇任目的の贈賄、無許可の契約、プロジェクト、及び兵器調達」に及ぶ。
 毎年出されるこの報告は、2002年には56頁だったものが78頁に増えている。これは、米国防省が中共に対する関心を増大させていることを反映している。・・・
 今年の『報告』は、中共の軍事に係る秘密主義を強調している。
 「人民解放軍は、支那の歴史的経験と伝統的に支那の軍事教義において計略と欺騙が果たしてきた役割を踏まえている」と。
 『報告』によれば、中共は、古典的な思想家であるところの、例えば2500年前に<戦略論を>ものした孫子等に対し、改めて関心を示してきた。「すべての戦争は欺騙に立脚している」というわけだ。
 「過度な秘密主義を好む中共の軍部の傾向と、近隣者や諸大国に対して中共の発展の平和的性格を何度も請け合ってきた文民の姿勢との間には矛盾が存在する。」と『報告」は述べる。
 ・・・「<中共の軍事文献の>これらのくだりは、中華人民共和国の戦略的思考や戦略的次元における防衛的態勢のポーズにもかかわらず、作戦的及び戦術的次元においては攻撃的ないしは先制攻撃的な軍事行動を志向する、という曖昧さを指し示している。」・・・
 この新しい報告は、・・・中共の指導者達は、「米国がからんだ台湾に係る紛争は、米国と中共の間の長期にわたる敵対的関係を招来し、その結果中共の利益は損なわれる」と言い切っている。
 (ハワイ在住の評論家リチャード・ハロラン(Richard Halloran))」
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2009/03/29/2003439681
(3月29日アクセス)
3 参考
 「対艦弾道ミサイル「ASBM(Anti-Ship Ballistic Missile)」(コラム#3201。globalyst)についてですが、「その開発作業が既に佳境に入った」
http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200904061517
(4月8日アクセス)
なんて報告書には書いてありませんよ。
 まだ、当分の間、画に描いた餅でしょう。
4 終わりに
 やはり、今年もまだまだ、中共は米国にとって、ということは日本にとっても、更には台湾にとってさえ、軍事的脅威ではなさそうです。
 しかし、このままの趨勢が続けば、2020年くらいには、少なくとも台湾くらいにとっては、軍事的脅威になるかもしれない、ということです。
 10年ちょっとですから、あっという間ですね。
 さあ、日本はどうするのでしょうか。