太田述正コラム#3206(2009.4.10)
<イスラエルはイランの核施設を攻撃する(その1)>(2009.5.25公開)
1 始めに
私は、表記の指摘を、これまでこのコラムで何回となく行ってきているところです。
お前はオオカミおじさんかといわれそうですが、再度同じ指摘をさせていただきます。
2 攻撃でイランの核開発計画を粉砕する論(イスラエル歴代政権)
イランの核開発計画を買いかぶりすぎているところがご愛敬ですが、イスラエルの歴代政権は、イランの核施設に対する武力攻撃の必要性を公然と唱えてきました。
「・・・<現在イスラエルの大統領であるシモン・ペレスは、1992年に>イランは核爆弾を1999年までに持つだろうと予想した。<そして首相当時の1996年には、>「イランはテロ、原理主義及び破壊活動の中心であり、私の見解ではナチズムよりも危険だ。なぜなら、ヒットラーは核爆弾を持っていなかったが、イラン人達は核オプションを完成させようとしているからだ」<と述べた。>
現在国防相をしているエフード・バラクは、1996年に、イランは核兵器を2004年までに製造するようになっているだろうと述べた。・・・
<再度首相になった>ネタニヤフは、「熱烈なる希望」を口にしている。
すなわち、米国が、必要があれば「軍事力」を用いて、イランが核武装をするのを阻止して欲しいと。」
http://www.nytimes.com/2009/04/09/opinion/09iht-edcohen.html?ref=opinion&pagewanted=print
(4月9日アクセス)
「・・・ネタニヤフは、<先般の>総選挙中、何度となく、核武装したイランを容認しないと述べた。
「もし私が再選されたら、イランは核兵器を獲得しないであろうことを約束する」とある時彼は言明した。「これは、そのためであれば、あらゆる必要なことをやることを意味している」と。」
3 交渉でイランの核保有を断念させる論(オバマ政権の姿勢)
しかし、末期のブッシュ政権以上に、オバマ現米政権は、イラン攻撃を排斥しているように見受けられます。
「4月7日、バイデン米副大統領は、オバマ政権のこれまでの中の最高位の人物として、イスラエルが<イランを>軍事攻撃することに警戒の念を表明した。
インタビューの中で、バイデンは、ネタニヤフがイランの核施設を攻撃するかもしれないことが心配ではないかと問われ、「私はネタニヤフ首相がそうするとは思わない。そうすることはお奨めできない」と答えた。・・・
オバマ政権の意図は、いかなるトップクラスの専門家を選んだかによって伺うことができるかもしれない。
アフガニスタンとパキスタンに関する特使(representative)<に任命された>リチャード・C・ホルブルックは、年季の入ったイラン専門家であるヴァリ・ナスル(Vali Nasr)を雇った。
また、南西アジアに関する上級顧問<に任命された>デニス・ロス(Dennis Ross)は、もう一人の熟練イラン専門家であるレイ・タケイ(Ray Takeyh)を雇った。
ナスルもタケイも、イランと外交的関係を取り結ぶこと<によってイランに核開発を断念させる方策>を推している人物だ。」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-biden-israel-iran8-2009apr08,0,1730515,print.story
(4月9日アクセス)
4 イラン放置論
それどころか、米国内には、イランの核保有を容認すべきだとする意見すらあります。 この意見は、オバマの核廃絶の考え方そのものに否定的です。
「・・・直感には反するかもしれないが、国際核兵器安全保障に関して成功を収める政策は、核技術の安定的保持と効果的運営(stewardship)を支えるために努力するものでなければならない。
世界が核兵器使用の脅威に対して安全を確保するには、核兵器を廃絶することによってではなく、核能力を安定化すること以外に方法はない。
歴史上、戦争で核兵器が使用されたのは、たった一つの国しかそれを保有しておらず、しかもそれを極めて少数保有していた時のことだった。
それ以降は、安定は抑止によって成り立ってきた。そして抑止は、相互確証破壊に立脚してきた。
核兵器のない世界は不安定な環境を作り出し、たった一発でも核兵器を再保有した国が異常なほどの優位を獲得してしまう。・・・
オバマは言った。「しかし今や我々としても、世界は変えることができないと我々に伝える声を無視しなければならない」と。
<しかし、>核兵器を廃絶することは、世界も、また国家が競い合う方法をも何も変えはしない。単にその競争において彼らが保有する能力が変わるだけのことだ。・・・
核保有そのものは、核拡散や核使用を不可避的にもたらすわけではない。
核時代の歴史も、またその論理も、結論はその反対であることを示しているのだ。・・・
<だから、イランだって、核を持ちたいのであれば、持たせればよいのだ。>」
http://www.csmonitor.com/2009/0409/p09s03-coop.html
(4月10日アクセス)
米国がこんな調子では、イスラエルが米国の軍事的・経済的支援に依存しており、しかも、イスラエルがイラン攻撃しようとしても、米国がその途中の空域を支配している以上、イスラエルのイラン攻撃の芽はなくなったのではないか、と思われるかもしれません。
ところがどっこい、そんなことは全くないのです。
(続く)
イスラエルはイランの核施設を攻撃する(その1)
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