太田述正コラム#2943(2008.11.29)
<米国の創世記(その1)>(2009.5.29公開)
1 始めに
米国の通俗的歴史家のケネス・デーヴィス(Kenneth C. Davis)が上梓した“America’s Hidden History: Untold Tales of the First Pilgrims, Fighting Women and Forgotten Founders Who Shaped a Nation.” から、その一部を紹介することにしましょう。
2 語られぬ北米最初のピルグリム・ファーザー
(1)要旨
・・・<地理的意味での>欧州から初めて「新世界」に宗教的自由を求めてやってきたのはフランス人だった。彼らは、同じ目的でやってきたイギリス人より50年早かった(注1)。・・・
(注1)イギリス人たるピルグリム・ファーザー達の(現在のマサチューセッツ州)プリマス到着より50年早かった。なお、イギリス国教徒達の(現在のバージニア州)ジェームスタウン到着よりは40年早い。
芳香漂うフロリダに1564年に上陸したフランスの亡命者達(emigres)は、それ以前にフランスの探検家が5月川と名付けた川(現在のジャクソンヴィル近くのセント・ジョンズ川)のほとりでただちに「感謝祭」を執り行った。新しい植民地のための種子を持参した彼らは、彼らの国王、シャルル9世にちなんだフォート・カロラインと名付けた木造の小さな囲繞地を要塞化するための大砲も何門か持ち込んでいた。・・・
しかし、スペイン人は、新世界について異なったビジョンを抱いていた。
1565年にスペインのフィリップ2世は、スペインが領有権を主張していた土地に住み着き、近傍を航行するスペインの宝船を攻撃することを習いとしていたところのフランス人異端者達を壊滅させるため、「ルター派信徒(スペインはプロテスタントをすべてこう呼んだ)(注2)をつるし、焼き殺せ」と命じ、ペドロ・メネンデス(Pedro Menendez)提督を派遣した。
(注2)実際には彼らはユグノー(カルヴィン派信徒)だった。
この聖戦を十字軍的情熱で指揮したメネンデスは、セント・オーガスティン(St. Augustine)を設立し、後に米国において地元の観光関係者達が<北米で>最初のものと主張されることとなる司祭教区ミサの挙行を命じた。
それから彼は、フォート・カロラインに対して血生臭い攻撃をしかけた(注3)。
(注3)友好的なインディアンによって案内され、甲冑を着込み、槍、刀、火縄銃、そしてパンとワインを携行した兵士500人で暴風雨の中を2日間歩いて、1565年9月20日未明に奇襲をかけた。内部通報者により、フォート・カロラインの状況をメネンデスは把握していた。
その結果、フランス人入植者の大部分が虐殺された(注4)。
(注4)まだ寝ているところを奇襲され、132人のフランス人の男が殺害されたが、スペイン軍側は負傷者が1人出ただけだった。船に乗って逃れたフランス人もいた。生存者中男は絞首刑に処せられ(後述)、約50人の女性と子供はプエルトリコに送られた。
メネンデスは生存者達の多くを「われ、フランス人達に対してにあらずして異端者達に対してこれを行う」と書かれた標識の下でさらし者にした<上で絞首刑に処した>。数週間後、彼は、難破したフランス人の300人以上(注5)について、セント・オーガスティンのすぐ南の場所で今余り目立たぬ国定史跡となっているフォート・マタンザス・・これはスペイン語で「虐殺」を意味する・・での処刑を命じた。
(注5)実は、スペイン軍に攻撃を受ける数日前、500~600人のフランス人が、4隻の船に分乗してフォート・カロラインを出発し、セント・オーガスティン攻撃を目指したが、上記暴風雨に遭い、船はほとんどが難破し、多数が溺死し、生き残った者は全員つかまり、そのうち300人強がナイフで処刑された。なお、命が助かったのは、つかまってから逃亡したごくわずかの者、カトリック教徒(急遽改宗したした者を含む)、そして役に立つ技能を持っていると目された者だった。
これにより、アメリカ大陸における最初のピルグリム達は歴史の頁から姿を消した。欧州における血生臭い宗教諸戦争の犠牲者として、彼らはイギリス好きの歴史家達によってその存在を消し去られ、スペイン人入植地であったセント・オーガスティンもまた、後のイギリス植民地たるジェームスタウンとプリマスの後塵を拝する2級の地位へと貶められたのだ。・・・
(以上、本文は
http://www.nytimes.com/2008/11/26/opinion/26davis.html?_r=1&ref=opinion&pagewanted=print、
(11月27日アクセス)、注は
http://www.smithsonianmag.com/history-archaeology/hidden-history-excerpt.html
(11月29日アクセス)による。なお、前者は書評、後者は抜粋。)
(2)コメント
とにかく、プロト欧州文明の、宗教に藉口した血を血で争う野蛮さは凄まじいものがありますね。
それが後の、欧州文明のイデオロギーに藉口した血を血で争う野蛮さへと姿を変えていくわけです。
(続く)
米国の創世記(その1)
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