太田述正コラム#3306(2009.5.31)
<皆さんとディスカッション(続x502)>
<深雪>
 民主党が政権交代後に実現を目指す沖縄ビジョン。
 1997年7月に民主党が沖縄政策を打ち出してからリニューアルを重ね、現在2008年版が公示されている。
 「一国二制度」的に、各種制度を積極的に取り入れることも検討する必要があるとするこの民主党の沖縄ビジョン。また、沖縄限定の地域通貨の発行も計画しているようだ。これはまさに一国二制度だろう。そこまでして「沖縄を本土並みからはずす」意図は何処にあるのだろう。中国語を含む沖縄の「マルチリンガル化」を、沖縄県は本当に望んでいるのだろうか。民主党のうたう「沖縄独自のアイデンティティーを通した自己確立」とは、日本人のそれではなく琉球人としての誇りのようだ。
 また、地理的に近い台湾に対しては観光ビザの免除も計画されているようだが、大陸の漢民族にとって沖縄は喉から手が出るほど欲しい島であり、沖縄は本来中国の領土と学校で教育しているという中国。沖縄が未来の領土紛争の種になるような愚策の第一歩に思える民主の沖縄ビジョンに思えてならない。いかがだろう。
http://www.dpj.or.jp/news/files/okinawa%282%29.pdf
<太田>
 この種の文書をきちんと読み込んでおられることにまずは敬意を表します。
  私が、現在の日本の、米国の属国たる安全保障状況を是としていないことはご存じのとおりですが、沖縄において、その与野党とも、この安全保障状況の受忍を拒否してきたことには、かねてより、割り切れない思いを抱いてきました。
 仮に、沖縄の人々に、沖縄が日本の一部であるという気持ちがあるのであれば、(私のように、)日本の安全保障状況をどう変えるのか、という代替案の提示があってしかるべきですし、代替案の提示をするつもりがないのであれば、沖縄の独立を追求すべきである、と考えるからです。
 申し上げるまでもなく、独立すれば、沖縄は、在沖米軍や在沖自衛隊の全面撤退を含む、いかなる案も、完全に自由な立場で米国や日本と交渉できるようになります。
 沖縄は人口が138万人もあり、
http://www.pref.okinawa.jp/toukeika/estimates/estimates_suikei.html
国際連合加盟国192カ国とバチカン、台湾、西サハラ、パレスチナ自治区の計196カ「国」と比較すると、エストニアを上回り、149位相当です。沖縄より人口が少ない「国」が50カ「国」近くあります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E9%A0%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88
 ただし、沖縄の面積は、2274平方キロメートルであり、
http://www.pref.okinawa.jp/kodomo/sugata/a1_02z.html
(西サハラとコソボを入れ替えただけの)ほぼ同じ196カ「国」と比較すると、コモロを上回る、170位相当でしかありません。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E3%81%AE%E9%9D%A2%E7%A9%8D%E9%A0%86%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%88
 しかし、沖縄の場合、離島を含めると広大な海域に散らばっており、その経済水域は巨大であることを忘れてはならないでしょう。
http://www.pref.okinawa.jp/kodomo/sugata/a1_02z.html上掲
 いずれにせよ、沖縄は、十分独立国家たりえます。
 そもそも、国家は、人々にとって、その安全を確保するため(プラスアルファ)の手段に他ならず、自由に形成できてしかるべきです。
 したがって、沖縄の人々が日本政府の安全保障「政策」に同意できないのなら、独立して自ら安全保障政策を推進すべきであるし、そうすればいいだけのことです。
 そんなことをすれば経済が瓦解すると心配するのであれば、EU的な枠組みを沖縄が提案し、その枠組みの中で独立することとし、EU的な「一括補助金」を日本から引き続き流してもらえばいいわけです。
 (EUの加盟国は、NATOに加盟するかどうか、米軍基地を設けるかどうかも含め、自国の安全保障政策を自由に決めることができます。)
 日本だって、沖縄が完全な外国になってしまうよりは、こういった枠組み内で独立させる方を選択することでしょう。
 この考え方は、これまで何度かこのコラムで提示してきたところです。
 このような観点からすると、民主党の沖縄ビジョンの、
 「沖縄が独立の気概を持ち、中央政府がその気概を認めつつ、自立型経済構造を築き上げることが重要である。この自立型経済を着実に構築するためには、地域主権のパイロット・ケースとして「一国二制度」的に、各種制度を積極的に取り入れることも検討する必要がある。国庫補助負担金制度(ひもつき補助金)等を廃止し、一括交付金にすることも、まず沖縄県をモデルとして取り組むべきである。」
は、中途はんぱですね。
 これでは、現在の沖縄の人々の、対本土「ごね得体質」(更に辛口で言えば「ぼったくり体質」。ゴメンね)は直りません。
 (やや低次元な言い方をすれば、例えば、海兵隊航空部隊の普天間基地からの移転について、沖縄で与野党が「談合」しつつ、移転元でも移転予定先でも土地借料や基地交付金、周辺対策経費等を二重取りし続けている!)
 本当に沖縄のことを考えるのなら、日本政府は、地方分権を推進し、沖縄に対する特別扱いを一切止めるか、沖縄を独立させて、土地借料・基地交付金・周辺対策経費・補償経費等についてもEU的一括交付金化するか、どちらかにすべきでしょう。
 なお、「琉球人としての誇り」を持つかどうかは、上記議論とは全く関係のない話です。(沖縄の人々にぜひ「琉球人としての誇り」を持って欲しいですがね・・。)
 例えば、スコットランド人としての誇りを抱きつつも、スコットランド人は、スコットランドが引き続き英国の一員にとどまるかどうかを議論し続けているところです。
 最後に、ビザの免除なんて細(こま)い話だし、領土紛争は、沖縄のステータスがどうなろうと、起こりうることでしょうが・・。
<遠江人>
≫最後の一文、事例を挙げて欲しかったですね。≪(コラム#3304。太田)
 コラム#3300におけるKTさんのコメントです。
 私のコメントにしろYoutubeのコメントにしろ、あくまで進次郎が公人であるから批判をしているわけで、これが単なる私人であるなら、このような人格に対する批判など、そもそも必要が無いのですから、していません。つまり、公人であるから批判の対象としている、という前提があって、単に無意味無価値な人格批判をしているわけではありません。
 しかし、KTさんのコメントを読む限り、さも「私人に対する人格批判を非難している」ように見受けられるのです。
・私とYoutubeのコメントは、公人の、問題があると思われる人格を批判している。
・KTさんは、公人の人格を批判している私人(私とYoutubeのコメント)の人格を(上記の人格批判の対象の区別が出来ていないことから?)批判している(ように見受けられる)。
 まぁ、KTさんのコメントは結論だけのコメントで、ご自分の考えの部分が抜けているため、正直よく分からないのですが。
<KT>
 お返事ありがとうございます。
 自分のコメントは、太田さんの「誰か進次郎の弁護を買って出る奇特な人いませんか?」への返答です。
 民主党候補者のカメラをチラチラ見ながら、立ち位置に気をつけてるそぶりが、民主党のプロパガンダ動画なのかなと思っただけです。
 こういう動画を作るくらい「小泉の地盤」はかたいってことなんですかね。
 自分たちが任せる政治家の、資質を見るのは国民として当たり前です。
 ただ、資質を問うのに、それだけしかないの?って疑問もわきます。
 でも、自分も動画にコメントしてる人たちと、コメントしない部分では同じ思いなんですよ。
<戸愚呂(妹)>
 –追記:「鬼子来了」(「鬼が来た!」)(コラム#3290) 
 
 一応、映画の紹介者として私からも感想を述べておきます。
 皆さんご存知だとは思いますが「鬼子」とは、中国では「日本軍」を指して使われている言葉です(典拠省略)。
 しかしこの映画において、「鬼子」とは必ずしも日本軍だけでなく、中国人であれ、日本人であれ、誰の心の中にでも潜んでいる「鬼」を描いたものであると私は思います(日本軍を絶対的悪として描かなかった。中共の検閲に引っかかったのもこの辺でしょう)。
 もちろん、コラム#3300でKTさんがおっしゃっていたように「日本軍」の規律の脆さも当てはまると思いますが、どの国人間であれ、厳しい戦場下・統制下において何かのきっかけでその統率が乱れた際の人間の心理を描いたものだと私は思います。
 (アマゾンのレビューでアマゾン99世 “アマゾン100号” という方が似たような意見を述べています。)
http://www.amazon.co.jp/product-reviews/B00006RTUV/ref=cm_cr_dp_synop?ie=UTF8&showViewpoints=0&sortBy=bySubmissionDateDescending#RE2JRAFDKSLNE
 私自身映画を先に観て、(映画の中の)日本軍がなぜ、急に豹変してしまったのか理解に苦しみましたが、コラムを読んで初めて合点がいった記憶があります(結構前のことなので本当かどうか記憶があいまいですが・・・)。
 よって、この映画は内容はとても普遍性のあるもの(戦場下における人間の心理)を描いていると思いますし、太田コラムの南京虐殺論と合わせて考えてみると良いかもしれません(コラムナンバーは忘れちゃいました)。
 暇な時にどうぞ(なお、映画の内容と南京事件の直接的な関連はありません)
<globalyst>
 –日本の核武装–
 日本の核武装論について鳩山代表がオバマ大統領を引き合いにして否定した(太田。コラム#3304)ことに引っ掛けて、この問題を調べてみました。
 太田さんはコラム#1711で、「軍事的自立の中に、日本の核武装が入らないわけがありません」と述べております。
 その理由として米国が、「英仏はもとより、イスラエルやインド、更にはパキスタンにまで核武装を容認した」点を挙げています。
 ブッシュ政権当時は、この説にも説得力があったように思えますが、核不拡散を重要政策とするオバマ政権となった今は状況が変わったと言えるでしょう。
 この問題については、Congressional Research Service [CRS] Reports(アメリカ議会調査局報告書)の2009年2月19日付け「Japan’s Nuclear Future: Policy Debate, Prospects, and U.S. Interests, February 19, 2009」に、
「Perhaps the single most important factor to date in dissuading Tokyo from developing a nuclear arsenal is the U.S. guarantee to protect Japan’s security. 」(今日、日本政府に核兵器備蓄開発を断念させる上で唯一の最も重要な要因は、米国が日本の安全を保障することであろう)
とあり、この一文に米国の意思と、それへ向けた戦略が明示されていると思います。
 日本の核武装化を阻止する理由として、日本の核武装化によって中国、韓国、台湾で軍拡競争が始まり、更に、インド、パキスタンで核兵器の拡張、近代化が生じると明記されていますが、一番の理由は、多分、日本が国際的な核不拡散体制の最も顕著な擁護者である(traditionally one of the most prominent advocates of the international non-proliferation regime)ので、日本の脱退が国際的な核不拡散体制に与えるダメージが大きい(Japan’s withdrawal from the Nuclear Non-Proliferation Treaty (NPT) would damage the world’s most durable international non-proliferation regime.)と考えているからと思えます。
 報告書には技術的側面(例えば、不可能ではないにしろ核実験ができなければ日本独自の核兵器開発は難しく、また日本にはそうした場所もない)、法的側面(国内法上の問題に加えて、国際法上、日本が今持っているプルトニウムを兵器に転用した場合、現有するウランを原産国に返還しなければならない)、国際的な日本の立場など多方面から日本の核武装の可能性を否定しています。
 また、米国当局者や影響力のあるコメンテータが、例えば、「日本が核武装する」と他国を脅す等によって、日本の核武装を米国が暗黙に承認しているとのサインを出してしまうことを危惧しています。
 日本における核武装論の背景として、報告書には、(1)この10年における中国の軍事力の飛躍的な近代化や、(2)北朝鮮の核および弾道ミサイル実験、(3)中国と米国の接近および6カ国協議での米国の北朝鮮に対する柔軟な姿勢等から、日本の中に米国のコミットメントに対する不信感が生じているとしています。
 日本の安全を保障するため、また日本の不信感を除くために、ミサイル防衛システムの共同開発が有効であるとしています。
 そうした文脈で見ると、先日、米国の防衛予算が削減されたなかで、THAADとSM-3の予算が増額された理由も、この辺りにあるのかと思えます。
(Fourth, to better protect our forces and those of our allies in theater from ballistic missile attack, we will add $700 million to field more of our most capable theater missile defense systems; specifically, the Terminal High Altitude Area Defense, THAAD, and the Standard Missile 3 programs. )
http://www.defenselink.mil/transcripts/transcript.aspx?transcriptid=4396
 THAADについては
http://www.army-technology.com/projects/thaad/
 SM-3については
http://www.globalsecurity.org/space/systems/sm3-upgrades.htm
 THAADや新型のSM-3(SM-3 Block IIA)によれば、現状のMDシステムよりは格段に防衛力が高まることが予測されますが、報復能力がない状態で防衛力だけ高めても、実効性あるか疑問は残ります。
 結論的には、米国は日本の核武装を明確に否定していること、また、現実的なハードル(技術的ハードル、法的ハードル、国際的な日本の立場への影響によるハードル)は予想以上に高いことがわかりました。
 鳩山代表が「外交力」によるとして一応核武装を否定しながら、「核武装能力」に言及しなかったのは、現実はどうあれ(彼がどの程度現実を認識しているかはわかりませんが)、日本の核武装の可能性を残すためであると信じたく思います。
 それにしても日本はインド、パキスタン以下と言うことでしょうか。
<太田>
 コラムを書いたに等しいご貢献、ありがとうございます。
 「THAADとSM-3の予算が増額された」のですから、私が「オバマ政権は、ミサイル防衛のための予算さえ削ることにしている。<ミサイル防衛をしたいのなら、基本的に自分のカネでやれということだ。>」(コラム#3297)と書いたのはミスリーディングでしたね。
 
 さて、最初に核実験の話ですが、イスラエルは南アフリカと共同で、インド洋上(の島?)で1回だけ地上(?)核実験を行ったのではないかと言われています。
http://en.wikipedia.org/wiki/Nuclear_weapons_and_Israel
 日本にだって無人島が何千もある
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E4%BA%BA%E5%B3%B6
のですから、火山島では地下核実験をやれないのかどうか等、良く分からないけれど、その気になれば、どこかの無人島で核実験ができるのではないでしょうか。
 それに、核実験のシミュレーション技術も発達してきているので、核実験を1回もやらなくても、日本のような高度な科学立国が核保有を宣言した場合、各国に与える信憑性は高いと思います。
 さて、私は、単純な核武装論者ではなく、日本を含む多国間同盟条約が東アジア/西太平洋地域でできれば、核武装する必要はないが、米国の有識者が自国の本土への核の脅威とそれ以外の核の脅威とを峻別している以上、日米安保・・双務化したものを含む・・だけの下では核武装を追求せざるをえない、と主張してきたところです。
 なお、核武装を追求するにあたっては、少なくとも米国の暗黙の了解を得ることが必要であることは言うまでもありません。日米同盟をガタガタにしちゃ元も子もありませんからね。
 私は、現在のところ、オバマ政権下でも、このような主張を改める必要は感じていません。
 というのは、オバマ政権においても、彼らにとって北朝鮮の核問題の優先順位は低いまま(コラム#3301)である一方、日本にとって北朝鮮の核はもとより、中共の核の脅威は切実なものがあってしかるべきだという認識を彼らは持っているはずだからです。
 ですから、仮に日本が核保有の意思を米国に提示した場合、オバマ政権もブッシュ政権同様、これに強く反対はしないだろうと私は考えています。
 ところが、株価や為替レートの動向を見ても、日本人は、韓国人を含む東アジアの人々の中で、最も北朝鮮による核実験に鈍感である(コラム#3298)上、中共の核についてだって依然何の関心も持とうとしないのですから、オバマ政権としては、北朝鮮の核問題にも日本の核保有問題にも、当分の間、頭を悩ませる必要は全くない、ということになります。
 こういうわけで、せめてオバマ政権が「米国が日本の安全を保障」するにあたって、種々のシナリオの下での核兵器使用の具体的基準を日本政府に示してくれることを期待しましょうか。
 これさえ、日本がこんな調子じゃ、ほとんど期待できないけど・・。
 では、本日の記事の紹介です。
 「・・・小沢氏の「第七艦隊発言」や、短期の安保政策についての民主党の誤りは後から修正もできる。しかし長期にわたる日本の防衛体制の骨組みである大綱と中期防を友愛感覚で作られたのではたまらない。国益は取り返しがつかないほど毀損する。・・・
  鳩山さん、20年先を見てください。」
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/090531/plc0905310238001-n1.htm
と岡本行夫が言っています↑が、話は逆であり、日米安保政策こそ基本であり、大綱だの中期防などは、現状では天下り用装備買い物計画に過ぎないのです。
 つまり、日本が「国益」を語れるようになるように、米国からの「独立」を果たすことこそ、「20年先」をにらんだ場合、最も重要なことなのです。
 女性は、理科系の学問については女性の先生につくべき↓?
 ・・・<As for> Air Force Academy students・・・ women tend to receive lower grades than similarly skilled men in their introductory math and science classes, but that this gap diminishes by two-thirds when female students are taught by female professors.・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/05/29/AR2009052901552_pf.html
 また、北朝鮮が長距離弾道弾の発射準備をしているようです↓。
 ・・・North <Korea> seemed to be preparing to ship an intercontinental ballistic missile toward a testing site on the Sea of Japan, a sign that North Korea might be planning another long-range missile test.
It would probably take several weeks for the missile to reach the site・・・
http://www.nytimes.com/2009/05/31/world/asia/31korea.html?_r=1&ref=world&pagewanted=print 
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太田述正コラム#3307(2009.5.31)
<芸術論(その2)>
→非公開