太田述正コラム#3248(2009.5.1)
<新型インフルエンザ(その1)>(2009.6.12公開)
1 すべての発端
「・・・<メキシコ>連邦租税局の戸別訪問統計調査係として、<それまで病気らしい病気をしたことがなかった、アデラ・>ゲテレス(Adela Gutierrez)39歳は、病気に罹ってからも、全公務員が休みに入る復活祭の休暇まで仕事を続けた。
・・・ゲテレスは、こうして<彼女の住む>市とその郊外をくまなく回った。彼女は、人々や小企業のオーナー達に会って調査するのが大好きだった。
彼女の夫のラミレスと三人の娘達は、記者達を南部メキシコの美しい都市のオアファサ(Oaxaca)の聖バレンタイン通りにあるつましい二階建ての自宅に迎え入れる。この家の正面は小さいコンビニになっており、普段はラミレスの母親が店番をしている。
悲しみにくれつつ、この家族は、どうして彼女が亡くなったのかという質問攻めと、彼らを村八分状態にした地域社会に懸命に向き合っている。・・・
彼らは、ゲテレスが、疫病の運搬者であるという汚名を背負った医学的賤民のように描かれることを心配している。通常引き続き行われてしかるべき、お悔やみ言上のために彼らのところを訪問する者は一人もいない。・・・
ゲテレスが病気になった時、彼女を最初に診察した医者達は、彼女が喉をやられたと思った。しかし、それから彼女は呼吸が苦しくなったので、家族は彼女を病院に連れて行った。救急車が来るのが余りにも遅かったので、自分達で車を運転して連れて行ったのだ。しかし、彼らはそれから救急救命室で3時間も待たされた。それからだって、ベッドは空いていない、換気扇がついていない、のないないづくしだったとラミレスは言う。
<ようやく集中治療室に入れられたゲテレスは、4日後に死亡した。今回の新インフルエンザでの世界最初の死亡者だ。>
彼は、彼女の死が、とりわけ南部メキシコにおける公的医療の嘆かわしい状態に人々の目を向けさせるきっかけになればよいと語っている。・・・
・・・医者達は当初、ゲテレスがSARS(Severe Acute Respiratory Syndrome=重症急性呼吸器症候群)(注)に罹っていたのではないかと考えた。
(注)SARSは、これまで、コラム#117、121、124、134、200、340、886、2551で言及されている。いかにこの疾病の発生とそれへの対応が中共にとって大事件であったかを痛感する。(太田)
<彼女から採取された>サンプルが・・・カナダの研究所に送られた。そして4月23日に、ゲテレスが全く新しい種類のインフルエンザ(flu)に罹っていたという通知を<メキシコの医者達は>受けたのだ。・・・」
http://www.latimes.com/features/health/la-fg-mexico-flu-family1-2009may01,0,3290866,print.story
(5月1日アクセス。以下同じ)
2 どうしてWHO以下がこんなに大騒ぎをしているのか
(1)大騒ぎの必要はないとする意見もある
「・・・この豚インフルエンザは<A型だが、>我々人間はH1N1型<(A型)>に対する基礎的な免疫を持っているので、私はそれほどは心配していない。
それに、メキシコ以外では、<4月28日現在、>死者が出ていないことから、それほど致死性が高くないようだ。
更に言えば、<北半球では>これから夏をめがけているので、ウィルスが大量に拡散するということも考えにくい。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8022102.stm
(2)しかし大方は大騒ぎすべきだとしている
「これは新しいウィルスだ。我々は豚のウィルスと人間のウィルスの遺伝子の組み合わせなんて今まで見たことがない。
全く今までのウィルスと異なるウィルスである以上、今後どうなるのか予測することは極めて困難だ。・・・」
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8022102.stm
「・・・米国は、今回のインフルエンザに関し、確認感染者が109人、死亡者が1人が出ている。
しかし、・・・インフルエンザの季節において、毎年米国だけで36,000人がこの病がらみで死亡している。
そうだとすれば、どうして、これまでのところたったこれだけのことしか起こっていないというのに、米国や世界がかくも大仰に反応しているのだろうか。
その答えは、・・・このウィルスのことがまだよく分かっていないからだ。
20世紀後半に起こった何回かの大流行(pandemic)の多くは、少なくとも先進国では、ワクチン等の対処薬が用意されていた疾患だった。
しかし、2003年に発生したSARSやその後断続的に生起している鳥インフルエンザの一種は、公衆衛生の専門家達の間で、潜在的な大流行にどう対処するかに関する認識を一変させた。
2006における鳥インフルエンザの発生では、確認感染者は115人しかいなかったが、その69%が最終的に死亡した。
そして、SARSも鳥インフルエンザも決定的な治療法は発見されていないし、人間はこれらに対抗できる一般的な免疫を持ってはいない・・・。・・・」
http://www.csmonitor.com/2009/0501/p02s01-usgn.html
もっと恐ろしいことも囁かれているようです。
ガーディアンからの転載記事です。
「・・・保健関係の役人達は、早晩、豚インフルエンザが、鳥インフルエンザによる罹患がずっと続いている諸国に到達すると信じている。その時点で、ウィルスが融合して致死的な種へと変異する可能性があるというのだ。
ロンドン大学クィーンメリー校のウィルス学者のジョン・オックスフォード(John Oxford)は、最悪のシナリオは、ウィルス・ハルマゲドンの生起だが、その可能性が全くないとは言えないとする。・・・
今年、H5N1として知られる鳥インフルエンザ・ウィルスは、支那で7人の人々に感染したが、うち4名を死に至らしめた。今年ベトナムでこのウィルスに感染した3人は全員が死亡した。なお、このほか、エジプトで16人が感染したけれど、誰も亡くなってはいない。
豚と鳥のインフルエンザ・ウィルスの両方が、同時に同じ動物に感染すると、互いに融合することがある。一番致死的な結果は、豚インフルエンザ並に感染力が強く、鳥インフルエンザ並に致死性が高いウィルスが新たに生まれることだ。・・・」
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2009/05/01/2003442426
(続く)
新型インフルエンザ(その1)
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