太田述正コラム#3260(2009.5.7)
<シリアついに豹変へ?(その1)>(2009.6.16公開)
1 始めに
 コラム#97(2003.1.23)「シリア・・イギリスの寵児?」でシリアのバシャール・アサド新大統領とその夫人のプロファイリングを通じて、「バシャールに対する期待が、いやがおうにも高まらざるをえないではありませんか」と記したところです。
 ところが、それから、レバノンのハリリ元首相暗殺へのシリアの関与が噂される(コラム#926、929、930)わ、シリアの核装備計画を探知したイスラエルによって、秘密核施設を爆撃される(コラム#省略)わ、で私の期待は裏切られてきました。
 しかし、ここに来て、当時の私のアサドに対する評価は間違っていなかったのではないか、と思わせる動きが出てきています。
 今回は、この動きをご紹介したいと思います。
2 私のアサド評価は正しかった?
 「<米>サンアントニオの大学の教授のデーヴィッド・レッチュ(David Lesch)は、アラビア語を学んでいる学生達を連れて毎年シリア旅行を行ってきたところ、バシャール・アサド大統領との友情を築いた。「彼は私の意見や考えを買ってくれている」と彼は言う。・・・ 
 その2年前の2002年に、レッチュは自分の書こうとしていた本のためにアサドに<知り合いの(シリアの)アレッポ大学の理事長でシリアの政権政党であるバース党の幹部である人物を通じて>インタビューを公式に申し込んだ。
 だめもとのつもりだった。というのも、アラブの大抵の指導者達は・・・根掘り葉掘り聞かれるようなインタビューなどまず受けないからだ。・・・
 <しかし、アサドは受けて立ってくれた。>
 <レッチュは、もともとはメジャーのドジャースの投手だったが、肩を壊して引退し、ハーバード大学で中東史の博士号を取得し、<テキサス州>サンアントニオのトリニティー単科大学で教職に就いたという男だ。>・・・
 「バシャール<が兄の突然の死を受けて急遽父親の後継者になったこと>は、映画「ゴッドファーザー」でのマイケル・コルレオーネのことを思い起こさせる、とレッチュは彼の2005年の本の中で記している。・・・
 2004年に米国は、<上述のハリリ暗殺事件に関連して>・・・厳しい経済制裁でシリアの頬に平手打ちを食わし、その翌年には大使を召還した。・・・
 レッチュ<がアサドにインタビューする時に>は、大統領官邸かアサドのつましいマンションに招じられる。・・・
 「彼はとても低姿勢で、親しみを感じさせる、とても謙虚な人物であり、威圧するようなところは全くない」とレッチュは言う。・・・
 「・・・我々がシリアとイランについて語る時、彼はいつもそれが便宜上の同盟であることを示唆する」とレッチュは言う。彼はアサドが、「私は他に友人を持たない。友人を選べるような立場ではないのだ」と言ったことを覚えている。・・・
 <しかし、レッチュはシリアの人権問題等には触れないようにしている。また、アサドは、レッチュの治安関係者にインタビューしたいとの要求は拒否している。>・・・
 本が出版されてからもレッチュのアサド訪問は続いた。
 2006年の夏、彼は当時の妻・・・と10代の息子・・・を一緒に連れて行った。この16歳の少年が将来映画監督になりたいとアサドに伝えると、アサドは彼に自分のソニーのハンディカムを貸与してくれた<という>。・・・
 彼は、アサドが「パソコンおたく」で写真狂で外出好きで水上スポーツ好きであることを知った。また、二人とも特定のロック音楽に入れ込んでいる。・・・
 <レッチュは、米国の国務省等に年3~4回、アサドについて話を聴取されている。> レッチュが好んでするのは、2006年に、ブッシュ大統領が英国のトニー・ブレア首相との個人的会話のつもりでシリアを批判した直後に、アサドに会った時のことだ。
 しかし<これは個人的会話では済まなかった。>その年の7月に開催されたG-8サミット会場のマイクロフォンはこれを拾っており、世界中の人々がブッシュが彼の英国の相手方に気安く、「よう、ブレア」と呼びかけた後、その時現在進行形であった、レバノンでのイスラエルとヒズボラとの戦争に関してシリアを批判したことを知った。「いいかい。要はシリアがヒズボラに対し、こんなバカなことは止めろと言えばいいだけなんだよ」と。
 「そこで私はバシャールに聞いた。「この話をどう思いましたか」と」・・・。
 レッチュは、てっきりバシャールは米国とその大統領をあしざまに言うと思った。
 「しかし、彼は「いや歓迎したよ。私はブッシュがそう言ったことがうれしい。少なくとも彼がシリアのことを考えていてくれるだけで私は喜んだ。彼が我々のことを考えてくれるだけでね」答えたものだ。」
 レッチュに言わせると、これはアサドの面の顔の厚さとシリアが感じている不安感を二つながら示している。
 そのシリアが現在米国と欧州によって慎重なラブコールを受けている。シリアに中東における平和の要になってもらいたいからだ。・・・」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-syria-scholar14-2009apr14,0,6061670,print.story
(4月15日アクセス)
(続く)