太田述正コラム#3264(2009.5.9)
<シリアついに豹変へ?(その3)>(2009.6.19公開)
このハーシュの論説が出てから1ヶ月余り経って、今度はアジアタイムスに、おもわせぶりな匿名論説が出ました。
趣旨的にはハーシュ論説と同じ内容のものです。
「・・・ダマスカス所在のハマスの政治指導部が、公的声明を発することを止め、更にはシリアを去るように求められることになろうとの報道がなされている。・・・
スーダンの<首都>ハルツームがハマスのトップの新たな拠点として提示されている可能性も<取りざたされている。>・・・
もっとも、これは何週間のオーダーの話ではなく、一年かそれ以上かかる話であろうという観測が・・・なされている。・・・
シリアの駐米大使は、シリアとイスラエルの間で平和協定についての合意が成立すれば、パレスティナの諸派は、<シリアから>出て行かなければならないと、何度も言明していると報じられている。・・・
<ハマスの「タカ」派たるダマスカス組と「ハト」派たるガザ組との間の関係がギクシャクしているという報道も続いている。いずれにせよ、ダマスカス組も含め、ハマスは軟化しているように見える。>
5月4日のニューヨークタイムスの紙面を飾ったインタビューにおいて、メシャルは、「私は米国政府と国際社会に対し、我々は<決して問題の一部ではなく、>問題解決の一翼を担うつもりでいることを約束する」と語った。
この記事は、4月にはロケットと迫撃砲が6回しかガザからイスラエルに撃ち込まれていないことに言及し、メシャルが、現在のところ、ロケット発射は止められていると述べたと記している。
米国がシリアを引き込みたい理由はいくつかある。
第一に、好むと好まざるとに関わらず、<米国政府は>アラブ・イスラエル紛争の解決に向けて努力したいと考えているからだ。
第二に、米国政府は、シリアにそのイラクとの国境にもっと真剣に監視の目を光らせて欲しいと願っているからだ。・・・
そして最後に、米国政府は、イランを孤立させようとしているところ、シリアがそのテヘランとの密接な紐帯を放擲して欲しいと願っているからだ。
その見返りに、シリアは、外国からの投資を惹き付けることでその停滞している経済を発展させるとともに、その裏庭にある世界級の史跡群<という観光資源>の活用を図りたいと願っている。
また、シリアは6年間にわたる旱魃で苦しんでおり、ゴラン高原の返還を踏まえたイスラエルとの和平が実現すれば、重要な水資源が確保できることになる。・・・」
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/KE07Ak02.html
(5月7日アクセス)
4 バシャールとオバマの探り合い
「米国の役人達は、5日のダマスカスでのシリア大統領のバシャール・アサドとイラン大統領のマハムード・アハマディネジャドとの笑顔でのエールの交換に驚きはしなかったけれど、失望した可能性はある。・・・
昨年、シリアの役人達は(トルコの仲介を通じて)イスラエルと平和交渉を行ったが、今年の初めには、オバマ政権は高いレベルの使節を、ブッシュ政権が2005年に大使を召還してからというもの、初めてダマスカスに送った。・・・
<しかし、オバマ政権が送ったのは、>恐らくシリアにとって最も好ましからざる米国の役人だった。近東担当国務次官補のジェフリー・フェルトマン(Jeffery Feltman)を再び今週ダマスカスに送り込んだのだ。
駐レバノン大使を務めていた時、フェルトマンは、反シリア連合を成立させる中心的役割を果たし、元<レバノン>首相のラフィク・ハリリと何人かの反シリアの政治家達やジャーナリスト達が暗殺されたことを受け、最終的にシリア軍部隊のレバノンからの退去を強いた。・・・
地域全体を対象にした包括的取引を提案する代わり、フェルトマンは、一連の個別の争点を提示した。いわく、イラクでの叛乱分子及びハマスとヒズボラへの支援、いわくレバノン政府を転覆しようとする企み、いわく核開発計画疑惑の隠蔽、といった具合だ。
米国は、これらの諸問題における前進を、米国が大使をダマスカスに戻し、経済制裁を終了させ、シリアとイスラエルの直接和平交渉の面倒を見ることによってシリアの孤立を緩和することの対価として要求している。
これまでのところ、シリアのこれらの諸問題を解決しようとする姿勢は必ずしも鮮明ではない。
シリアは、聖戦主義者達が<イラク領内に>潜入することを防ぐためにイラクとの国境を封鎖することには協力したけれど、それ以外のほとんどすべてについてはぐずぐずしている。・・・
バシャール・アサドは、実質的に終身大統領であって、任期に制限のある米国の大統領達とは異なった時間枠の下で采配をとっているのだ。・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1896790,00.html
(5月8日アクセス)
5 終わりに
米国や英国は、バシャールやその家族のプロファイリングを綿密に積みあげた上で、アサドとの交渉に乗り出したわけです。
とりわけ、アサドが英国留学の経験があり、奥さんは英国生まれの英国育ちであることは決定的であり、アサドと米英を結びつける人脈は山のようにあります。
日本が仮に「独立」して、経済力と軍事力を能動的に用いることができるようになったとしても、日本がシリア、ひいては中東の平和と安定に寄与することなど諦めた方がよさそうです。
ではせめて、日本は東アジアでは、各国とこのような人脈を形成できているでしょうか。
台湾や韓国でさえ、日本に留学したことがあったり、日本人ないし日本で育った人を配偶者にしている指導者はほとんどいなくなりつつあります。より端的に言えば、日本語が使える指導者がほとんどいなくなりつつあるのです。
英語が世界語になったということもありますが、日本が米国の属国に甘んじ続けたこと、日本の大学の質が経済力・技術力・文化力に比べて相対的に低いこと、がこの原因だと思います。
(完)
シリアついに豹変へ?(その3)
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