太田述正コラム#3272(2009.5.13)
<日進月歩の人間科学(続x4)(その1)>(2009.6.21公開)
1 始めに
表記の最前線を覗いて見ましょう。
nature対nurture論争の最前線、と受け止めていただいて結構です。
最前線ですから、まだ結論の出ていない話も多いのですが、だからこそ、色々考えさせてくれそうです。
2 我慢する能力(Self-control)
この話は、以下に拠りました。
http://www.newyorker.com/reporting/2009/05/18/090518fa_fact_lehrer?printable=true
「1960年代末に、スタンフォード大学<で、4歳児を対象に、目の前にマシュマロを置いて、研究者が15分後に戻ってくるまでこれを食べずに我慢すれば、マシュマロ2個をあげる、我慢できなくなったらベルを押して僕を呼んでね、と言った場合に、幼児達がどうするか、という実験が行われた。
その結果、我慢できた者、我慢できなくなってベルを押した者、中にはベルさえ押さずにマシュマロを食べてしまった者もいた。
その後、研究者は、我慢ができた幼児は、10代になってからの学校の成績が良いことを発見した。>・・・
我慢できなかった者・・・は、<後に>学校と家庭で行動に問題を起こすこととなる者が多い<ことも分かった。>彼らのSATの成績も悪かった。彼らはストレス状況下では悪戦苦闘し、しばしば注意が散漫となり、友情を維持することが困難だった。
15分間待てた幼児は30秒しか待てなかった幼児に比べて、<後に、実に>SATで平均210点高い点数をとったのだ。・・・
何十年にもわたって、心理学者達は、生の知力が人生における成功を予測する最も重要な変数であると考えてきた。
しかし、<この実験の研究者>は、知力はおおむね我慢する能力によって決まると主張する。どんなに頭の良い子供だって宿題をやらなきゃならないのだと。
「<より正確に言えば、>我々がマシュマロ実験で測っているのは意思の力でも我慢する能力でもない。・・・この実験は、幼児に状況にどう対処したらよいかを見つけさせるものだ。
彼らは2個目のマシュマロが欲しいけれど、どうやったらそれを得ることができるか。我々は世界をコントロールはできないけれど、我々は世界をどう考えるかをコントロールすることはできるというわけだ。」・・・
・・・ここで要となる技術は、「関心の戦略的配分」<術>だ。
忍耐強い幼児達は、マシュマロという「熱い刺激」に取り憑かれる代わりに、目を手で覆って机の下で隠れん坊をしているつもりになって、あるいは「セサミ・ストリート」からの歌を歌ったりして、気を紛らせようとした。
彼らは欲望に打ち勝ったわけではなく、単に忘れ去ったのだ。・・・
大人の場合、この技術はしばしば超認知<(コラム#3256)>と呼ばれるところのものだ。これは、考えることについて考えるものであり、人々が自分の欠点を克服することを可能にする。
(オデュッセウス(Odysseus<。ホメロスの叙事詩、オデュッセイアの主人公>)が自分を船の帆柱に縛り付けさせたのは、彼が超認知の技術の幾ばくかを使ったことを意味する。彼は、自分がサイレン達の歌に抵抗することができなくなって屈服してしまうであろうことを知っていたのだ。)・・・
「もし熱い感情に対処できるのであれば、TVを見る代わりにSATのための勉強もできるというものだ。・・・また、退職後に備えてカネを貯めることもできるというものだ。・・・」
<これも後に発見されたことだが、幼児期の>このような違いは、19ヶ月の乳児で既に見られる。
乳児達が短時間その母親達から切り離された時の様子を観察すると、すぐに爆発的に泣き出したりドアにしがみつく者がいる一方で、不安を、多くの場合は玩具で遊ぶことで、気を紛らわして克服することができた者もいる。
その後、同じ子供達を対象に彼らが5歳になった時に<上記の>マシュマロの実験を行ったところ、<乳児の時に>泣いてしまった子供は、今回も誘惑に抗することができなかった。
これほど早期に<欲しいものを我慢して>後回しにする能力が発現するということは、そこに遺伝がからんでいることを推測させる・・・。
しかし、・・・結論を簡単に出してはならない・・・。
<研究者達は、上記マシュマロの実験対象となった子供達が40歳になった時に、再度、我慢する能力を測る実験を行った。今度はさすがにマシュマロを使うわけにはいかず、より複雑な2種類の実験を行った。>
興味深いことに、<マシュマロを>後回しにできた人々は、今回の実験でもやはり我慢強いことが明らかになった。
<こうなると、ますます、遺伝じゃないかと思われるかもしれない。しかし、「パーソナリティーは環境(context)から切り離せない<可能性があるのだ。>
<仮にそうだとすると、>古典ギリシャ時代の4つの性格(humor)から始まるパーソナリティーについての考え方<は根本的に誤っていたということになってしまう。>・・・
「・・・生まれ(nature)と育ち(nurture)を切り離すことはパーソナリティーを状況(situation)を切り離すのと同じである・・・<けれど、むしろ>これらは完全にからみあっている(interrelated)と見るべきなではないか。」・・・
<実際、4~5歳の>子供達に単純な心理トリック・・例えば、<マシュマロ>を周りが額縁の絵だと思・・・<ったり>マシュマロを雲だと思ったりする・・・ように教えてやると、彼らの我慢する力は劇的に改善する。
それまで60秒も待てなかった子供達が15分待てるようになるのだ。・・・
しかし、この効果が持続するものかどうかはまだ分かっていない。・・・
<こういうわけで、残念ながら、知力(IQ)より重要、かつより根源的と考えられるところの、我慢する能力がいかなるものかについての結論は、まだ出ていない。>
<このほか分かってきたことは、>我慢する能力を<司る大脳の部位は暫定的記憶(working memory)と関心志向(directed attention)を司る部位と同じだということだ。>・・・
<現在、脅迫-衝動障害(obsessive-compulsive disorder)や注意-散漫障害(attention-deficit disorder)と関心のコントロールや志向の能力との関係、ひいては我慢する能力との関係についても研究がなされている。・・・>
(続く)
日進月歩の人間科学(続x4)(その1)
- 公開日: