太田述正コラム#3347(2009.6.20)
<イラン燃ゆ(その3)>(2009.7.18公開)
「・・・イラン政府は、インターネットのフィルタリングをかくも長く続けたことによって、実のところ、検閲をかいくぐる方法に通暁している一群の人々を鍛え上げてしまった。・・・
2007年の世界報道の自由指標において、国境のない記者達(Reporters Without Borders)は、イランを169カ国中166位に位置づけた。
これは、トルクメニスタン、北朝鮮、エリトリアよりはマシだが、ミャンマーやキューバよりもひどいということだ。
イラン人の35%がインターネットを使用しているが、これは中東の平均である26%よりかなり高い・・・。・・・
イランの役人達は、明らかに選挙を前にして友好的で民主主義的なイメージを振りまくために暫定的に社会的ネットワーキングに対するフィルタリング規制の幾ばくかを撤廃したが、その結果、社会的ネットワーキングの力を増大させてしまったかもしれない。・・・ 多分彼等は、社会的ネットワーキングのアプリケーション<規制>を緩める結果がどうなるかを予想できなかったのだろう。
今や、人々は極めて強力なプラットフォームを手にした。
彼等は、これらの道具を使うことに慣熟しまったのだ。・・・
「ツイッターそのものが未完成であること、これをつくった制作者達がそれを誰でも完成させることができるようにしたいと考えたことが、それをかくも強力なものにしたのだ」・・・」
http://www.csmonitor.com/2009/0619/p06s08-wome.html
(6月20日アクセス。以下同じ)
3 イラン騒擾をどう見るか
「・・・この政治闘争は、欧米のメディアのいくつかで描かれているような、イラン政府と抑圧された反対派との間のものではない。
それは、イランの政治的な体制派(establishment)のど真ん中におけるイデオロギー的抗争なのだ。・・・
このイスラム共和国は、絶対的な政治的主権が人民に存する民主主義国家なのか、それとも、人民の主権がイスラム倫理、イスラム法、そしてイスラム的諸価値に通暁する人々による指導の必要性によって制限されている民主主義国家なのか、という・・。・・・」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/cifamerica/2009/jun/19/iran-obama-us-policy
これは、ガーディアンが載せたコラムにしてはできが悪いですね。
どう見ても、今回の騒擾は、イランが「人民の主権がイスラム倫理、イスラム法、そしてイスラム的諸価値に通暁する人々による指導の必要性によって制限されている民主主義国家」と考えている体制派内のコップの中の争い的な権力闘争でしかないからです。
それでは、どちらの体制派の主張の方が、よりもっともらしいのでしょうか。
「・・・イランの大統領選でインチキがあったということが当然視されている。
しかし、政府がどれくらいそれに手を染めたのかを知ることは不可能だ。
いずれにしてもアフマディネジャドが勝利したであろう、という可能性も十分すぎるくらいあるのだ。
ただし、かろうじて、そして恐らくは総得票数の50%未満での勝利だが・・。
しかし、そうなると、決選投票ということになって、他の候補者達がアフマディナジャドに対して団結すれば彼は敗れてしまうかもしれない。
だから、彼の政府が、最高指導者のアヤトラ・アリ・ハメネイと示し合わせて、絶対にこんな風にならないようにと決意をした、という可能性がある。・・・
・・・<その結果、>容易に見ることができない、イラン社会における分裂を垣間見ることができた。
・・・それは単に、アフメディネジャド支持の労働者階級とムサヴィ後援者であるところの、より富裕でより教育程度の高い人々の間の分裂ではない。
イラン政府の最高レベルでの内部的ライバル関係が初めて、そして最も赤面するような形で明るみに出たのだ。・・・
<アフマディネジャド>大統領は、疑いもなく、この競争における最も練達の政治家だ。・・・
・・・チーズを買う大衆・・労働者階級、老齢者、チャドルを纏った女性達・・の多くはアフマディネジャドを崇敬しているように見える。・・・
アフマディネジャドは、イラン・イラク戦争の帰還兵達に多大なる関心を寄せ、彼等の子供達の大学への入学に特別の優遇措置を講じた。・・・
他方、ムサヴィの方は、個人的崇敬の対象にはほとんどなっていない。・・・
彼は、アフマディネジャドのイスラエルやホロコーストといった国際案件での激しいレトリックをこの選挙中も含め批判してきた。
「我が国の外交政策において、我々は、根本的案件、すなわち我々の国益に関わるものをどちらかといえば国内的利用のために扇情主義(sensationalism)的に扱ってきた」と。
しかし、「国内的利用」のための「扇情主義」とは、普通政治運動のすべてと言ってよい。・・・<ムサヴィはナイーブ過ぎるのだ。>
選挙当日、テヘラン北部のホセイン・エルシャド・モスクで、私は、テヘランのすぐ西にあるマラード(Malard)市のタクシー運転手組合の組合長の・・・と話をした。
彼は、ムサヴィの支持者だったが、「私のタクシーに乗る人の大部分は現在の政府で満足している」ことを認めた。・・・
選挙の少し前、改革派と事大派(principalists)・・その中には何人かのアフマディネジャドの顧問達も含まれていた・・は私に、誰が選挙で勝とうとも米国との交渉が行われることになるだろうと語った。・・・
「交渉チームは、最高指導者と大統領によって共同で決定されることになるだろう。
最高指導者はその成り行きに多大な懸念を持っているので、強硬な交渉者を欲しているはずだ。」・・・
・・・ある著名な保守派は私に、「もしあの大悪魔(the Great Satan=米国)がいなくなってしまってなおかつ我々に問題が残ったとすれば、どうやったら最高指導者はそのことを説明すればいい? イランのほとんど全員が米国との戦争を終わらしたいと思っている。しかし、最高指導者は、<イラン国民の中で>一番この和平を欲していないのだ。」と語った。・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1905331,00.html
(6月20日アクセス)
説得力ありますね。
要するに、アフマディネジャド一派の主張の方がもっともらしい、とこの記者は言っているのです。
こういう記事を書く記者をすごいというのです。
(続く)
イラン燃ゆ(その3)
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