太田述正コラム#3411(2009.7.22)
<米国における最新の対外政策論(その5)>(2009.8.22公開)
「・・・<右翼ナショナリストたるボルトンは、積極的に>ベトナム戦争に志願したかと言えばさにあらず、彼は、1970年に、<米国は、既にこの戦争に敗れたとして、>「無意味な戦争に関わって時間を無駄遣いしないことにした」。
そして、徴兵逃れをするために、彼は、ジョージ・W・ブッシュと同じく、<徴兵されてベトナムに派遣されることがなく、かつパートタイム勤務であるところの、>州兵の兵士となることに成功した。
最優等(summa cum laude)でファイ・ベータ・カッパ(Phi Beta Kappa。米国の最優秀学生・卒業生を対象とする会員制クラブ)の会員としてエールの学部を卒業した後、彼は、エールのロースクールに進学した。
そこでは、彼は、<後にブッシュによって最高裁判事に指名されることとなる黒人の>クラレンス・トーマス(Clarence Thomas)の級友となり友人となった。
ビル・クリントンとヒラリーも彼の級友だったが、彼は、<思想信条的に相容れないことから、>彼等の仲間には近づかないようにしていた。・・・
ボルトンは、条約も<狭義の>国際法も嫌いだった。
彼は、ドゴールの有名な言、「条約なんてものはだな、いいか、女の子や薔薇の花みたいなものさ。これらすべては、一時(とき)のものなんだ(they last while they last)」を引用しつつ、「条約など、要するに単なる政治的文書なのだ」と付け加えている。・・・
彼は、9.11同時多発テロを正当化に用いつつ、ロシアと米国がミサイル防衛システムを開発することを互いに事実上禁止しあったところの、冷戦時代の遺物たる、1972年の対弾道ミサイル条約(Anti-Ballistic Missile Treaty=ABM)からの<米国の>脱退を推進した。・・・
ボルトンが最も憎んだところの、大嫌いの代物(bete noire)は、国際刑事裁判所(International Criminal Court=ICC)だった。
国務省時代で最も幸せを感じた瞬間は、「私個人として、この裁判所を設立したローマ規程(Rome Statute)に「調印しなかった」時だ、と彼は記す(注)。
(注)中共、ロシア、インド等も調印していない。ちなみに、ローマ規程の採択は1998年、規程が効力を発生したのは2002年。ICCは、2002年以降にジェノサイド、人道に対する罪、諸戦争犯罪、及び侵略の罪(最後のものは現在停止中)を犯した個人を裁く対象としている。 (太田)
http://en.wikipedia.org/wiki/International_Criminal_Court
ボルトンは、全球的に、100近い国の政府から米国人をICCに引き渡すことがない保証を求めるキャンペーンを展開した。(ICCに係る規程に照らせば、こんなことはおよそ想定されないのだが・・。)
このような、そしてそれ以外の、ボルトンの米国務次官としての業績は、世界における米国のリーダーシップと位置を掘り崩すことに著しく貢献した。・・・
安全保障理事会は、国連のうち、ボルトンが無用ではないと認めた唯一の機関だ。
「総会と経済社会理事会(Economic and Social Council=ECOSOC)は、酸素と紙を消費しているだけだ」とボルトンは記している。・・・
ジョン・ボルトンによるこの回顧録の半分以上は、ブッシュ政権の2期目において、彼が米国連大使として過ごした17ヶ月間にあてられている。
彼は、彼が国連にいた期間を通じて、ブッシュ政権の<対外政策に係る>アプローチの変化にいかに不満であったかを暴露している。・・・」
http://www.nybooks.com/articles/21052
ボルトンは、身体は立派で頭もいいけど、情緒は発育不全の子供のままのような人物って感じですね。
まさに、米国を象徴するような人物だと思えばよいのでしょう。
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1 始めに
最後にご紹介するのは、孤立主義者たるウィリアム・グレイダー(William Greider)の ‘Come Home America: The Rise and Fall (and Redeeming Promise) of Our Country’ です。
彼は、経済ジャーナリストであり、現在、ネーション(Nation)誌の国内問題の記者をしています。
2 グレイダーの本の内容
彼の本の一節の引用か始めましょう。
「・・・問題は、誇りを持って<いる>・・・米国人・・・たる我々<がつくっている>社会が、成熟することができるかどうかだ。
米国<社会>は、人生において何が一番大切で何がそうではないか、ということについて、より深い感覚を身につけることができる<し、身につけなければならない>。
米国は、自己破壊的な諸反射作用を脱ぎ捨て、米国の様々な理想に根ざした国家的自己利益について、より賢明な感覚を身につけることができる。
智慧は利己主義をやわらげる。
これは、国民についても国についてもあてはまることだ。
<今までどおりでいると>、米国は、放縦的にまっしぐらに<前に向かって>飛び出し、破壊的な諸習慣を<性懲りもなく>繰り返し、無謀な様々な大風呂敷の実現に乗りだし、一層深いトラブルに陥ってしまいかねない。
我々は皆、いかなる原因によるかはともかくとして、年をとっても決して自分自身<の何たるか>を発見しない子供達を知っている。
同じことが国々においても起こりうる。
とりわけ、自分達自身を新しい諸現実と妥協させることを拒絶する国々においては・・。
私は米国は成熟する、という方に賭けており、多くの米国人がこのことに同意することを希望している。・・・」
http://intrepidliberaljournal.newsvine.com/_news/2009/03/22/2583257-come-home-america-an-interview-with-truth-teller-william-greider
(7月22日アクセス。以下同じ)
極端な見解の持ち主という点ではボルトンといい勝負のグレイダーですが、この総論的記述を読む限り、ボルトンとは違って、実に成熟した大人に見えますね。
(続く)
米国における最新の対外政策論(その5
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