太田述正コラム#3508(2009.9.7)
<皆さんとディスカッション(続x591)>
<TT>
 はじめまして、属国論を入り口として最近コラムに惹きつけられた者です。何の専門知識もなく皆さんの話についていけるか不安ですが、興味だけをもって<今度のオフ会に>参加します。
<太田>
 これで、私を除き、12日のオフ会出席者は10名になったんじゃないでしょうか。
 オフ会出席ご希望の方は、下掲↓のフォームでどうぞ。
http://www.ohtan.net/meeting/ 
<kt2>
≫「国を守るとは、言うまでも無く、国民の生命を守ることで」あるはずなかろ。 そんなの常識じゃん。≪(コラム#3492。太田)
 国を守る=国民の生命を守る、これがほとんどの国民の共通認識だ。
 そうでないなら、侵略戦争を恐れている人たちでさえ自衛隊は不要だと思うだろう。
 歴代首相、閣僚も、国民の生命財産を守る、と説明している。
 防衛省も同様だ。HP(http://www.mod.go.jp/)を検索すると、
 「国を守る: 自衛隊の最も大切な役目は、日本の国民や領土・領海・領空を侵略から守る事です。まずは侵略を受けないようにそして万が一侵略を受けた時に国を守る為自衛隊は必要な装備を備え、訓練を重ねています。」
 「陸海空の任務: 自衛隊内の組織の中でも最大の規模を誇る陸上自衛隊の駐屯地等は、全国に約160カ所、人員は約15万人。「愛する人を守る」という一つの目的のもと、さまぎまな人間が多様な分野において日々業務についています。」
 国は国民にウソの説明を行っている、と言いたいのかしら?
<太田>
 歴代首相、閣僚がどう言っているのかは知らないけど、防衛省のHPについて言えば、後段の「愛する人を守る」云々というのは、情緒に訴える文学的表現だから置いとくことにしようか。
 前段についてだけど、それは、日本の
 「・・・法学・政治学においては、以下の「国家の三要素」を持つものを「国家」とする。これは、ドイツの法学者・国家学者であるゲオルク・イェリネックの学説に基づくものである・・・。
 国家の三要素<とは、>領域(Staatsgebiet:領土、領水、領空)・・・人民(Staatsvolk・・・権力(Staatsgewalt)ないし主権–正統な物理的実力・・・である。この<正当な物理的>実力は、対外的・対内的に排他的に行使できなければならない、つまり、主権的(souveran)でなければならない。
 <すなわち、>国家とは、権力が領域と人民を内外の干渉を許さず統治する存在であると捉えられているのである・・・」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E5%AE%B6
という通説を、要約して述べているに過ぎない。
 つまり、前段は、「自衛隊の最も大切な役目は、」「国<家>を守る」ことであって、それは、「<人民=>国民」」と「<領域=>領土・領海・領空」を「内外の干渉を許さず統治する」こと、すなわち、「主権」を維持することだ、と言っているわけで、何ら間違っちゃいないさ。
 ただし、この場合の「<人民=>国民」は、「<領域=>領土・領海・領空」とともに、それが欠けたら、つまり、ゼロになったら、もはや「国<家>」とは言えない、という意味で言及されているのであって、個々の人民(国民)の生命を意味しているわけではないんだよ。
 だから、キミの前段の解釈は、後段の文学的表現に引きずられた誤読です。
 もっとも、こういう文章を掲げた防衛省の意図が、この種の誤読を期待したものである可能性は否定できないけどね。
 (ただし、キミとのやりとりの最後の部分も参照してくれたまえ。)
 私は、最初に防衛白書を手がけた時、その1982年版で、このような誤解が生じないように、自衛隊が守るのは国<家>であることを強調するとともに、更に一歩踏み込んで、日本という国<家>を守るとは、日本が拠って立っている自由民主主義という価値を守ることであって、そのためには日本も集団的自衛権を行使して、世界の自由民主主義諸国とともに、世界の平和と安定に貢献しなければならない、という気持ちを、この白書全体ににじませることに努めたんだな。
 もとより、それでもなおあきたらなくて、自由民主主義にも様々なバリエーションがあるところ、個別的自衛権行使の観点からは、日本という国が古来から受け継いできた日本文明というバリエーションを自衛隊は守ることになる、ということまで本当は言いたかったんだけど、そこまでの気持ちを白書ににじませることは控えたって経緯がある。
<kt2>
 利権のために有りもしない軍事脅威を煽り、利権のために現実に有る脅威を無視する。
 「そんなの常識じゃん」と言っている間にも、毎日1000人の癌患者が亡くなっている。
 その半数は、欧米の標準治療を受けていたら亡くならずに済んだ可能性の高い人たちだ。
 まさに官僚天国の犠牲者たちだ。
 「国による生命の優先順位の付与」の結果、国民の生命は、その順位が低いから、この状態を今後も放置し続ける、と言いたいのかしら?
<太田>
 病気やけがによる死亡を少なくする点に関して言えば、日本において、その国策としての優先順位は高いし、厚労省(旧厚生省)の官僚達も、他の先進国の官僚達に比べてそれほど遜色のない仕事をしてきたと言えるだろう。
 (同じ連中が、年金についてはああもダメだったのが不思議に思えてくるけど、医療については例外だと考えるべきだろうね。)
 米国と比べるのはちょっと面はゆいが、この記事↓を読んでごらん。
 Diet and lifestyle here are generally healthier than they are in the United States. There is less violent crime, fewer car accidents and much less obesity. Only about 3 percent of Japanese are obese, compared with more than 30 percent of Americans,
ということも考慮しなきゃならないけど、
 ・・・The Japanese visit a doctor nearly 14 times a year, more than four times as often as Americans. They can choose any primary care physician or specialist they want, and surveys show they are almost always seen on the day they want.  All that medical care helps keep the Japanese alive longer than any people on Earth while fostering one of the world’s lowest infant mortality rates.
 Health care in Japan・・・consumes about 8 percent of the nation’s gross domestic product, half as much as in the United States.・・・
 ・・・working-age patients are required to make a 30-percent co-payment for treatment and drugs — the highest such fee in the world. But those payments tend to be relatively low because of the tight lid on costs・・・
 As a result, most Japanese doctors make far less money than their American counterparts. Administrative costs are four times lower than they are in the United States, in part because insurance companies do not set rates for treatment or deny claims. They cannot, by law, make profits or advertise to attract low-risk, high-profit clients. ・・・
 Japan also has about three times as many hospitals per capita as the United States does. ・・・
 ・・・the length of hospital stays, which are four times as long in Japan as in the United States.・・・
 New mothers in Japan often stay in a hospital for five days after a routine delivery; in the United States, they rarely stay for more than one or two. ・・・
 Medical malpractice insurance in Japan is not a major expense for many doctors・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/09/06/AR2009090601630_pf.html
は、胸を張っていいんじゃないかな。
 ただ、今後は高齢化が加速度的に進展するので、このままだと日本の医療が米国化する可能性が高い、ということは忘れちゃならないけどね。 
<kt2>
≫年金は、(本人の拠出分もあるけど、)彼等公務員の給与の後払いっていうか賞与≪(コラム#3492。太田)
 彼らに対する評価は、ノーパンしゃぶしゃぶ、ゴルフ、箱モノ、無駄使い、お役所仕事、保身、利権、省庁あって国無し、…。
 負の補填金なり負の給与、負の賞与にしたい気分だ。
 これが国民の共通認識だろう。
 「少額ではあるけれど」と思っているのは本人だけだ。
 会社員の平均所得が400万円、ワーキングプア1000万人が200万円、
 一方、公務員の平均所得が600万円、外郭団体700万円。
 利権、天下り給与、渡り退職金…。
 それでもなお、「給与の後払い」が必要なのか。
<太田>
 日本の官僚機構の堕落、腐敗を何とかするためにも、2001年以来、私は公務員給与を「返上」し、天下りによるヤミ年金ももらわず、蟷螂の斧かもしれないが、自民党政権の打倒に向けて努力してきたってわけさ。
 しかし、ようやくのことで民主党政権が樹立されるようになったとはいえ、私にとっては、孫文じゃないけど、革命いまだならずだ。
 皆さんからの会費に加えて、今年から出るようになったささやかな年金がこんな私の活動を支え続けることは、そう悪い話じゃないと思うがね。
<kt2>
≫バスやトラック以外の自動車を廃止しようという意見すらないよね。≪(同上)
 公道上でのマイカー禁止は学生時代からの持論だ。だから運転免許を取得していない。
 南アルプススーパー林道のような、建設自体が目的の利権道路、それによる自然破壊への怒りがきっかけだ。
 自然保護派には少なくない意見だ。
 マイカー禁止を実行していたら、地方の鉄道、バス路線、フェリー航路が今ほど廃止されなかっただろう。
 <今や、>田舎では、車を運転できなくなったお年寄りは生きていけない。
 どんな案件でも多様な意見があることを銘記してほしい。
<太田>
 多様な意見を持つのは自由だが、その前に、私のコラムを読んで、グローバルスタンダード的な意見をぜひ頭に入れておいて欲しいな。
 最後に、最近の私の、生命がらみの安全保障論(コラム#3492)と上で述べた国の守り論との関係について一言。
 「権力が領域と人民を内外の干渉を許さず統治する」の「統治する」とは、有限であるところの資源の配分を行うということであり、キミを含む人間にとって、最も重視するのは一般に自分自身を含む人間の生命であるところ、「統治する」にあたって一番重要なのは、日本国民や外国人の生命にTPOに応じて優先順位をつけ、その優先順位に基づき、その生命を守るため、日本のヒト・モノ・カネといった有限資源、とりわけヒトの生命の配分を行うことであり、この営みこそ安全保障であると言える、と理解して下さい。
 頭が混乱してきたって?
 じっくり読めば理解できるはずだよ。
<οοαα>(「たった一人の反乱」より)
・・・
Miyuki Hatoyama
Married to Yukio Hatoyama
Wacky rating Off the scale
http://www.guardian.co.uk/world/2009/sep/03/miyuki-hatoyama-japan
<太田>
 この記事↑のタイトル、Japan’s first lady: ‘Venus is a beautiful place’ だけ見て、またか、と読まなかったんだけど、さすがガーディアンの東京特派員。
 イカレ度の少ない順に、メルケル独首相のだんな、ブラウン英首相の奥さん、オバマ米大統領の奥さん、サルコジ仏大統領の(現在の)奥さん、ブレア前英首相の奥さん、そしてイカレポンチ中のイチバンである我が鳩山次期首相の幸さんだと。
 言えてる。
 そのほかの記事の紹介です。
 本来食事をする時間じゃない時間に食事をするとてきめんに太るようですよ。↓
 ・・・The experiment looked at two groups of mice・・・. Both groups were fed a high-fat diet, but at different times of the mice “waking cycle”.
 One group of mice ate at times when they would normally be asleep. They put on twice as much weight.
 This was despite them doing the same level of activity, and eating the same amount of food, as the other mice.
 The findings may have implications for people worried about their weight.・・・
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8234386.stm
 エジプトにおけるユダヤ人女性歌手(故人)の「復権」(コラム#3504)の背景が分かる記事です。↓
 ・・・Egypt has slowly, quietly been working to restore its synagogues for several years.・・・
 But because of the perception on the street — the anger toward Israel and the deep, widespread anti-Semitism — the government initially insisted that its activities remain secret.・・・
 ・・・why the sudden public display of affection for Egypt’s Jewish past?
Politics. Not street politics, but global politics.
 Egypt’s minister of culture, Farouk Hosny, wants to be the next director general of Unesco, the United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization.・・・
http://www.nytimes.com/2009/09/07/world/middleeast/07cairo.html?_r=1&hp=&pagewanted=print