太田述正コラム#3493(2009.8.30)
<イギリス大衆の先の大戦観(その1)>(2009.9.28公開)
最終的に民主党が2/3とるかどうかだけが問題の総選挙の結果ですが、どうしても開票の途中経過が気になってコラム執筆に集中できません。この新シリーズの一回目は、軽く流させていただきます。
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1 始めに
既に本コラムで2度(コラム#2917と3156)登場した、英国の歴史家、アンドリュー・ロバーツ(Andrew Roberts)が上梓したばかりの’The Storm of War A New History of the Second World War’が、英国でバカうけしています。
例によって、各種書評↓を手がかりにして著者がどんなことを言っているのかをご紹介したいと思います。
。
A:http://www.guardian.co.uk/books/2009/aug/29/the-storm-of-war-review
(8月29日アクセス)
B:http://www.heraldscotland.com/arts-ents/non-fiction-reviews/the-storm-of-war-a-new-history-of-the-second-world-war-by-andrew-roberts-1.823194#
(8月30日アクセス。以下同じ)
C:http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/books/reviews/the-storm-of-war-a-new-history-of-the-second-world-war-by-andrew-roberts-1771509.html
D:http://www.economist.com/books/PrinterFriendly.cfm?story_id=14082081
E:http://entertainment.timesonline.co.uk/tol/arts_and_entertainment/books/non-fiction/article6732253.ece?print=yes&randnum=1251619933187
F:http://www.spectator.co.uk/print/the-magazine/books/5244068/one-man-and-his-dogma.thtml
G:http://www.telegraph.co.uk/culture/books/bookreviews/5983560/The-Storm-of-War.html
H:http://www.express.co.uk/features/view/120424/The-Storm-Of-War-A-New-History-Of-The-Second-World-War
先の大戦の通史なんて、汗牛充棟ですが、この本をとりあげることにしたのは、単に最も新しい本だからということではなく、以下↓のようなことから、この本は学術的には陳腐だけど、大人気を博しているだけに、英国の大衆が抱いている、もしくは抱きたいところの、先の大戦観がよく分かるからです。
「・・・<ロバーツの>解釈に独創性はない・・・。・・・
繰り返しが多いし、矛盾点もいくつかある。
ロバーツは、連合国の勝利は必然であったわけではないと言いつつ、ヒットラーは世界の5大国のうち4つを敵に回したことで最初から敗北が決まっていたと主張している。
彼は、間違った判断もいくつかしている。
<例えば、>アイゼンハワーはモントゴメリー(Montgomery)の「尊敬を勝ち得た」とされているが、(<モントゴメリーが>計算ずくで<アイゼンハワーに>褒め言葉をいくつか投げかけたということはあったけれど、)モンティー<(=モントゴメリーの愛称)>について、アイゼンハワーが、「いかに戦争を指導する(run)かについて、絶対かつ完全に無知だ」と述べたことが示すように、甚だしく軽蔑していたということははっきりしている。」(E)
2 米国について
「・・・ロバーツは、米英関係についても甘っちょろい見方はしていない。
「<先の大戦において、>米国と英国の間の海洋同盟(wartime alliance)<が成立したこと>について、そうなる必然性はどこにもなかった」と彼は言う。
「英国と米国との間では、1920年代と1930年代、多々、対抗関係(rivalry)があった。
それは、米英双方が互いに抱いていたところの、無知に起因するステレオタイプによって悪化が募ったものだ。」
ロバーツは、米国の元駐英武官の言、「イギリス人は、我々が金持ちの(prosperous)くろんぼ(nigger)を見るような具合に、我々を見ている」をさえ引用している。
米国のロバーツ崇拝者達は、ロバーツが、ロシア人達の方が、よりたちが悪い(determined)連中であったと断ってはいるけれど、米軍の一般住民の女性に対する強姦の実態を赤軍のそれと比較している箇所は快くは思わないだろう。
彼は、米軍における人種差別主義についても暴露している。
すなわち、米軍で黒人は8.5%しか占めていなかったのに、強姦で処刑された者の79%が黒人だったのだ。・・・」(A)
このような、米国内での黒人等の有色人種に対する差別意識、及び、モントゴメリーのアイゼンハワーに対する軽蔑にも現れているところの、英国人の米国人に対する侮蔑意識は、いずれも緩和はしつつも、現在もなお厳然と残っていることを、我々は決して忘れてはならないでしょう。
それにしても、「1920年代と1930年代」における米英の「対抗関係」について、どれくらいロバーツが具体的に書いているのか、・・例えば、米国の対英戦争計画(レッド計画。コラム#1621)に触れているのか・・興味津々といったところです。
(続く)
イギリス大衆の先の大戦観(その1
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