太田述正コラム#3568(2009.10.7)
<皆さんとディスカッション(続x620)>
<KY>
≫<びり江>
英国も五十歩百歩なんじゃないかなあ。
<太田>
KYさん、何かおっしゃりたいことは?≪(コラム#3566)
太田様、皆様、
先ず最初に明確にしておきたい事は、人種差別は何処の国でも起きますし、そりゃ英国にも幾らでも存在するという事です。
ただし、先ず前提条件として、英国は常に大量の移民を受け入れているという事があります。
特に過去60年の大量移民の結果として、更にはEUの東方拡大の結果として、例えば英語が全然通用しない場所が存在するとか、白人がやっと一人いたと思ったらアルバニア人だったとか、学校に行ったら自分ともう1名以外は全員イスラム教徒の不良で、昼飯で豚肉を食ったら殺されそうになった(一時期バーミンガムに住んだウェールズ人の友人の経験)とか、そういう事態が普通にあります。
前回私が、ここの支那人や越南人について、「英国の貧民窟の一部少数民族のように、世紀末的無茶苦茶をする訳でも無く」という一言を入れたのは、そういう背景があったからです。
その様な状況に対する反動として、移民に対する反感とか、反イスラム感情とか、反EU感情が生まれて来るのは、これはどうしようも無いかと思います。
最近でも、ロンドンのTower Hamletの議会がほぼ全員ベンガル人になって、それが殆ど親戚同士で、勝手し放題だとか、そんな記事を読んだ気がします。
例えば、仮に東京都足立区西新井一丁目の住民の95%が外国人になり、59%は広東語、30%は韓国語、10%はロシア語、5%はナイジェリアのイブ語を話し、日本人である5%の半分は最近の帰化者で日本語が駄目だったら、そこの2.5%は非常に不愉快になるでしょうし、おまけにに貧乏で教育も無くて転職も引越しも出来ず、西新井出身と言うだけで履歴書を読んでも貰えないとなると、イギリスで言う所のBNPみたいな党だって出来るのでは?
区役所でロクに日本語が通じなければキレるでしょう。
以前の私の近所でも、滅法旨いカレー屋なんですが、英語が通じないもので、注文通りのものが出て来ない事が多いんですね。
どうせ何を食っても旨いのは確かなんで我慢しましたが、普通なら呆れるでしょう。
英国には比較的最近まで移民規制自体が存在しませんでした。それが最初に導入されたのは、確か1905年の”Alien Act”だったかと思いますが、これは東欧で起きたポグロムの結果として大量に発生したユダヤ人移民の結果です。
これだって、犯罪者と病人と無一物の貧民を排除するだけで、逆に言えばそれまではそういう人間でも移住できた訳です。
http://www.20thcenturylondon.org.uk/server.php?show=conInformationRecord.35
その後に植民地の独立が起きましたが、そこの住民は英国の臣民だったので、戦後の労働力不足もあって大量の旧英領からの移民が到着します。
その結果、各種の社会的摩擦、例えば人種暴動などが起きますが、そういう感情的軋轢の象徴と言えば、Enoch Powell による “The River of Blood Speech” ではないかと思います。
しかし、これだって40年も前です。
http://en.wikipedia.org/wiki/Rivers_of_Blood_speech
”About half the population increase between the 1991 and 2001 censuses was due to foreign-born immigration. 4.9 million people (8.3 percent of the population at the time) were born abroad, although the census gives no indication of their immigration status or intended length of stay.”
”By 1972, only holders of work permits, or people with parents or grandparents born in the UK could gain entry – significantly reducing primary immigration from Commonwealth countries.”
”The Home Office publishes quarterly statistics on the number of applications to the Worker Registration Scheme. Figures published in August 2007 indicate that 682,940 people applied to the scheme between 1 May 2004 and 30 June 2007, of whom 656,395 were accepted.”
http://en.wikipedia.org/wiki/Immigration_to_the_United_Kingdom_since_1922#Post-war_immigration_.281945-1983.29
つまり、この人種差別と言うのは、あくまで実際の超大量移民の結果なんですね。
さらに興味深いのは、その結果として各民族間の差異も顕在化したというのがあるでしょう。
パキスタン人の評判は実際に酷いですが、中国人は決して不評を買ってはいないと思います。
それで、実際に差別的な言動をする人間を、まあ見たといえば見たんですが、これは所謂「スカリー」(scally)とか、「チャブ」(chav)とか「ネド」(ned:ネアンデルタールの略)とかいう連中で、貧困地域の公営住宅に住み、生活保護を貰い、母子手当ての為に2年毎に餓鬼を作り、動物みたいに生きている連中が殆どでは。
そういう所から何とか抜け出した奴が友人にいますが、まさに地獄絵図です。
こいつらの粗暴行為の対象は異人種だけじゃないですが。
翻ってここではどうでしょうか。マンチェスターから来ると、実際に吃驚する程に「白い」んですね。
異人種の移民なんてそういやしないというのが明確な現実です。
それにもかかわらず人種差別を食らうというのは、やはり奇妙な話だと思います。
ポーランドって、実は日本マニアも結構見掛けます。
ここだと「お前の国は素晴らしい」という事で歓待されるんですが、行った事も無い国で、そこから来る人間にそれまで会った事も無いのに、紙の情報だけで好意を持つという事は、逆に言えば情報次第でその民族なり人種なりに悪意を持つ奴もいる筈です。
こういう事って英国ではあまり経験しませんでした。
いや、教養人で日本事情に異常に詳しく、実際に気に入って何回も行った事のある奴は何人か知っていますが、だからといって私個人まで素晴らしくなる訳ではないというのが、人種主義とは対極にある、個人主義的なイングランド人の発想なのではないでしょうか。
<太田>
これまた、打てば響くような対応をしていただき、ありがとうございました。
一つだけ付け加えれば、イギリス人が、エリートであれ大衆であれ、日本に対して悪感情を抱いていても不思議はない・・悪感情を抱いている(コラム#506)と言い切ってもいいでしょう・・のは、何度も繰り返していることですが、先の大戦の結果、大英帝国の過早な瓦解をもたらしたのがこの日本だからです。
これは、むしろ名誉なことと言うべきでしょう。
<MN>
民主党政権になり、「東アジア共同体」なる文字がメジャーメディアで登場するようになりました。
隔世の感があります。
そんな中、これは大ニュースだと思うのですが・・・それともこれも英国風韜晦なんでしょうか?
http://www.telegraph.co.uk/finance/comment/ambroseevans_pritchard/6259211/The-result-in-Ireland-shows-that-Europes-usurpers-have-succeeded.html
<太田>
テレグラフは、英国の保守系の新聞
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Daily_Telegraph
であり、欧州嫌いのイギリス世論を考えれば、お示しのような反EU的記事が出るのは大ニュースどころか、ニュースとすら言えません。
いずれにせよ、いささか分かりにくい記事ではあるものの、反EUという点で韜晦しているわけでは全くないと思います。
<TU>
やはり保護国だなあ日本。民主党になって、少しでもよくなったんでしょうか?
【経済】日本政府が外貨準備を使い、経営危機を迎えていた米金融2社・・・フレディマックとファニーメイ・・・の社債数兆円を買い支える計画だったことが明らかに(08年8月)(毎日)
http://mainichi.jp/select/today/news/20091006k0000m020130000c.html
<αττα>(「たった一人の反乱」より)
・・・
属国であることで、日本が外国にどれだけ毟られてきたか。
そしてこれからもどれだけ毟られることか。
「世間の大人どもが本当のことを言わないならオレが言ってやる……!
国防と外交を丸投げした日本は米国の属国…!
そこの認識をごまかす輩は生涯地を這う……!!」
(AA略 利根川調でおーたんが言えば最高だ。)
<太田>
お二人とも目の付け所がいいねえ。
大体からして、伊吹財務相(当時)の頭越しに財務省の事務方が、そんな話を進めてたってのはどういうわけだ。
財務省キャリアや外務省キャリアも総とっかえしなきゃダメかもね。
いずれにせよ、「独立」を果たすまでは、「少しでもよくな」るこたあないよ。
宗主国との軋轢がより目に見えるようになる可能性はあるけど・・。
<ΤΤαα>(同上)
問題は多くの人が、自分達の家族が戦争に行かなくて済むのなら属国でも全然いいと思ってること。
<ΤαΤα>(同上)
それ以前の問題で、多くの人は属国という概念が無いだろ・・・。
塀の中で安全に飼われている、おとなしい羊たちの群れなんだとおもう。
でもって重病なのは、自分達は自由であるとおもっているし、まして家畜(属国)なんぞとは露ほどもおもっていない。
自分達の安全(権利)が守られればそれで善しで、この羊たちは屠殺される(生殺与奪権は他者にある)運命であることなんぞは考え及ばず、この羊たちの群れの中で「ちょっと待てよ、俺達は黙って大人しくしていると殺される運命にあるんではないか~」なんぞと声を上げれば、こいつは不穏分子だと仲間はずれにされてしまう。
現在の日本は「属国」なんだ~と、少しづつでよいから寝ぼけた眼を覚まさせる 手助けをできればよいかと。
<ΤααΤ>(同上)
俺の家族に、属国のこと話たら、ネットばっかしてるからおかしなことを言うようになったってキチガイ扱いされたぞ。
属国とか、発想自体がそもそも無いんだから、目を覚まさせるのは大変だなぁ。
<太田>
元経産官僚の岸博幸君さえも、夢にも日本が属国と思ってない(コラム#2975)のにはさすがに私も口あんぐりだったけどね。
<ΤαΤα>(同上)
<「属国」という>安全な立ち居地で、自分達の権利の確保と安穏を図っているのは国民だけではなく、民主政権確立により、より強大な利権を得た“労組”が問題だとおもうぞ。
民主政権で強力な権力を得た労組だが、本来労組(組合)は、現在の格差社会を生み出した要因でもある“派遣問題”にこそ正すために行動しなければならないものを、自分達労組(正社員)の都合の良いように黙認し、胡坐をかいてきたという事実がある。
現在の労組とは、正社員の、正社員のためにだけある組合なんだぜ。
JAL問題が最近喧しいが、この労組がいくつもある(7?)JALは、日本の問題の縮図
でもある。
労組は当然ながら経営責任もあるのに、自分達の権利だけを求めてきただけでこれも吉田ドクトリンの麻薬に蝕まれているさもしい姿だとおもうが・・・。
↓労働貴族(懐かしいな~)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8A%B4%E5%83%8D%E8%B2%B4%E6%97%8F
↓偶像・塩路一郎
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A1%A9%E8%B7%AF%E4%B8%80%E9%83%8E
<太田>
頷ける部分も多々あるけれど、JALの現在の苦境も、かつて日産の経営が傾いたのも、労組だけが原因じゃなかろ。
そもそも、労組をのさばらせるというのは、経営側の方により大きな原因があるんじゃないかい?
<T?>
要望。
コラム#では検索出来ない。
日にちにされたい。
<Keizoo>
私の場合、たとえば#1225のコラムを探す時は、”太田述正コラム#1225”を検索ボックスに打ち込んでいます。
単純に数字だけ入れるのだと表示結果が数多くなりますから、検索条件を絞り込んでいけば、目的のコラムにたどり着くのはさほど難しくないと思います。
<太田>
もう一つ。未公開のコラムの場合は、もちろん検索できませんからね。
それでは、記事の紹介です。
大企業の経営姿勢を巡る亀井金融相の発言↓は、「(漢字ならぬ)言葉は知らないわブレるわの失格政治家たる醜態」(コラム#3562)の続きですな。
http://www.asahi.com/politics/update/1007/TKY200910060446.html?ref=doraku
自衛隊は、海外では危険な地域にこそ派遣されるべきです。
また、その場合、集団的自衛権の行使が欠かせません。
それができないのであれば、自衛隊は廃止すべきです。↓
「・・・空自は昨年12月までの4年9カ月、3機の輸送機を派遣し、クウェートを拠点にイラクへの輸送業務にあたった。当初は、イラク南部で活動する陸上自衛隊の支援が中心だったが、陸自撤収後はバグダッドや北部に飛行範囲を広げて、国連や多国籍軍部隊の輸送を助けてきた。・・・
自民党政府は、この活動が人道復興支援のための輸送であることを強調した。・・・
<しかし、>空輸した人員の7割近くを米軍兵士が占めていた。小銃や拳銃を携行するケースも多かった。・・・
空自のイラク派遣については、名古屋高裁が昨年4月、「他国による武力行使と一体化し、憲法9条などに違反する」という判断を示したことも記憶に新しい。・・・」
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
危険ではない地域(海域)で、現時点ではパキスタンへの石油製品無償供与というODAを自衛隊がやっているに等しいインド洋での給油活動は、継続すべきではありません。
長島政務官は間違っています。↓
「来年1月に期限が切れる海上自衛隊のインド洋での給油活動について、長島昭久防衛政務官が「法改正で国会の事前承認を義務付けたうえで給油活動を継続すべきだ」との考えを表明、北沢防衛相との間で意見の違いが起きている。・・・」
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20091006-OYT1T00878.htm
北沢防衛相も間違っています。
このままでは自衛隊の実態が分からない内局官僚と、ポリティカルコレクトネスの観念が欠如した自衛官が温存されるだけです。
それに加えて、自衛隊に具体的ミッションを与えない状況が続いたり、よりひどくなるようなことがあれば、早晩、再び不祥事が噴出することによって、北沢防衛相以下、防衛省首脳達は総辞職を余儀なくされることは必至です。↓
「北沢俊美防衛相が6日の記者会見で、内局官僚(背広組)と自衛官(制服組)の混成化を軸とする防衛省組織改革の見送りを突然発表した。・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2009100601000756.html
全然気が付かなかったけど、そんなことどうでもいいだろ、東京新聞サン。↓
「・・・民主党政権の鳩山由紀夫氏で、十六年ぶりに東大出の首相が復活した。
気がつけば、鳩山、谷垣両氏のほか公明党の山口那津男氏、共産党の志位和夫氏、社民党の福島瑞穂氏、国民新党の亀井静香氏と、主要政党の党首は、みんな東大卒なのだ。
みんなの党の渡辺喜美氏が早大、新党日本の田中康夫氏は一橋大と、ちょっぴり毛色の違うところが斬新に見えるほど政界の要所が東大に占拠されている。・・・」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2009100702000086.html
米国の経済状況は、実は深刻か?↓
・・・The parallels between America in 2009 and Japan in 1989 are uncanny. An asset price bubble has collapsed, just before a tsunami of prospective retirements that the asset bubble was supposed to fund. Demand for savings is bottomless, and the government satisfies demands for savings by running a huge deficit and issuing debt. The crippled banking system borrows at an interest rate of zero and buys government securities. And the economy shrivels up and dies.
Japan, though, had one advantage: it knew how to export. There is only one way to drastically increase savings while maintaining full employment, and that is to export. America has neither the export capacity nor the customers.
http://www.atimes.com/atimes/Global_Economy/KJ06Dj04.html
米国は、アフガニスタン、すなわち対テロ戦略で歴史的岐路に立っている?↓
・・・McChrystal’s view — that a strategy employing fewer resources, in pursuit of more limited goals, would be “short-sighted” — is something the White House needs to hear. He is, after all, the man Obama put in charge in Afghanistan, and it would be absurd not to take his analysis of the situation into account. But McChrystal is out of line in trying to sell his position publicly, as he did last week in a speech in London.
Defense Secretary Robert Gates was right to lay down the law. Gates said Monday that it is “imperative” that military and civilian leaders “provide our best advice to the president candidly but privately.”・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/10/05/AR2009100502241_pf.html
「密息」ねえ。こりゃ知らなかった。↓
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20091005/206360/
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太田述正コラム#3569(2009.10.7)
<イギリス女性のフランス論(その3)>
→非公開
皆さんとディスカッション(続x620)
- 公開日:
>危険ではない地域(海域)で、現時点ではパキスタンへの石油製品無償供与と
いうODAを自衛隊がやっているに等しいインド洋での給油活動は、継続すべきで
はありません。
長島政務官は間違っています。(太田)
この給油活動はみせかけで、情報収集・監視活動が本来の目的ですよね。
「米国」のための情報収集・監視活動になっているにせよ。
その活動がテロの力を実質的に僅かなからでも抑制しているのも事実なのですから、長島氏の発言は国際貢献の観点からあながち間違いではないのでは?