太田述正コラム#3521(2009.9.13)
<日進月歩の人間科学(続x7)(その2)>(2009.10.17公開)
 (3)子供の褒め方
 「・・・1970年代から、褒めることを通じて児童達の自負心(self-esteem)を構築することに次第に焦点があてられるようになってきた。
 これは、子供が自信を持てば、よりよい業績をあげる(achieve)ようになるという考え方だ。
 しかし、最近の次第に多くの研究は、実際にはその逆であることを示すに至っている。
 つまり、すごいねと褒められた児童達は、彼等の偉大さが既に確立した(secure)のであるから、彼等は改善する必要性を認め得なくなるというのだ。
 同時に、・・・<ある>研究は、「あなたは頭がとても良い(intelligent)」といった漠然とした褒め言葉は、児童達に、成功はもともと備わっている(innate)かいないかの技術に依拠していると教える、ということを示した。
 そうなると、ここでも、このような褒め言葉は児童達が努力をしようという気持ちを失わせてしまう。
 それどころか、児童達は、自分達の自己イメージを守るための方法を探すことにあけくれるようになってしまうというのだ。・・・」(B)
 
 ところで、このインタビュー(B)の中で、この話とはちょっと次元が違う、しかし面白いことを著者達が述べているので、ついでにご披露しておきます。
 「・・・児童達は、少なくとも8歳までは知能指数が劇的なまでにぶれる場合があるが、最も頭の良い(brightest)児童達の場合、彼等の進歩は更にまちまちだ。
 最も頭の良い児童達に関しては、彼等の脳の解剖学的進歩は、よりゆっくりとしたペースで進む。・・・」(B)
 「・・・<パズルをやらせるにあたって、>無作為で、彼等の知力を褒められる集団、すなわち、「君はこれに長けている(smart)ね」と言われる集団と、彼等の努力を褒められる集団、すなわち、「君は本当に一生懸命やったに違いないね」と言われる集団とに分ける。・・・
 <次にもう一つのパズルをやらせると、>努力を褒められた者達は、その90%がもっとむつかしいパズルを選んだが、知力を褒められた者達の過半以上はよりやさしいテストを選んだ。
 長けている児童達は逃げを打った(cop-out)というわけだ。・・・
 つまり、我々は彼等に、ゲームがいかなるものかを教えたということだ。
 「長けているように見せ続けろ、間違いを犯すリスクを避けろ」ってね。
 それが5年生の連中がやったことだ。
 彼等は、長けているように見え続けるために、恥ずかしい目に遭うリスクを回避することを選んだのだ。
 その次には、この5年生の連中に全員同じテストを課した。
 このテストはむつかしく、彼等より2年上の児童のレベルのテストだった。
 予想されたように、全員が失敗した。
 しかし、ここでも、研究の出発点において無作為に二分割されたところの、子供達の二つの集団は、異なった反応を示した。
 最初のテストでその努力を褒められた連中は、自分達が今回のテストに十分集中しなかったから失敗したと考えた。
 「彼等はとても熱心であり(involved)、パズルのあらゆる解法を試みることを厭わなかった・・・。」
 「彼等の多くは苛つくことなく、「これは私の好きなテストだ」と語った。」
 「長けていることを褒められた連中はそうではなかった。
 彼等は、自分達の失敗が自分達が本当は長けてなど全くないことの証拠だとみなしたのだ。」
 「彼等を観察するだけで、彼等がピリピリしていることが見て取れた。
 彼等は汗をかき惨めな感じだった。」
 この失敗するように仕組まれたテストの後、・・・今度は5年生達に最終的なテストが課された。それは一番初めのテストとおなじくらい易しいものだった。
 <結果だが、>その努力を褒められた連中には、一回目に比べて約30%も点数を伸ばすという顕著な改善が見られた。
 <それに対し、>長けていると言われた連中は、<逆に>一回目に比べて約
20%も点数を悪化させた。・・・
 「努力を強調することは、子供に自分がコントロールできる変数を与えた」<というわけだ。>・・・
 <つまり、例えば数学ができるようにしたいのなら、>脳は筋肉<のようなもの>であり、脳をより一生懸命働かせることによって君はより長けるようになる、という単純な観念を教える<のが一番なのだ。>・・・
 
 1969年にナサニエル・ブランデン(Nathaniel Branden)が『自負心の心理学(The Psychology of Self-Esteem)』を出版し、自負心は個人にとって最も大事な面(facet)であると喝破してからというもの、正の自負心を得るためにできることはなんでもやらなければならないという信条<を持つこと>が幅広い社会的影響を及ぼすこととなるブームとなった。・・・
 しかし、200にも及ぶ研究を精査したところ、・・・高い自負心を持つことは必ずしも成績や仕事の上での業績を改善しなかったという結論が下された。
 それはアルコール消費を減じることすらなかった。
 また、それはいかなる種類のものであれ、暴力の程度を特段低めることもなかった。
 (高度に攻撃的で暴力的な人々が自分達自身を非常に高く評価していることだってある。
 これは、低い自己評価を埋め合わせるために人々は攻撃的になる、という理論を破綻させる。)・・・」(C)
(続く)