太田述正コラム#3333(2009.6.13)
<米国の世紀末前後(その1)>(2009.10.30公開)
1 始めに
南北戦争が終了した1865年以降、金ピカ(ぴか)の時代(Guilded Age)となり、1900年頃から進歩の時代(Progressive Age)に入る、というのが標準的な米国史の見方です。
これに対し、1935年くらいまでを長い金ぴかの時代と経済学者のクルーグマンは見ている、という話を以前したことがあります。
(以上、コラム#1776、2075による。)
さて、世紀末から20世紀初頭にかけての時代は、狩猟採集社会時代から基本的にそのままの人間の遺伝子や行動様式が、もはや完全にミスマッチになったことを人々が意識的・無意識的に自覚するに至ったことから、英国や欧州で大きな変化が生じた、という私見をつい最近、申し上げたところです。(コラム#3318)
そうだとしたら、南北戦争という大内戦を経験するとともに、世界の中で時代の最先端に躍り出るに至っていた当時の米国において、英国や欧州においてよりも、一層大きな変化が起こっていたとしても決して不思議ではありません。
今回は、金ぴかの時代と進歩の時代を一つながりの時代と見る、米ラトガーズ(Rutgers)の米文化史教授のジャクソン・リアーズ(Jackson Lears)の’Rebirth of a Nation: The Making of Modern America, 1877-1920’の内容の一部をご紹介したいと思います。
2 リアーズの指摘
「・・・リアーズは、・・・<つい最近終わった>ブッシュ時代の戦闘性の起源を19世紀末の不安と近代化の進展の下での諸衝動に求める。・・・
リアーズは、二つの大きな修正主義的関心を抱いている<ように見える。>一つは南北戦争の暴力の永続的な影響であり、もう一つは「次第に募る人種<差別意識>の顕著さ」だ。
1870年代の初めから、米国人達は、アングロサクソン至上主義(supremacy)的な「軍国主義的(militarist)幻想」を旗印にすることで<、南北戦争によって亀裂の生じていた>彼等の国を縫い合わせようとした、と彼は主張する。
しかし、期待された個人的かつ国家的な罪の購い(redemption)をもたらす代わりに、彼等の努力は悲劇を生んだ。
リアーズによれば、同じ文化的論理が米国の南部での<黒人の>リンチを正当化し、西部におけるアメリカ・インディアンの征服はキューバ、フィリピン、そして欧州における戦争へと<米国を>導き、1世紀後には、更に、イラクでの米国の大失態(mess)へと導いたのだ。・・・
<リアーズはまた、進歩の時代という、>改革主義的エネルギーで知られた時代を、軍国主義と人種主義が平和主義的、民主主義的な諸理想に勝利した時である、と再定義しようと<している。>・・・
征服と略奪のための闘争(struggles)と見えたものは、リアーズの見解では、実は個人個人の意味への模索がその動機だった(animated)のだ。
「南北戦争から第一次世界大戦の間に全体戦争<への希求>が高まったのは、ブルジョワ的平常性(normality)から英雄的闘争の領域へと解放されたいという<米国の人々の>欲求に根ざしている。」と彼は記している。
「欲求とは、浪漫主義的なナショナリズム、帝国的進歩、及び文明化的使命の背後に潜む、絶望的な不安、再生への欲求であり、これが<第一次世界大戦における欧州の>西部戦線の塹壕<戦>へと導いたのだ。・・・
『ある国家の再生(Rebirth of a Nation)』<という、この本のタイトル>は、南北戦争の<心理的な>傷から回復する過程における、米国の精神的危機に係る、否定しようもなく強力な何かをとらまえている。
19世紀末は、ホワイトカラー雇用の増大から移民の大量到着と都市化に伴う混乱に至る、文化と社会のほとんどすべての分野における巨大な変化をもたらした。
この危機は、ことあるごとに彼らの「伝統的な権力の源泉とアイデンティティー」に対する挑戦に遭遇することとなった白人男性達にとってとりわけ深刻なものだった。
彼等は、これに対処するため、YMCAのたくましいキリスト教から自治(self-determination)を目指すポピュリスト的闘争から更には戦場における血なまぐさい戦いに至る、<様々な>解決法に身を投じた、とリアーズは記す。
この攻撃的な新しいたくましさに係るリアーズにとっての「寵児(poster boy)」は、セオドア・ローズベルトだった。彼の、熱狂的売り込み(boosterism)、進歩主義、及び厚かましい帝国主義が混淆したものは、高い理想と深刻な危険を併せ持っていた。
多くの改革者達と同様に、ローズベルトは、米国社会をより公平(equitable)にして民主主義的なものへと作り替えようと思ったのだ。
同時に、彼は、アングロサクソンの男達は神から世界を支配する権利を与えられたと信じていた。・・・
リアーズは、あからさまにローズベルトをジョージ・W・ブッシュの真の「イデオロギー的祖先」であるとする。これは、普遍主義者(universalist)たるウッドロー・ウィルソンを対イラク戦の家系図に位置づける人々への肘鉄だ。・・・
「大量の無駄、詐欺、そして腐敗が米現代経済が形成される際、組み込まれた。」と彼は記述するが、これが我々自身の金ぴかの時代へとそのまま持って来ることができる表現である証拠に、彼はそれに引き続いて、「そしてその多くはウォール街に集中していた」と記している。・・・」
http://www.nytimes.com/2009/06/14/books/review/Gage-t.html?_r=1&pagewanted=print(6月13日アクセス)
(続く)
米国の世紀末前後(その1)
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