太田述正コラム#3571(2009.10.8)
<人間主義の起源(続)(その1)>(2009.11.8公開)
1 始めに
 コラム#3140で、ハルディによる、チンパンジーと違って人類はそもそも人間主義的であったという説をご紹介したところです。(コラム#3489、3491も参照)
 今回は、そうではなくて、人間主義の起源は、チンパンジーのような霊長類どころか、もっと昔、というか、ほ乳類の多くに求めることができる、というフランス・デワール(Frans de Waal)説を、彼の上梓した本、’The Age of Empathy’ の書評等を手がかりにご紹介したいと思います。
A:http://www.slate.com/id/2231320/pagenum/all/#p2
(10月6日アクセス)
B:http://www.newscientist.com/article/mg20327256.600-review-the-age-of-empathy-by-frans-de-waal.html?full=true&print=true
(10月7日アクセス。以下同じ)
C:http://www.latimes.com/entertainment/news/la-ca-frans-de-waal20-2009sep20,0,2018022,print.story
D:http://www.time.com/time/health/article/0,8599,1925566,00.html
(著者のインタビュー)
E:http://www.economist.com/books/PrinterFriendly.cfm?story_id=14361802
F:http://online.wsj.com/article/SB10001424052970204488304574427221837352110.html#printMode
G:http://www.scientificamerican.com/article.cfm?id=recommended-the-age-of-empathy&print=true
(本からの抜粋)
 ちなみに、デワールは、米ジョージア州アトランタのエモリー(Emory)大学の霊長類学者(オランダ系。オランダ読みではデヴァールか)(C、E)です。
2 ほ乳類の多くは人間主義的
 (1)序
 「多くの人々は、人間は生来的に協力的であると主張してきた。
 チャールス・ダーウィン、エイブラハム・リンカーン、セオドール・ローズベルト、ダライ・ラマ、ロシアの動物学者にしてアナーキストのピーター・クロポトキン、神経生物学者のジェームス・リリング(James Rilling)、そして心理学者のダチャー・ケルトナー(Dacher Keltner)<らがそうだ。>・・・
 ・・・人間が共感的(empathetic)動物だとすれば、それは、我々には「長い進化の歴史という背景」があるからなのだ。
 絆を形成すること(bonding)は、「我々を最も幸せにする」とデワールは記し、この主張を裏付ける証拠を行動科学と神経科学から手際よく集める。・・・
 猿、鯨、象、そして(少なくとも大小のネズミ類等の)齧歯動物は、共感を示すし道徳的知性と呼べるようなものも示す。
 広汎な種類の猿の大部分の社会的相互作用は、反発的(agonistic)や不和的(divisive)なものというよりは親和的(affilitiaive)なものだ・・・・」(B)
 「<この本は、>人間と他の動物双方において、利他主義と同情的な仲間感覚を探す。
 この本のタイトルは二つの意味を持っている。
 共感は極めて古くて新しい話題だ。
 彼は、それは全ほ乳類の系統樹と同じくらい昔からのものであり、1億年くらい前から我々の遠い祖先達の間で発達し始めた脳の部位に係わると彼は主張する。
 そして彼は、(利己的なものに志向したシステムの産物である)金融危機<の生起>、及び同情(compassion)と隣人を助けることの重要性を再強調した、バラク・オバマ大統領の米国での選出によって、我々は共感の新しい時代に入りつつある、と考えている。・・・
 トマス・ホッブスの有名で陰鬱な言明であるところの、人間の実存は「汚く、野獣的で短い」傾向がある、は野獣達に不公正というものだ。
 野獣達は実際にはそんなに野獣的ではないのであるからして、我々だって同じく野獣的でなくたっておかしくないのだ。
 自然は、我々が利己的になることを強いてはいないのだ。・・・
 ・・・一体どれだけの人々が、例えば、大部分の兵士達は、戦闘の際においてさえ、敵に銃を発射することに気乗りがしていないことを知っているだろうか。
 その一方で、「より親切な社会」の擁護者なら誰でも早晩気が付くだろうが、政治は戦争よりも血なまぐさい戦場たりうるのだ。」(E)
 (2)ほ乳類の多くは人間主義的
 「デワール氏は、何世紀にもわたって、人類は、本質的に利己的であり、凶暴な種であって、個人的生存と成功のほかには何も関心がない、と主張してきたところの、経済学者達や生物学者達に狙いを定める。
 デワール氏はこれを間接的に行う。
 人間のではなく動物の利他主義の証拠を提示することで・・。
 ベンガル虎は豚の子供を育てるし、ボノボ類人猿は傷ついた鳥が飛ぶことを助けるし、アシカ(ないしアザラシ)は溺れている犬を救助することを紹介した上で、彼は、修辞的に次のように問いかける。
 もし動物たちがかくも生来的に<他者のことを>気にかける(caring)というのであれば、人間がそうではないなどということがありうるだろうか、と。
 デワール氏の動物のふるまいについての物語は魅惑的であるとしか言いようがない。
 アカゲザルが、食物を引き寄せるための鎖を引くと連れ合いに電気ショックが与えられる場合、食事を入手する機会を見送るなどということを誰が予期するだろうか。・・・
 ボノボ類人猿・・・が傷ついた鳥の翼を伸ばして飛ばせてやるなんてことも・・・。・・・」(F)
 「・・・象牙海岸の・・・国立公園における研究によると、チンパンジーたちは、豹達によって傷つけられた、その集団内の仲間に対して、血を嘗め、注意深く汚れを取り除き、傷の近くにやってくる蠅を追い払うといった世話をする。
 彼等は、傷ついた連れ合い達を守り、移動している時に彼等がついてこられない時は、その<歩く>速度をゆるめた。
 集団生活をする理由があるところのチンパンジーがこういったことをするのは完全に意味があることだ。
 同様、オオカミ達も人間達も集団生活をする理由がある動物なのだ。・・・」(G)
(続く)