太田述正コラム#3427(2009.7.30)
<イラン燃ゆ(続)>(2009.12.8公開)
1 体制派同士のコップの中の争い
 コラム#3425「イラン燃ゆ(補遺2)」でもっぱら引用したコラムは、マーティン・アミス(Martin Amis)によるものですが、その中で、彼は、「・・・我々が現在イランで目撃しているものは、イスラム共和国の最初の死の痙攣なのだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/world/2009/jul/17/martin-amis-iran 前掲
 これに対し、同コラムでやはり引用したコラムで、筆者の、トルコ生まれのイラン人でロンドン大学講師のアルシン・アディブモハッダム(Arshin Adib-Moghaddam) が異論を唱えています。
 「・・・<アフマディネジャドを始めとする権力を握っている方の>体制派は、本当にイランの社会が外国の手先によって操られていると言いたいのだろうか。
 これは、彼等が30年間にわたって情宣してきたことに真っ向から反するというのに・・。
 もう一つの皮肉は、イランのこの歴史的な危機的巡り合わせにおいて、英国の幾人か等はイラン人達は、欧米の行列の先頭の楽団車たる「近代的なるもの」に飛び乗るために、すなわちより少なく「イスラム的(=非合理的)」になり、より白くなり、我々にもう少し似た存在になるために、その生命と四肢を危険にさらしている、という神話を繰り返し述べているように見えることだ。・・・
 <しかし、>アミスもアフマディネジャドも、どちらも間違っているのだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2009/jul/28/iran-protests-martin-amis
前掲
(7月29日アクセス。以下同じ)
 ご承知のとおり、私は、後者のアブシンモハッダムの認識が正しいとする立場です。
2 権力を握っている方の体制派の分裂
 「・・・<最高指導者たる>ハメネイは、28日、次第に高まる大衆、僧侶、そして改革派からの圧力に屈したかのように、拘留者達の虐待の問題にとりくむためにカリザク(Kahrizak)拘置所の閉鎖を表明した。・・・
 <とにかく、>イラン在住の大アヤトラ達9人のうち2人しかアハマディネジャドの大統領再当選を歓迎しておらず、残りは卵をふ化させようとしているかのように沈黙を保っているのだから・・。」
http://www.csmonitor.com/2009/0729/p06s01-wome.html
 「・・・イラン議会の議長のアリ・ラリジャニ(Ali Larijani)に近い政治集団であるエンジニア・イスラム学会(The Islamic Society of Engineers)は、アフマディネジャド宛の公開書簡で、1953年に僧侶達の黙認の下でCIAが支援したクーデターで権力の座を滑り落ちたモハメッド・モサデグと同じ運命をとどるかもしれないぞと彼に警告した。
 この書簡は、イスラム共和国の父であるアヤトラ・ルドラー・ホメイニの寵を失ったアボルハッサン・バニサドル(Abolhassan Bani-Sadr)大統領が亡命に追い込まれた事例にも言及している。
 この二人とも選挙では大勝し<てその職に就い>たものだ。・・
 役人達は、28日に指導者たるアヤトラ・アリ・ハメネイが命じたカリザク拘置所・・国家監獄組織の統制下にないのでイランのグアンタナモと形容する者がいる・・の閉鎖を命じたと言明した。
 改革派のウエブサイトによれば、それは元革命防衛隊司令官のアハマド・レザ・ラダン(Ahmad Reza Radan)国家警察副長官の監督下にある。
 証人達は、・・・この施設には適正な換気設備がなく、容赦ない尋問者達によって囚人達は殴打されていたと言う。・・・
 大騒ぎの最中、アフマディネジャドは裁判機構に書簡を送り、「拘留期間が通常より長い」ことを認め、<拘留者達に>「最高度のイスラム教的寛大さ」を求めるという、これまで拘留者達は適正に取り扱われているとずっと主張してきた立場からの劇的転換を行った。
 アフマディネジャドの再選は、反対派の支持者達を怒らせたが、彼の選挙後の様々な行動は、仲間の保守派達をも、・・特に、彼が、とかく議論のあった副大統領を馘首せよとのハメネイの命令に抵抗しようとしたこと、及び彼が情報相のゴラムホセイン・モーセニエジェイ(Gholamhossein Mohseni-Ejei)を解任したことによって・・憤激させた。
 「彼の無謀な様々な行動は、大統領が、我々がいかなる安全保障上の挑戦に応戦しているのかを理解していないことを極めてはっきりと示している」と<ある>議員は・・・語っている。
 保守派達は、アフマディネジャドが拘留者達の自白を放送させることにこだわっていることも気に入っていない、と地方報道機関が報じた。
 彼の支持者達は、自白を放送するのは、改革派達と抗議者達の信用をなくし沈黙させるのが目的だと考えている。この戦術は1980年代の初期に、強硬派達によってさんざん用いられたものだ。
 しかし、保守派達は、TV上でなされる自白は政治的に危ないことこの上もないし、国全体のムードから危険なほど乖離しているように見えると言う。
 モーセニエジェイ、僧侶達、そして司法機構の役人達は、裏でこんな自白<・・その多くは拷問ないし拷問まがいの環境の下で強いられたもの・・>を放送することについて、アフマディネジャドと戦ってきた、と地方のいくつかの報道機関が報じた、とイランの様々なニュース・ウェブサイトは指摘している。・・・」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-iran29-2009jul29,0,4508442,print.story
 「虐待の噂に対する明らかな対応として、28日、イランはこの夏に選挙への抗議活動をしたとして拘留された反対派の活動家達140人を釈放し、国の最高指導者<ハメネイ>は水準以下の状況にあるとして一つの拘置所の閉鎖を命じた。
 このような動きは、地方のいくつかの報道機関が、4人の活動家達が拘留中に最近死亡したと報じた後に生じたものだ。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/07/28/AR2009072802711_pf.html
(7月30日アクセス)
3 終わりに
 体制派が二つに割れたと思ったら、その後、その一方が更に二つに割れた、というのがイラン騒擾の現在であるわけですが、一般にこういう内ゲバは、殺し合いがエスカレートしていくのがよくあるケースであるというのに、イランでは、必ずしもそうならないところが興味深いですね。