太田述正コラム#3758(2010.1.9)
<米国・欧州・コーポラティズム(その1)>(2010.2.9公開)
1 始めに
 米国人のリュー・ダリー(Lew Daly)の新著’God’s Economy: Faith-Based Initiatives and the Caring State’ (注1)に対し、英国の主要メディアはおろか、米国の主要メディアすら、音無しのところ、英ファイナンシャルタイムス(FT)だけが、厳しい書評を載せました。
 (注1)私自身は目を通していないが、この本の全PP342中PP254までは、以下で読める。
http://www.scribd.com/doc/24280560/God-s-Economy-Faith-Based-Initiatives-and-the-Caring-State
 俎上に載せられているのは、FTの書評子によれば、欧州に由来するコーポラティズム(corporatism)です。
 いずれ、取り上げなければならないと思っていた話題であるところ、いささか裏口からの切り口にはなりますが、今回取り上げることとしました。
A:http://www.press.uchicago.edu/presssite/metadata.epl?isbn=9780226134833
(この本の紹介)(1月9日アクセス。以下同じ)
B:http://www.commonwealmagazine.org/what-bush-got-right-0
(著者によるコラム)
C:http://www.ft.com/cms/s/2/ca65e0a0-fbe0-11de-9c29-00144feab49a.html
(書評)
 ちなみに、ダリーは、無党派の政策研究・唱道(advocacy)団体であるデモス(Demos)のシニア・フェローです。
http://www.press.uchicago.edu/presssite/metadata.epl?mode=bio&isbn=9780226134857
2 新著のツボ
 「・・・ジョージ・W・ブッシュの信仰依拠(faith-based)イニシアティブ・・・のルーツを、リュー・ダリーは、欧州の様々なキリスト教民主主義の多元的(pluralist)伝統・・国家が社会的諸機関(institution)と主権を分かち合う・・に求める。・・・
 カトリックとオランダのカルヴィン派の諸観念がこの伝統の進化に決定的役割を果たした。
 すなわち、19世紀に欧州全域の諸教会において、そこで実施されてきた教育と社会事業(program)を次第に力を強める政府から守るための哲学的、法的擁護手段が整備されたのだ。・・・」(A)
→以上が、要約的説明です。以下は、もう少し詳しい著者自身による説明です。(太田)
 「2001年1月29日、ジョージ・W・ブッシュ大統領は、ホワイトハウスに、信仰依拠・コミュニティ・イニシアティブ・オフィスを設けた。
 その目的は、小さな社会的サービス集団、就中宗教的な集団に対する連邦支援を増大させようというものだった。
 この事業は、「信仰依拠イニシアティブ・・・」として知られるようになった。
 <その結果、>「機能する福祉(welfare-to-work)」諸補助金(grant)のうち、信仰依拠諸団体に供与される割合は、1990年代末には3%であったのものが、2007年には11%を超えるまでになった。・・・
 <議論の的になっているのは、>信仰依拠諸集団が、連邦支出を伴わないケースにおいて、市民権法と最高裁諸判決のいずれもが享受することを認めているところの、宗教的基準に基づく<集団構成員の>雇用(employment)の決定を、連邦支出を伴う<上記のような>ケースにおいては行うことが許されないのかどうかだ。・・・
 ・・・<ところで、信仰依拠イニシアティブを実現させた>運動は、慈善的選択(charitable-choice)運動と呼ばれ、「社会多元主義(social pluralism)」として知られる政治哲学によって形成されたものだ。
 社会多元主義は、(ドイツ、オランダ、そしてイタリアといった)キリスト教民主主義諸政党がとりわけ強い影響力を持っているところの、欧州におけるより保守的な諸福祉国家に決定的影響を及ぼしたところ、それは、もともとは、諸教会が、その教育と社会支援における伝統的な影響力を、次第に浸食してきたところの後発の福祉諸国家の世俗的諸規範と財政力から守ろうとする、19世紀における営みの中から鍛造されたものだ。
 社会学者のロバート・ニスベット(Robert <Alexander >Nisbet<。1913~96年。米国の保守的社会学者
http://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Nisbet (太田)
>)は、その1953年の主著『コミュニティの探求(The Quest for Community)』の中で、米国的自由主義に対する社会多元主義的批判に係る基礎研究<の成果>を披露した。
 そして、その30年後、<社会多元主義の>諸理念は、福祉改革の文脈の中で大いなる政治的牽引力を発揮し始めた。
 社会多元主義は、主権を社会諸機関と国家とで分かち合うというガバナンス理論だ。
 政治的かつ法的思想においては、この理論は、国家に全主権を与え、それが個人の諸権利によってのみ制限されるという、英米的自由主義と対照される。
 コミュニティの(comunal)諸権利ないし集団的な(collective)諸権利に配意しつつ、社会多元主義は、政府に対し、社会的諸集団と、これら集団側が設定する権限と自己発展の条件を踏まえて、調整し、更にはこれら集団側に支援すらすることを求める。・・・」(B)
(続く)