太田述正コラム#3766(2010.1.13)
<米国・欧州・コーポラティズム(その2)>(2010.2.13公開)
「・・・リュー・ダリーの壮大な新しい考えは、米国・・「先進世界の中で最も不平等で貧困だらけで刑務所に入っている者の多い社会」・・の社会的に悲痛な事柄を、宗教的諸機関に国の福祉事業を運営してもらうべく補助金を流すことによって癒すことだ。
ジョージ・W・ブッシュも同じような政策を示唆していたが、9.11とイラクに精力を奪われてしまった。
そこで、ダリーは、バラク・オバマが、同様の、漠然とした選挙前の誓約を守って欲しいと願っている。
ダリーの思想は、しかしながら、ブッシュやオバマのように、米国の福音主義に由来するものではない。
「欧州のキリスト教の多元主義的伝統」と彼が呼ぶところのものに由来しているのだ。・・・
この考えは、彼によれば、法王レオ13世(Pope Leo XIII<。1810~1903年。法王:1878年~>)の社会的教えに由来する。
すなわち、19世紀末に出版された彼の『新しい事柄について(Rerum Novarum=Of New Things<。1891年5月15日付の回勅>)』(注2)、及び1930年代初めの法王ピオ11世(Pope Pius XI<。1857~1939年。法王:1922年~>)(注3)に由来するのだ。・・・
(注2)労働と資本の相互義務を論じたもの。労組をつくる権利を認め、共産主義と無制約の資本主義のいずれをも排するとともに、私的財産権を再確認した。
http://en.wikipedia.org/wiki/Rerum_Novarum (太田)
(注3)このピオ11世の在位中の1929年から、イタリアとの、1929年の政教条約を含むところの、ラテラノ(Lateran)条約によってバチカンは主権国家となった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Concordat
http://en.wikipedia.org/wiki/Pope_Pius_XI (太田)
・・・今日、宗教的善行への信頼に係るいかなる期待も、それぞれの国の福祉事業を何十年にもわたって宗教団体が運営してきたところの、米国とアイルランドにおける神父達による小児性愛醜聞によってぶち壊されてしまった。・・・
<しかし、上記>レオとピオの下でのカトリックの社会的教えは、民主主義的でも多元主義的でもなかった。
この二人の法王は、コーポラティストであって民主主義者ではなかった<からだ>。
イタリアのファシストにとっては、それは、選挙というよりは、選ばれたエリートたる代表<による国家運営>を意味した。
同じ原理が、ユダヤ人と異端とを除外する「共通善(common good)」のために勤しんだところの、家父長制的な中世の宗教結社(confraternity)(注4)の土台を支えていた。
(注4)一般信徒からなるカトリックの機関であり、キリスト教的慈善または敬神のための特別な作務を促進する目的のため設立されたもの。
http://en.wikipedia.org/wiki/Confraternity (太田)
ダリーは、自分自身を助ける能力が余りない人々を助けるとの原理、すなわち「連帯主義(solidarism)」ないし「連帯(solidarity)」に熱心だ。
彼の連帯の理解は、ムッソリーニのファシストのコーポラティスト達に好まれたところの、イエズス会員で経済学者のハインリッヒ・ペッシュ(Heinrich Pesch<。1854~1926年。ドイツ人。カトリック神学者・社会哲学者でもあった
http://de.wikipedia.org/wiki/Heinrich_Pesch (太田)
>)神父の著作を援用したものだ。・・・
ピオはムッソリーニとの1929年の政教条約(concordat)に署名するとともに、ヒットラーとの1933年の<ドイツ第3>帝国政教条約(<ReichsKonkordat=>Reich Concordat)に署名し、ユダヤ人は対象外とされたところの、カトリック教徒にとっての種々の社会的便宜供与を受け入れた。・・・
今日の米国のカトリック教徒は、ダリーとは違って、レオやピオではなく、教会と国家との間に健康的な距離を置くことを強調したところの、自由化的な第二バチカン会議(Second Vatican Council)<(コラム#1020、1861)>によって形作られたのだ。・・・」(C)
→この書評の筆者のジョン・コーンウェル(John Cornwell)は、はケンブリッジ大学教授たるイギリス人とおぼしき人物ですが、イギリス人からは、欧州の中世≒カトリシズム=コーポラティズム(国家コーポラティズム≒ネオ・コーポラティズム)(コラム#3759)≒反自由民主主義≒ファシズム≒ナチズム、と見え、彼等がこれらに嫌悪感を抱いていること、更にはコーポラティズム的志向のある(ダリーやブッシュら)米国人に対して不快感を抱いていること、が良く分かりますね。(太田)
順序が逆になりましたが、ここで、コーポラティズムそのもののおさらいをしておきましょう。
(続く)
米国・欧州・コーポラティズム(その2)
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