太田述正コラム#3806(2010.2.2)
<北朝鮮論をめぐって(その1)>(2010.3.3公開)
1 始めに
米国で新たな北朝鮮論が出ました。
マイヤーズ(B.R. Myers)の ‘The Cleanest Race: How North Koreans See Themselves and Why It Matters’ です。
この本を取り上げる理由は、北朝鮮論のおさらいをするとともに、米国人の国際認識がやはりいかにダメかを読者の皆さんに分かっていただくためです。
A:http://www.slate.com/id/2243112/pagenum/all/#p2
(書評。以下同じ)(2月2日アクセス。以下同じ)
B:http://www.complete-review.com/reviews/korea/myersb2.htm
C:http://www.feer.com/reviews/2009/december51/the-cleanest-race-how-north-koreans-see-themselves-and-why-it-matters
D:http://www.goodreads.com/book/show/6772577-the-cleanest-race
E:http://www.nytimes.com/2010/01/28/books/excerpt-cleanest-race.html?pagewanted=print
(この本の抜き刷り)
F:http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703808904575026021282314284.html#
(書評)
G:http://www.nytimes.com/2010/01/27/books/27book.html?pagewanted=print
(書評。ただし他の2冊の本の書評を兼ねる)
ちなみに、マイヤーズは、20年間にわたって北朝鮮の研究を行っている、韓国の東西大学(Dongseo University)の教授であり、米国のザ・アトランティック(The Atlantic)誌の編集者であり、この雑誌のアジア版に時々寄稿している人物です。(C)(F)
2 北朝鮮のイデオロギー
(1)これまでの見方とその含意
余りにも多くの観察者達が(北)朝鮮中央通信社の英語版配付資料に出てくるプロパガンダは、同国の国民が接しているプロパガンダと同じ類のものであると勘違いしている。
しかし、実のところ、両者には顕著な違いがあるのだ。・・・」(E)
「・・・彼が重視するのは後者の方だ。・・・」(B)
「・・・<北朝鮮が>朝鮮人は「世界一清浄」で「純粋」であるという甲高い主張という露骨な人種主義的理論付けを行っているにもかかわらず、<欧米では、北の>体制を「ガチガチの共産主義」ないし「スターリン主義」と呼んできた。
「・・・もちろん、共産主義には余り結構なイメージはないけれど、冷戦からの一つだけの記憶は、それが平和裏に終わったことだ。・・・
<また、北朝鮮が>母性的権威の権力者たる人物群<を取りそろえてきた>にもかかわらず、それを儒教的家父長制と叙述したり、<北朝鮮が>60年を超える期間、外からの援助に依存してきたにもかかわらず、それを独立独行(self-reliance)に取り憑かれた国と叙述したりしてきた。・・・
これらのもろもろの誤謬が組み合わされて、欧米は、北朝鮮の核計画をイランのそれよりも心配しないで済ませてきた。
<また、>儒教という言葉は、我々に、アジアの若手の大物(whiz-kid)達と年長者への敬意を思い起こさせる、と。
儒教的家父長制がどんな面倒を起こすというのだ、それに、独立独行だってそんなに危険には思えない、と。・・・」(E)
(2)マイヤーズの批判
「・・・北朝鮮では、共産主義の観念すべてが死んだ。
昨年4月に「批准」されたその一番最近の「憲法」では、共産主義という言葉は完全に落とされた。・・・」(A)
→だけど、前衛独裁政党が今でもあって、その名前は朝鮮労働党(Workers’ Party of Korea=WPK)で、この党の機構は典型的な共産党のそれ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%9D%E9%AE%AE%E5%8A%B4%E5%83%8D%E5%85%9A
ですよね。(太田)
「彼は、当局がほめちぎる主体思想(Juche Thought)イデオロギーを「平壌の政策立案に何の影響も及ぼしていない見せかけの(sham)教義」であると切り捨てる。・・・
孔子は、学ぶことを通じた厳しい自己陶冶を要求したが、金体制は、その臣民達にできる限り子供らしく(childlike)かつ自然(spontaneous)であり続けるよう促してきた。・・・」(B)
「・・・<すなわち、>儒教に準えられるのは上辺だけであり、このような儒教との類似性を引き出すことができたとしても、それはこの体制によってただ単に外部の人間向けに仕組まれたものに他ならない。・・・」(A)
→主体思想だって、一国社会主義を追求したスターリニズムの極限形態であると見ることもできるのでは? スターリニズムと違って、その思想を(朝鮮半島南部を除き)対外的に普及しようとすらしない、という意味で・・。(太田)
(続く)
北朝鮮論をめぐって(その1)
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