太田述正コラム#3658(2009.11.20)
<米国の世紀末前後(続)(その1)>(2010.3.10公開))
1 始めに
コラム#3645で、読者の求めに応じてご披露した、私の英文での19世紀末以来の一口日米関係史観の邦語訳を掲げておきます。
「米国の人種主義的帝国主義者達は、約1000万人の、その多くは民間人であるところの、アジア人(フィリピン人、日本人、朝鮮人/支那人、そしてベトナム人、等々)を虐殺したが、その結果何も得るところがなかった。
(これと、この人種主義者達が大儲けをしたところの、「合理的で経済的な」インディアンの迫害とアフリカ人の奴隷化とを比較してみよ。)
この身の毛がよだつような「非合理的でイデオロギー的な」愚行は、それぞれ、ロシアの共産主義者達とナチスによって20世紀になされた愚行と規模及び犯罪性において匹敵するものがある。
日本を米国との戦争へと追い詰め、ファシストたる中国国民党に協力し、日本を敗北させることによって、彼等は、支那における中国共産党によるそれを含め、アジアにおける共産主義者達による権力奪取を助けた。
<その結果として、>支那において、中国共産党による、毛沢東の恐怖政治の下での、、数千万人にのぼる悲劇的な死がもたらされた。
彼等が犯した最大の罪であり、彼等の子孫が永久に贖罪しなければならないものは、上記の戦争末期における、日本の降伏とはおよそ何の関係も有しないところの、(機能する議会と裁判所を持っていた自由民主主義的な日本の)広島と長崎の壊滅だ。
<原文の最後の段落には語順の誤りがったので、直しました。ブログは訂正済みです。>
この史観への援軍が、面白いことに米国で出現しました。
さすがに、そっくりそのままでは使えませんがね。
それは、ジェームス・ブラッドレー(James Bradley。1954年~。米国の著述家)の ‘THE IMPERIAL CRUISE A Secret History of Empire and War’ という本です。
例によって、書評を通じ、彼が言わんとしていることをご紹介しましょう。
今のところ、主要紙でこの本の書評を載せているのはニューヨークタイムスだけです。
真っ先に、この、激しく米国を糾弾する本の書評を載せた同紙に敬意を表したいと思います。
A:http://www.nytimes.com/2009/11/19/books/19book.html?hpw=&pagewanted=print
(11月19日アクセス。以下同じ)
B:http://www.publishersweekly.com/article/CA6699837.html?q=The+Immortal+Life+of+Henrietta+Lacks
C:http://www.goodreads.com/book/show/6741284-the-imperial-cruise
2 セオドア・ローズベルトの「犯罪」
「・・・ブラッドレーは、ローズベルトの、これまで光がほとんどあてられてこなかったものの考え方を具体的に(「私は、小っぽけな地獄のようなキューバ共和国のことがあんまりにも腹が立ったものだから、キューバ人全員をこの地上から一掃したいと思った」とローズベルトが1906年に書き記した」<といった具合に例えば>)示した上で、怒りをもって、そして説得力をもって、ローズベルトの人種に立脚した外交政策上の計算ミスを並べ立てた上で、更に<ローズベルトにとって>致命的な話を展開する。
彼の、’The Imperial Cruise’ の主題は、大統領時代のローズベルトについての在来の通念を改めさせるに十分なほど瞠目させるものがある。
「ここに導火線に火を付けたマッチがあったのに、何十年にもわたって、我々はダイナマイトにしか関心を払って来なかった」とブラッドレー氏は記す。
炎ということで彼が何を言おうとしているかというと、ローズベルトによる米国の秘密外交であり、日本帝国主義の奨励だ。(「私は、日本が朝鮮を領有して欲しいと思う」とかつて彼は宣言している。)
このローズベルトの、朝鮮、ハワイ、支那、そしてフィリピンについての様々な無理解ぶりについても取り上げてられているこの遠大な本の中で、ブラッドレーは、ローズベルトがつくりあげるのを助けたところの危険なる米日関係に、最も力点を置く。
「人種理論については詳しかったけれど、国際外交については余り知らず、アジアについてはほとんど何も知らなかったローズベルトが、1905年に米日関係を道路の暗い側に傾かせたことが1941年<の太平洋戦争>へと導いた」と彼は記す。・・・
<米国の>人種主義なんて何も目新しい話ではないが、それでも、ブラッドレー氏の<この本の>読者は、この本に引用されている、写真、手紙、マンガ、歌詞、そして政治的演説の外国人嫌いの醜さに驚愕することだろう。
そして、例えば、20世紀になるかならないかの頃の米国人達によるフィリピン人の囚人達に対する水責め拷問(waterboarding)は、これまで知られていなかったわけではない(それは、昨年、ニューヨーカー誌が記事で取り上げた)が、誰でも知っている話でもなかった。
「水による治療(The Water Cure)」という年代物の米合衆国陸軍の行進曲の<下掲の>歌詞だってそうだ。
「筒口を深く押し込んで奴に自由(liberty)を味わわせてやれ/自由(freedom)の雄叫びを叫ばせながら。」
この本を読む際に一番しんどい箇所は、我々が既に知っていてしかるべき事柄を、改めて突きつけられることだ。
ブラッドレー氏は、この ‘The Imperial Cruise’ を、このタイトルが描いているところの<米国政府の>広報活動を軸に構築している。
それは、長女のアリス(Alice)・ローズベルトと、未来の大統領であり、当時のローズベルト政権の陸軍長官であったウィリアム・ハワード・タフト(William Howard Taft)が、この本が描く諸国を満州号<という船>で歴訪する1905年の航海だ。・・・
ハーバード大学で教育を受けたローズベルト・・の考え方は、当時のありふれたものだった。
「最上の諸大学の白人のキリスト教徒の男性達は、次から次へと、アーリア人は神の最高の被造物であり、黒人(Negro)は奴隷たるべくつくられており(designed)、インディアンは絶滅が運命づけられていることを「発見」した」とブラッドレー氏は記す。
(続く)
米国の世紀末前後(続)(その1)
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