太田述正コラム#3846(2010.2.22)
<イギリスとユダヤ人(続)(その3)>(2010.3.27公開)
(4)第三期(現在)
「・・・第三のタイプは、欧米のすべての国・・とりわけ英国の大学のキャンパス・・に共通に見られるところの、イスラム主義と左翼反シオニズムとの同盟に係るものだ。
それは、ユダヤ人が捕食者であって無辜の非ユダヤ教徒を殺そうとしていると描くところの古よりの血の中傷に部分的に立脚している。・・・」(D)
「・・・現在の反シオニズムは、この中傷を、極めて毒気を含んだ形で再び活気づけた。
今や、悪しきユダヤ人はイスラエル人に、無辜のキリスト教徒は情け容赦なく射殺され(=ムハマッド・アル=デュラー(Muhammad al-Durrah)(注1)神話)たりその臓器が売買される(血/マッツォ(Matzo<th>)(注2)神話のとりわけひどく不愉快な一変形類型)パレスティナ人の子供に代わった。
(注1)これは説明を要しない。下掲↓に出ている写真を見れば誰でも思いだすことだろう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Muhammad_al-Durrah_incident (太田)
(注2)「・・・酵母の入っていない麦と水を混ぜて作るパン類。ユダヤ教の祝日で1週間続く・・・過ぎ越しの祭り・・・の間は、このMatzoなど発酵していないパン類のみを食べる習慣がある。」
http://frog.jugem.cc/?eid=98 (太田)
その最近の文化的顕現がキャリル・チャーチル(Caryl Churchill<。1938年~>)(注3)による、2009年の血の中傷劇、『7人のユダヤ人の子供達–ガザのための劇(Seven Jewish Children ? a play about Gaza) 』(注4)だ。・・・」(D)
(注3)ファッションモデルと政治漫画家の両親の下にロンドン生まれる。両親とともに幼少時をカナダのモントリオールで過ごす。オックスフォード大学卒(英文学専攻)。法廷弁護士と結婚し、この夫との間で3人の息子を設ける。権力の濫用を糾弾したり、フェミニスト的な劇の戯曲作家。パレスティナ支援運動に従事。
http://en.wikipedia.org/wiki/Caryl_Churchill (太田)
(注4)下掲のガーディアンのサイトで、この10分足らずのモノローグ劇を鑑賞できる。なお、この劇は、パレスティナ向け募金を行うという条件で、誰でも著作権を考慮することなく、演じることができる。(ウィキペディア上掲)
http://www.guardian.co.uk/stage/video/2009/apr/25/seven-jewish-children-caryl-churchill (太田)
「・・・<イギリスにおける>反ユダヤ主義のシーズンオフは終わったのだろうか。
イギリスのユダヤ人は、次第に募る暴力と虐めに直面しているのだろうか。
アンソニー・ジュリウスは間違いなくそう考えている。・・・
コミュニティー安全基金(=Community Security Trust=CST)は、<イギリスで、>924件の反ユダヤ人事件を2009年に記録している。
これは、この種の事件の記録を始めた1984年以来の年間数としては最高だ。
<昨年はガザ「戦争」勃発という特殊事情があったとはいえ、>2年続けて数が減っていたというのに、これで、2008年に比べると69%の増加となった。・・・」(E)
(5)総括
「・・・<ジュリウス>は、イギリスの歴史の大部分を通じてあったカトリック教徒に対する、ほとんど同じような悪意ある感情、という文脈の中にユダヤ人に対する敵意を置いたならば、より適切だったのではないか。・・・」(C)
3 終わりに
「第三期」については、帝国を失ったイギリス人が、劣化傾向にあって、欧州的反ユダヤ主義にかぶれだした、と考えるべきなのでしょうか。
私は、必ずしもそうとは思っていません。
人間には判官贔屓的なところがあり、今や、(イランはちょっと横に置いておくとして、)中東ではイスラエルが最強者であり、アラブは弱者、とりわけパレスティナ人は最弱者、であることから、世界の多くの知識人・・その中には、わが村上春樹なども含まれます(コラム#3099、3103、3105、3181)・・がパレスティナに肩入れしている、というだけのことであり、これをもって彼等が反ユダヤ主義者であるとは必ずしも言えない、と思っているのです。
ジュリウス、本業の弁護士業に専念し、趣味の著述業は控えた方が良さそうです。
(完)
イギリスとユダヤ人(続)(その3)
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