太田述正コラム#3918(2010.3.30)
<モスクワでの自爆テロ(その1)>(2010.5.10公開))
1 始めに
モスクワでの女性による2件の自爆テロ事件を英米の主要メディアは大々的に報じています。
そのうち、代表的なもののさわりをご紹介しましょう。
2 女性テロリストよもやま話
まず、スレート誌が再掲していた2007年のコラムから。
「・・・9世紀の<イスラム>学者のアル=タバラニ(Al-Tabarani)は、女性<の殉教者>は来世で夫と再び結ばれるし、複数の夫を持っていた女性は永久の配偶者としてそのうちの一番良いのを選べる、と主張した。
(他の評論家達は、未婚の女性は天国でどの男性とも結婚できる、と付け加えた。)・・・
女性はこれらの特定の特典を得られないかもしれないけれど、宗教的諸注釈書は、天国が彼女を美しく、幸せで、嫉妬心のない存在にしてくれると主張する。・・・
現代の<イスラム>聖職者は、天国では、夫は、たくさんの処女に囲まれつつも、その妻に飽きることがない、と主張している。
そのことが、自爆テロリストたらんとする女性のうちの何人かが、この上もなく公明正大なる者として、72人の処女の長となると語ったのはそうしてかを説明している。・・・」
http://www.slate.com/id/2249122/
(3月30日アクセス。以下同じ)
→ウーム、ただただ絶句するのみですね。(太田)
「・・・女性はどの主要なイスラム・テロ組織でも指導的立場に立っていない。
アイマン・アル=ザワヒリ(Ayman al-Zawahiri)が、アルカーイダで一番高い地位にいる女性について聞かれた時、彼は、この集団には女性はいないと答えた。・・・」
http://www.slate.com/id/2249127/
→女性達自身がどう思っていようと、これらは、イスラム過激派だけではなく、イスラム世界がいかに女性をひどく扱っているかを示しています。(太田)
「・・・この10年の初期、ロシア政府の女性自爆テロリストへの恐怖は極めて強く、それは強烈な強迫観念になっていた。
女性は、時にジーンズを着た普段着姿でモスクワの人混みに紛れ、2回の航空機におけるそれを含め、少なくとも16回自爆テロを行った。・・・
<ロシアにおいて>「黒の未亡人達(Black Widows)」と呼ばれることとなった彼女達は、このようにして死んだ最初の女性ではなかった。
そのいかがわしい名誉は、1985年にトラックをイスラエル軍の車列に突っ込ませた16歳のパレスティナ人女性に帰せられる。
インドの<当時の>前首相であったラジーヴ・ガンディー(Rajiv Gandhi)は、<1991年5月、>スリランカのタミルの虎関連の女性集団である天国の鳥(Birds of Paradise)のメンバーによって殺害された。
自爆テロという戦術がチェチェン(Chechnya)で用いられるようになったのは遅く、1994年から96年にかけての最初の戦争の頃にはほとんど行われなかった。
しかし、それが2000年に、27人のロシア特殊部隊の兵士達を殺害するのに用いられるや否や、それはすぐに女性と結びつけられるようになった。
それ以降、戦術はエスカレートしてきた。
ゆったりとした黒い外衣で着飾り、爆発物を身に巻き付けた女性が、2002年のモスクワの劇場での人質事件での41人の犯人達のうちの19人を占めた。
この事件は、ロシアの特殊機関が睡眠ガスを建物に浸透させることで終わった。・・・
女性達が命を捧げる理由は単一ではないが、専門家は、彼女達は、通常、復讐心に燃えたり生きる気持ちがぐらつくに至るトラウマ的出来事を体験していると語る。
ロシアにおける女性自爆テロについて言えば、子供や夫や家族の他の一員をロシア軍によって殺されたり強姦されたりした場合がある。
ロシア当局は、女性が時にヤクを投与されていることがあると言う。・・・」
http://www.nytimes.com/2010/03/30/world/europe/30blackwidows.html?ref=world&pagewanted=print
→(イスラム教徒ではないタミルの虎のケースはともかくとして、)イスラム過激派の女性のテロリスト輩出が、イスラム世界における女性の地位向上につながる可能性があるのか、それとも、それが単にイスラム世界における女性がいかにひどく扱われているかの再確認にとどまるのか、果たしてどちらなのでしょうね。(太田)
(続く)
モスクワでの自爆テロ(その1)
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