太田述正コラム#4017(2010.5.19)
<皆さんとディスカッション(続x838)>
<けいc。>
 アメリカ軍が朝鮮半島での緊張を理由に今週予定していた、民間人(アメリカ+UN軍を構成する国の民間人合計14万人)退避訓練をキャンセルしたニュース。
 U.S. government noncombatants, the U.S. would have to evacuate about 140,000 civilians from South Korea
http://www.military.com/news/article/us-cancels-skorean-exercise-amid-tensions.html
 日本の役所のHPを、“有事 邦人 退去or退避”で検索しても、
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2001/mp01j.html
 6.在外邦人等の輸送
 外国における災害、騒乱等の緊急事態に際し、生命等の保護を要する邦人等を本邦等の安全な地域に退避させるための輸送活動を、関係機関と連携
 外務省に至っては有識者懇談のPDF程度・・・。
 半島有事の際の邦人退去方法についてきちんと説明しているものは見当たりませんでした。
 2007年にこんなニュースがあったくらい・・・。
http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe7000/news/20070105it01.htm
 日本は受け入れ国としての役割が大きいことを力説されても・・・。
 非常に初歩的な質問で恐縮なのですが、韓国の日本人を退避させるための、迅速に空自輸送機や護衛艦を派遣することは日本は法律的に可能なのでしょうか?
 なんとなく、過去の度重なる中東危機での邦人退避での不手際から日本はなにも学んでないような気がしてなりません。
 それとも、米軍の訓練マニュアルの中には完全に自衛隊のリソースが組み込まれており、それは日本政府も内々で了解して、単純に広報リリースをしていないだけなのか?
 ちなみに、カナダ政府なんかは、概要、計画などの詳細を国民に対してHPで広報しています。
 Emergency evacuation plan Canadian Embassy Seoul, Korea
http://www.canadainternational.gc.ca/korea-coree/consular_services_consulaires/emergency_plan_urgence.aspx?lang=eng
 こんな質問は太田さんレベルの質問ではないかもしれませんが、裏事情に精通している太田さんから見て万一の時に3万人に及ぶ在韓邦人を日本政府はどうやって退避させるつもりなのか?(半島での武力紛争の可能性が低いとしても)気になるところです。
<太田>
 必要が生じた場合は、紛争地域じゃないと屁理屈をこねて、(「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」では、韓国の領域内には派遣できないので、)「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(、または場合によっては「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」)に基づいた形にして、自衛隊航空機や艦艇を派遣することになるでしょうね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E8%A1%9B%E9%9A%8A%E6%B5%B7%E5%A4%96%E6%B4%BE%E9%81%A3
 しかし、お示しの米軍事紙や讀賣の電子版記事を読むと、在韓日本人は、(日本が国連軍地位協定締約国であること等を考慮して(?)、)朝鮮国連軍構成国に準じる国の国民として、在韓米国人らと共に米軍の航空機や艦艇に乗せてもらって韓国から待避することになりそうです。
 問題は、その場合の手はずが決められ、在韓日本公館、在韓日本人団体等にそれが周知徹底されているかどうかですが、ご言及の待避訓練に日本人が参加したというニュースに接したことがないところを見ると、実質何もやっていない可能性がありますね。
<υυΒΒ>(「たった一人の反乱」より)
 小室教授の偉大さが理解できないとは残念であります。
 「マルクス・レーニン主義的社会主義が必然的に崩壊することなど、最初から分かりきっていたけれど、問題は崩壊の時期だったわけで、それはヴェーバーにも小室氏にも分からなかったということではないでしょうか。
 崩壊の前兆をつかみ、崩壊の時期を予想するのは、国際政治学者やソ連学者の役割だったはずですが、遺憾ながら私の知る限り、予想できた人はいませんでした。」
 ということは当時、当然、太田氏も共産主義の崩壊を”わかりきって”いたようですね。
 しかし、崩壊の次期を予測する云々なんてハードルが高過ぎるような。
 アングロサクソンの研究者にだって、そんな人、いませんぜ。
 それに小室教授のソ連崩壊予測は、自身が新しく唱えた理論を社会科学に応用して、理論の正しさを証明しようとしたものなので、他の”ソ連崩壊予測者”とは全然、意味合いが違ってきますぜ。
 なお小室教授の予言はソ連崩壊だけでなく、『アメリカの逆襲』(1980)ではレーガノミックスの成功によるアメリカ帝国の復活を予測、太田氏もたびたび触れているキリスト教原理主義について詳しく解説。
 また『資本主義中国の挑戦』(1982) では、中国の共産主義が民族主義の仮面でしかなくソ連とは違って共産主義の教義(ドグマ)にとらわれることはなく、資本主義化するであろうこと、21世紀は中国内の安い労働力が世界的な問題となるであろうこと、食人の習慣のある中華民族は日本人とは別の民族であるなど、自身の理論を使って鋭い指摘がなされています。
 その中で『超常識の方法』の1冊を挙げたのは小室教授の分析手法となる数学をベースとした理論の説明がこの本でなされているからです。
 そういう意味で原典(典拠)主義の太田氏とは肌合いが合わない面もあるのかとは思いますが。
 情報(典拠)の分析手法として、是非、ご一読してみれば、面白いかと思います。
 情報を集めても分析に失敗すれば意味がないですしね。
<太田>
>太田氏も共産主義の崩壊を”わかりきって”いたようですね。
 はい。
 ただし、マックス・ヴェーバーがソ連の崩壊を予言していたと以前申し上げたのは、ルードヴィッヒ・フォン・ミーゼス(Ludwig von Mises。1881~1973年。ユダヤ系。ウィーン大学でヴェーバー(1864~1920年)と親交があった)
http://en.wikipedia.org/wiki/Ludwig_von_Mises
の誤りです。
 彼は、社会主義経済は、経済計算問題・・すなわち、市場がないことから妥当な価格設定ができないため、政府は複雑な経済を運営して行くために必要となる経済計算ができない・・から、経済的に必ず行き詰まる、と1922年の著書 ‘Socialism: An Economic and Sociological Analysis’ で予言したのです。(ウィキペディア上掲及び
http://mises.org/books/socialism.pdf )
 社会主義経済(ソ連)が必ず行き詰まることの理論的説明はこれに尽きています。
 具体的には忘れたけど、小室直樹が、ミーゼスから半世紀経った後に、これよりも優れた理論的説明を行いえた、という記憶は私にはありません。
 なお、正確に言えば、必ず行き詰まるからといって、必ず体制が崩壊するとは言い切れません。
 北朝鮮経済は既に崩壊していると言ってよく、また、キューバ経済は崩壊に瀕していますが、どちらも体制はまだ崩壊してはいませんからね。
 次にレーガノミックス(Reaganomics)ですが、それが米国史上最長の好景気をもたらしたかのように見えることは事実です。
 しかし、この好景気は、通常の景気循環と対ソ軍拡のための財政支出なるケインズ的財政政策との合算的論理的帰結に過ぎなかった、という見方が現在では有力です。
 問題は、かかる財政支出政策と一緒に高額所得者を中心とする減税政策が推進されたことによって、巨大な財政赤字が発生し、米国が、世界一の債権国から世界一の債務国へと一挙に転落し、世界の覇権国としてあるまじき状態に陥ってしまったことです。
http://en.wikipedia.org/wiki/Reaganomics
 そして、米国は、今なおその後遺症に苦しめられています。
 ソ連の崩壊をレーガン軍拡に帰せしめることは無理だとすると、米国、ひいては世界にとって、レーガノミックスは罪が功よりも大きかったと言わざるをえないでしょう。
 小室が(、これも私は記憶が定かではないのですが、)レーガノミックスを礼賛していたとすれば、彼に先見の明があったとは到底言えないのではないでしょうか。
 最後に、(これについても私は記憶が定かではないのですが、)小室の中共の資本主義化論については、中共の経済改革、いわゆる改革開放、更に端的に言えば市場経済化が既に1978年12月に始まっていたことからすれば、小室が1982年の著書の中で中共の資本主義化を唱えたとしても、それが世界の中で小室だけの「発見」であったはずがありません。
http://en.wikipedia.org/wiki/Township_and_Village_Enterprises
http://en.wikipedia.org/wiki/Socialism_with_Chinese_characteristics
 まあ、この最後の点については反証があれば改めるにやぶさかではありませんがね。
 『超常識の方法–頭のゴミが取れる数学発想の使い方』(1981)、あるいはこれを改題した『数学を使わない数学の講義』については、私が読んでいないことがはっきりしていることもあり、コメントは控えます。
<太田>
 それでは、記事の紹介です。
 男の方が女より嘘つきだってさ。↓
 ・・・British man tells three lies every day, that’s equivalent to 1,092 a year.
 However the average woman appears more honest, lying 728 times a year – around twice a day. ・・・
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8689010.stm
 ユーロの下落は、どう対処しても当分止まりそうもないって。↓
 The once-mighty euro, which briefly plunged to a four-year low against the dollar on Monday, may be doomed to keep falling whether or not European leaders can contain the region’s roiling debt crisis. ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/05/16/AR2010051603653_pf.html
 常任理事国の間でイランへの新制裁案合意なる。
 この案が安保理で採択された場合、果たしてイスラエルがイラン核施設攻撃を思いとどまるかが今後の問題。↓
 ・・・A draft security council resolution was agreed early today by the five permanent members of the security council – the US, Britain, China, Russia and France. The resolution was sent to the other 10 members of the council this afternoon.
 The imposition of sanctions may help delay Israel’s long-threatened air strikes against Iranian nuclear facilities.・・・
 The security council move came less than 24 hours after Brazil and Turkey announced their own deal with Iran, under which Tehran would ship out more than a tonne of enriched uranium in return for fuel rods for a nuclear research reactor. The US and Britain were cool about this deal, saying it did not go nearly far enough.・・・
 What will add to the Brazilian and Turkish anger is that their deal is similar to one that the US, France, Russia and the International Atomic Energy Agency, the UN nuclear watchdog, agreed with Tehran last October, from which Iran withdrew earlier this year. ・・・
http://www.guardian.co.uk/world/2010/may/18/iran-un-sanctions-russia-china
 ・・・The deal breaker, in Russia’s and China’s eyes, was Iran’s insistence that it would carry on producing 20%-enriched uranium, ostensibly to create fuel for its medical research reactor.・・・
 Much is made of the fact that when the offer was originally framed, 1,200 kilograms of low-enriched uranium represented the majority of the feedstock Iran had. Today, it represents less than half. In other words, Iran has enough feedstock to make a bomb, even if the fuel swap with Turkey goes ahead.・・・
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2010/may/19/iran-nuclear-processing-un-sanctions
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太田述正コラム#4018(2010.5.19)
<米人種主義的帝国主義と米西戦争(その1)>
→非公開