太田述正コラム#4037(2010.5.29)
<皆さんとディスカッション(続x848)>
<太田>(ツイッターより)
≫私が言いたいのは、少なくとも日露戦争の時までは日本の軍隊は縄文モード的大衆によって腐食されていなかったのだから、再度、そのような軍隊を日本が再建することは可能だ、ということです。≪(コラム#4035。太田)
結局のところ、旧軍を嫌うということは、大部分の日本人にとって、自己嫌悪ということなんだよな。鍵となるのは弥生人の養成・輸入だ。
<bonkers_blunder> (同上)
弥生人の輸入をめぐってですが、構造的移民排斥、女性差別の日本がさらにひどいレイシストにならないようにするためにはどうしたらいいのでしょうか?
英国の一部の排外主義も閉塞感に由来しているのでしょうか?
<太田>
日本人は、イギリス人と並んで、世界でもめずらしいほど、異質な人々に対する差別意識の少ない人々であって、「戦後在日と部落民に「よる」差別に翻弄されてきたことが、日本人にとってトラウマとなっており、移民受入問題を冷静に議論することが困難になっている」(コラム#2685)だけのことです。
このトラウマを乗り越えることはできる、と信じています。
日本の女性差別については、何度も述べているように、日本の女性達、とりわけ比較的恵まれた女性達が、もっと積極的に差別解消に向けて立ち上がらなければ、容易に解消しないでしょうね。
英国についてのご質問ですが、英国における現在が旬の排外主義グループに関して言えば、その指導者の一人が英国生まれのシーク教徒であったり、ゲイの人々がこのグループに参加していたりすることからも分かるように、それは、イスラム教徒に対する嫌悪感に根ざしたものです。
英国経済が思わしくないことも背景にあるのでしょうが、私もイスラム教徒の原理主義志向性(共著『属国の防衛革命』121~140頁)が大変気になる一人であることから、彼等の気持ち、部分的に分からないでもないですね。↓
・・・With the British National party beset by infighting and recriminations after its poor showing in last month’s local and national elections, the UK is facing the prospect of rightwing activists turning away from the ballot box and back to the street for the first time in three decades.
The English Defence League sprang up in Luton last year in reaction to a demonstration by a small extreme Islamist group during a homecoming parade by the Royal Anglian Regiment.
Since then this chaotic organisation ? based largely around existing football groups and hooligan networks ? has mobilised thousands of people against what it terms “Islamic extremism”.・・・
・・・the EDL is not a simple rerun of previous far-right street groups. On each demonstration there is a smattering of non?white faces and one of the group’s leaders is Guramit Singh, a British-born Sikh. The organisation’s core support appears to be young white men who are often fuelled by drink and sometimes drugs. But its Islamophobic message seems to have acted as a lightning rod for a strange coalition ? from rightwing Christians who see it as being on the frontline in the “global fight against Islam” to gay rights activists.・・・
http://www.guardian.co.uk/uk/2010/may/28/english-defence-league-protest-bnp
<困弊盗>
–太田さん。あなた司馬さんの掌の上ですよ。–
司馬さんは晩年、太平洋戦争についてのアンケートに以下のような内容(うろ覚えです)を答えています。
「最終的に世界○○ヶ国を相手に戦った馬鹿げた戦争だった。しかし子孫はそのことを誇りとするだろう」
(たしか「司馬遼太郎が考えたこと」の最終巻に載ってます)
あなたが力説するようなことは、彼はすべて分かっていたと思います。
分かっていて、あえて強調しなかった。
共産主義とか人種主義とか外国のせいにして開き直ることが国民の幸せにつながらないと考えていたのでしょう。
蛇足ですが、あなたの大好きな英国については
「インドを失った後、ずっと凋落の一途」
みたいなことをどこかで述べてます。
現在でも当たっていると思いませんか?
<太田>
典拠はうろおぼえでないものをつけましょう!
私は拙著『防衛庁再生宣言』(228~232頁)で司馬遼太郎批判を展開していますが、それとだぶらない形で、この際、改めて彼の批判を行っておきましょう。
「司馬(遼太郎) 私はね、戦後社会を非常にきらびやかなものとして考えるくせがあるんです。これは動かせない。・・・
私たちは、参謀肩章をつっている軍部の人間に日本民族は占領されていたわけですね。それはやはり思想的な背景が強烈にあるんで、集団狂気のなかからいえば、高崎街道を北上してくる避難民はひき殺していけという結論が出るわけです。ぼくは猛烈に幻滅した。これはマルクス思想に対しても、カトリック思想に対しても、思想の悪魔性という点で同じです。
戦後、アメリカ軍がなるほど占領にやってきたけれども、その占領のほうがやや軟弱なる占領であって、その前の占領のほうがきつかったという感じ。・・・
鶴見(俊輔) ・・・ベトナム戦争もですね。共産主義が攻めてくるから、共産主義をつぶすため、自由を守るためと、原理を押しつけて、非常に戦争中の日本の感じと似ていますね。日本の特殊性ではなかった。・・・」(『朝日ジャーナル』昭和四十六年一月一-八日号中「対談・歴史の中の狂と死:司馬遼太郎(作家)&鶴見俊輔(評論家)」より)
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20061028/hiki3 から孫引き
→司馬も鶴見も全体主義と自由主義(全体主義の否定)の区別ができないイデオロギー音痴です。
そんな二人がイデオロギーや国際政治について語っちゃいけません。
(なお、鶴見がベトナム戦争下の米国の姿が戦争中の日本の感じと似ていると感じたのは当たり前です。米国は、先の大戦後心を悔い改め、遅ればせながら、日本に成り代わって全体主義との戦いに乗り出した、ということであったからです。)
また、旧軍は、当時の自由民主主義的日本において、議会による予算/法律コントロールの下にあったのに対し、米軍は日本の議会による予算/法律コントロールの下にはありません。後者の方を前者より好む司馬は、反民主主義者であり、日本のガバナンス放棄論者だと断ぜざるをえません。(太田)
「秦(郁彦) 司馬遼太郎さんは、そのころ宇都宮の戦車隊にいて、大本営の参謀が来たときに、九十九里浜まで戦車が進出する場合、避難民が逆流してきたらどうするのか、と質問したそうですね。参謀はしばらく考えていたが、轢いてけ、と答えたというんですよ。
近藤(新治) あの話は、われわれの間で大問題になったんです。司馬さんといっしょの部隊にいた人たちに当ったけれど、だれもこの話を聞いていない。ひとりぐらい覚えていてもいいはずなのですがね。・・・
当時、戦車隊が進出するのには、夜間、四なり五キロの時速で行くから、人を轢くなどということはまずできなかったですよ。夜光虫をビンに入れて背中にかけた目印の兵が戦車の前に立ち、それの誘導でノロノロ進むのです。
轢き殺して行けと言ったとしたら、その人は、戦車隊のことがよく分かっていないのではないですか。」
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20061029/hiki3
→私が司馬を「絵のない劇画作家として<は>偉大」だと記したこと(前掲拙著228頁)を噛み締めて下さい。
前にも言ったことあるけど、小説家が歴史家をきどってはいけないのです。(太田)
「・・・司馬遼太郎と同期に入隊した藤田庄一郎さんという方がいます。フクダ(=司馬)、フジタの名前のため、司馬遼太郎と相部屋だったそうです。・・・
「福田君(司馬)の場合、何をやっても遅い方でしたから、私以上に殴られています。『人生観、社会観の崩壊だ』なんて言ってました」と、藤田氏は語っています。・・・
司馬遼太郎をはじめ、徴兵された学徒兵たちは、戦争に勝てるとは思っていなかったとのことです・・・
「福田君(司馬)は、反戦というより厭戦、厭軍の気分に満ちていました」と、同期の藤田氏は語っています。・・・」(『司馬遼太郎が語る日本』(朝日新聞社)からの要約紹介)
http://tea-time7.com/2010/03/post-35.html
→前段について、コラム#4035で紹介した、山本七平の私刑体験の受け止め方に比して、司馬の薄っぺらさにお気づきですか?
後段は、まさに司馬が、私の言う縄文的大衆の一人であったことを指し示すものです。(太田)
「学生あがりの下級士官であった司馬遼太郎は、戦車の修理ひとつさえできないため屈辱を感じた。・・・
陸軍の上層部の連中が技術についての常識すらもたず、技術を無視、軽視し、兵隊たちを死に追いやったことを知って愕然とした。戦車隊で、ソ連戦車の威力に絶望的な思いを抱いていた司馬遼太郎は、日本国家の近代性というものを、“技術”の側から考えるようになった。」
http://www.yurindo.co.jp/yurin/back/yurin_434/434_4.html
→技術音痴の速成将校だった司馬が語る戦車によるひき殺し譚(上出)や戦術の話などは聞き流さなくっちゃね。(太田)
「戦争をしかけられたらどうするか。
すぐに降伏すればいいんです。
戦争をやれば百万人は死ぬでしょう。 レジスタンスをやれば十万人は死にますね。
それより無抵抗で、ハイ持てるだけ持っていってください、
といえるだけの生産力を持てばすむことでしょう。
向こうが占領して住みついたら、これに同化しちゃえばいい。
それくらい柔軟な社会をつくることが、われわれの社会の目的じゃないですか」(文春文庫 司馬遼太郎対談集「日本人を考える」中梅棹忠夫との対談「日本は“無思想時代”の尖兵」 から)
http://mentai.2ch.net/history/kako/971/971193145.html の孫引き
→2ちゃんからの孫引きじゃ、心許ないが、彼がホントにこんなこと言ってたとすりゃ、これでキマリでしょう。
司馬は吉田ドクトリンのイデオローグ中の非武装中立論者だったってことです。
そこで結論です。
司馬の作品・・ノンフィクションも含む・・は楽しめばいいのであって、司馬の主張をバカ正直に受け止め、「司馬さんの掌の上」で持て遊ばれないように心しましょうね。
それでは、記事の紹介です。
片方で鳩山政権の日本をおだてていいこいいこしながら、一番弱い日本をぶったたく作戦を中共当局が展開中、と見た。
当局から「選ばれた」ホンダ、かわいそう。↓
・・・A strike at an enormous Honda transmission factory here in・・・FOSHAN・・・southeastern China has suddenly and unexpectedly turned into a symbol of this nation’s struggle with income inequality, rising inflation and soaring property prices that have put home ownership beyond the reach of all but the most affluent.
And perhaps most remarkably, Chinese authorities are letting the strike happen – in a very public way. ・・・
The Chinese media may also have found it a little easier, politically, to cover this strike because Honda is a Japanese company, and anti-Japanese sentiment still simmers in China as a legacy of World War II. Certainly, the strike is hitting Honda hard, as the resulting shortage of transmissions and other engine parts has forced the company to halt production at all four of its assembly plants in China. ・・・
The unusually permissive approach of the authorities toward media coverage of the strike follows a decision to tolerate extensive coverage this month of suicides by workers at the Taiwanese-owned Foxconn factory complex in nearby Shenzhen that supplies Apple and Hewlett-Packard. ・・・
“The strike at Honda is the largest strike that has ever happened at a single global company in China,” she said, adding that, “such a large-scale, organized strike will force China’s labor union system to change, to adapt to the market economy.” ・・・
http://www.nytimes.com/2010/05/29/business/global/29honda.html?hp=&pagewanted=print
・・・Transmission factories are the most expensive auto plants of all to build, because they are huge and highly automated. Each costs as much as $1 billion, more than twice the cost of an assembly plant, and typically supplies several assembly plants. The factory here supplies four Honda plants in China, all of which have been shut down.
Automakers tend to put transmission factories only in the most politically stable and strike-free countries, because a shutdown for even a day is costly. Until now, China was seen as a safe bet. ・・・
http://www.nytimes.com/2010/05/29/business/global/29strikeside.html?pagewanted=print
コラム#3806で登場したマイヤーズ(B. R. Myers)が天安事件に関する韓国の人々、とりわけその若い人々の煮え切らない態度について分析しています。↓
・・・South Korean nationalism is something quite different from the patriotism toward the state that Americans feel. Identification with the Korean race is strong, while that with the Republic of Korea is weak. (Kim Jong-il has a distinct advantage here: his subjects are more likely to equate their state with the race itself.) Thus few South Koreans feel personally affected by the torpedo attack.
Besides, Koreans in both the North and the South tend to cherish the myth that of all peoples in the world, they are the least inclined to premeditated evil. The sinking of the Cheonan is widely viewed here as an almost spontaneous byproduct of inter-Korean tension – a regrettable aberration that should not be made too much of. ・・・
This urge to give the North Koreans the benefit of the doubt is in marked contrast to the public fury that erupted after the killings of two South Korean schoolgirls by an American military vehicle in 2002; it was widely claimed that the Yankees murdered them callously. During the street protests against American beef imports in the wake of a mad cow disease scare in 2008, posters of a child-poisoning Uncle Sam were all the rage. It is illuminating to compare those two anti-American frenzies with the small and geriatric protests against Pyongyang that have taken place in Seoul in recent weeks. ・・・
http://www.nytimes.com/2010/05/28/opinion/28myers.html?pagewanted=print
イスラム世界やインドで日常茶飯事的に起きる大量殺人テロのことを考えれば、天安事件なんて大した話じゃないようにも見えて来ちゃうから恐ろしい。↓
Gunmen stormed two separate mosques in the eastern city of Lahore during Friday prayers, killing at least 80 worshippers of the minority Ahmadi sect. ・・・
Members of the Ahmadi sect were officially declared non-Muslims in 1974 and are the generally the most persecuted of Pakistan’s minority groups. ・・・
The sect was founded in India in 1889 by Mirza Ghulam Ahmad, who is considered a prophet by Ahmadis, much to the annoyance of orthodox Muslims who believe that Muhammad was the final prophet of Islam. Pakistan is home to an estimated 4 million Ahmadis. ・・・
http://www.csmonitor.com/World/Asia-South-Central/2010/0528/Why-Taliban-attacks-two-Muslim-minority-mosques-in-Pakistan
米国で、志願制への移行(復帰)に伴い、低所得者層の戦死者の割合が大きく上昇してるだろうと思ってたけど、それほどでもないんだね。↓
・・・ in the Korean, Vietnam and Iraq wars, communities in the lowest three income deciles suffered 35%, 36% and 38% of the casualties, respectively. Yet communities in the top three income deciles sustained significantly fewer casualties – 25%, 26% and 23% of the casualties, respectively.・・・
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-0528-shen-warcosts-20100528,0,7023778.story
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6月5日の神戸で講演会(オフ会)、及び6月26日の東京での講演会(オフ会)の申込みは以下から!
http://www.ohtan.net/meeting/index.html
(http://www.ohtan.net/meeting/index3.html はテスト用でした。)
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一人題名のない音楽会です。
『アイーダ』特集の最中ですが、このところ、ロシアのワルツにはまってしまったので、とにかく紹介させてください。
一回目はショスタコーヴィッチです。
ご用とお急ぎの方は、●がついたのだけをお聴きください。
Jazz Suite No.1 Waltz
http://www.youtube.com/watch?v=Fxpm4UDFeoA&feature=related
Jazz Suite No.2 Lyric Waltz これが素晴らしい。このところ、毎日聴き続けてます。
●Riccardo Chailly指揮 Royal Concertgebouw Orchestra でどうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=HtwziMLafIA&feature=related
この曲を活かした大韓航空のTV CMもぜひどうぞ。映像ともども脱帽です。
http://www.youtube.com/watch?v=nEV1rkqz5YQ&feature=related
Jazz Suite No. 2: IV. Waltz 1
http://www.youtube.com/watch?v=2RV-Gm_vyQQ&feature=related
Jazz Suite No.2:VI. Waltz 2 何度も取り上げてきた(コラム#2686、3083、3490)天下の名曲です。たまに、ピアノで弾いてます。
●Riccardo Chailly指揮 Royal Concertgebouw Orchestra. ゆっくりのテンポ。
http://www.youtube.com/watch?v=OUZFTwn8UJs&feature=fvw
Richard Yongjae O’Neill バイオリン 速いテンポ。
http://www.youtube.com/watch?v=n6gdN3ur5AQ&feature=related
James Last ジャズ風編曲でもどうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=nds3rxVFVoI&feature=related
Ballet Suite No. 1 – Lyric Waltz Russian Philharmonic Orchestra
http://www.youtube.com/watch?v=SmgeZgoSjuk&feature=related
Ballet Suite No. 1 – Waltz-Scherzo
http://www.youtube.com/watch?v=I5Z4EzGoF0A&feature=related
Ballet Suite No. 2 – Waltz (The Limpid Stream)
http://www.youtube.com/watch?v=PwxAYAYfNq8&feature=related
Ballet Suite No. 2 – Spring Waltz(Michurin)
http://www.youtube.com/watch?v=e12IMG3uhu0&feature=related
●Waltz-Tempo di Valse. Moderato from Five pieces for Two Violins and Piano これも名曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=2NOhDmutbRg&feature=related
Quartet 2 Op 68, Waltz 本来のショスタコーヴィッチらしい現代音楽っぽい曲です。
http://www.youtube.com/watch?v=KzE5EMbwSOo
Dances of the Dolls Lyric Waltz Ashkenazy ピアノ
http://www.youtube.com/watch?v=8R91bmZKsto&feature=related
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太田述正コラム#4038(2010.5.29)
<「白人」について(その1)>
→非公開
皆さんとディスカッション(続x848)
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