太田述正コラム#4014(2010.5.17)
<ワールドカップ直前の南ア>(2010.6.17公開)
1 始めに
サハラ以南のアフリカは、オセアニアとともに、私が最も土地勘のない地域であり、これまであまり取り上げたことがありません。
ワールドカップが南アで開かれることもあり、南ア関係の記事が英米の主要メディアで増えています。
そこで、南アの知識人によるコラムからの抜き刷りをご紹介する形で表記のコラムをお届けすることにしました。
2 ワールドカップ直前の南ア
(1)白人A
「・・・南アで今必要なことは、マンデラが示した範例からこの国が逸れてしまったために失った敬意と人間性を回復することだ。
我々はそれらすべてをしばらくの間は保持していた。
しかし、この国は、腐敗、搾取、そして暴力を伴う形で悪い方向に逸れてしまっているのだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/culture/2010/may/16/andre-brink-south-africa
(5月16日アクセス。以下同じ)
(2)黒人a
「・・・南アの問題は、我々が、この国を余りに円滑に民主主義へと移行させたことだ。
アパルトヘイトのありとあらゆる有毒性、すなわち、異なった人種間の各種緊張関係、を我々は、寛大なるネルソン・マンデラとその他の人々によって促され、(「虹の国」なる)ユートピアを創造するため、絨毯の下に隠してしまった。
我々が無血で民主主義へ移行したことは敬意を払われるべきだが、対処されなかったあらゆる諸問題が、いつかは我々に取り憑くために戻って来るであろうことは間違いない。
最近、ANC<(African National Congress)>の青年同盟(Youth League)の会長である<黒人の>ジュリウス・マレマ(Julius Malema)が、「ボーア人(Boer)を殺せ」という歌を歌った・・・
また、人種主義団体・・・の指導者である<白人の>ユージン・テレブランチュ(Eugene Terreblanche)が殺害された時、多くの右翼のアフリカーナ達は戦争だと叫び、黒人の人々を殺すと脅した。・・・
1994年以降、人々は自由を与えられたが、ある人が、自由に生きる手段を持っていない場合、また、適切な教育を受ける権利を否定された統制環境で育った場合、この国のあらゆる富が拒否された場合、<その人にとって>自由が何の役に立つというのか。・・・
多くの人々が、民主主義が彼等のすべての問題を解決してくれると勘違いしたように、ワールドカップがやってきて去って行ったとしてもほとんど何も変わりはしないのだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/culture/2010/may/16/mpumelelo-paul-grootboom-south-africa
(3)白人B
「・・・ANCの長老達は、隣国ジンバブエのうぬぼれた小精神病質者たるロバート・ムガベ(Robert Mugabe)にこの間声援を送って世界の見出しを飾ったところの、喧しき議論を常に引き起こす若き指導者たるジュリウス・メルマに対する告発に署名することを拒否している。・・・
<南アの現>大統領のジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)は、米国に向かって、我々は地球上で最も怠け者で最も役立たずの官僚機構を持っていると伝えた。
他の国でこんなことを認めれば、その政府はただちにおしまいになるところだ。
<ところが、>この国では、この話は<新聞の一面から>五面へと退けられたときている。・・・」
http://www.guardian.co.uk/culture/2010/may/16/rian-malan-world-cup-south-africa
(4)白人?C
「・・・ネルソン・マンデラが牢獄に入っていて、彼の大親友にして法的なパートナーであったオリヴァー・タンボ(Oliver Tambo)が亡命していたANCを率いていた1983年、私はザンビアのANC本部に召喚された。
私が到着すると、タンボは、問題が一つあるので同運動体における弁護士であった私が答えを見出すのを助けてくれることを希望する、と言った。
彼は、ANCは、プレトリアからこの組織に浸透してこの組織を破壊すべく送られてきたかなりの数の人々を捕らえたのだが、ANCとしては、これらの囚われ人をどう扱ったらよいか、規則をつくる必要がある、と言った。
私は、躊躇なく、こういうことについての規則をつくりあげることはむつかしくないだろうと答えた。
拷問や残酷な、または非人動的な処罰ないし扱いを禁じること等の明確な国際基準が存在するからだと。
<するとタンボは、>「我々は拷問を行っている」と大真面目に私に伝えたものだ。・・・
全員一致で我々は、拷問その他の残酷な形での扱いについて曖昧にしておくことは認められない、と決めた。・・・
<このコラムの筆者の白人(?)C>・・・は、1994年にネルソン・マンデラによって南アの憲法裁判所の判事に任命された人物だ。彼は昨年、同職から引退した。
http://www.latimes.com/news/opinion/commentary/la-oe-sachs-20100516,0,5034938,full.story
(5月17日アクセス)
「・・・<憲法裁判所において、>我々は、一つの明確な事柄について全員が一致した。
それは、死刑は、非人道的な処罰であって、我々の憲法が心に描いているところの、人道性と人間の尊厳への敬意という原理に立脚する民主主義的社会においては正当化されえないというものだ。・・・
<また、>南アでは、同性同士の結婚を憲法上の権利であると宣言したが、これは世界でそのようにした5番目の国だ。・・・
そのごちゃ混ぜのお国柄とたくさんのひどい欠陥と矛盾にもかかわらず、南アが一つの国であるという事実と、その前向きの憲法がその生活において中心的役割を演じていることは、思うに、我々の時代における最も偉大な物語の一つだ。・・・
我々の大統領達は二期務めれば辞めるし、報道機関は活発であり、人々は自分の考えを語る<、ということを考えても見よ>。・・・」
http://www.guardian.co.uk/culture/2010/may/16/albie-sachs-south-africa-world-cup(5月16日アクセス。以下同じ)
(5)黒人b
「・・・2008年にヨハネスブルグが火事になった。
何波もの致死的攻撃が他のアフリカ諸国からの移民達に向けて解き放たれた。
彼等は、失業、犯罪、そして住宅不足といった社会問題の贖罪の山羊にさせられたのだ。
私の人生で初めて、私は自分が南ア人であることを恥ずかしく思った。
どんなに貧しかろうと失業していようと、人々が、たまたまその人が南ア人でないからといって、笑いながら、男の人にタイヤをネックレスにさせてそれを燃やすなどということが許されるわけがない。
同様、鹵獲や略奪が許されるわけがない。
政治指導者達が沈黙を守っていることは耐え難い。
すべての黒人中産階級の人々同様、私は説明を求めた。
私が、怒りを自分のブログに書いたところ、権力に近い誰かから脅迫的な電話がかかってきた。
「君は反革命的になってきたな」とその声は電話線の反対側から私に伝えた。
私は、この男を3年前から知っており、彼を友人だと思っていた。
著述家は、もはや私が考えていたほど自由ではなくなったのだ。
とはいえ、私は完全に悲観的にはなっていない。
私は、・・・ジュリアス・マレマ(Julius Malema)(注1)のような電動機のごとき口を持った人物1人につき、人種カードを振りかざすことによって自分達の失敗を棚に上げることを潔しとしない南ア人が5人はいることを知っているからだ。
(注1)ANC青年同盟(Youth League)会長(黒人)。4月初め、隣国ジンバブエのムガベ大統領に会い、南アでも白人の農地を没収すべきだと持論を語った。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/apr/08/julius-malema-mandela-robert-mugabe (太田)
また私は、ユージン・テレブランチュ(Eugene Terre’Blanche)(注2)1人につき、自分達の被雇用者を敬意をもって扱う雇用者が10人いることも知っているからだ。・・・」
http://www.guardian.co.uk/culture/2010/may/16/zukiswa-wanner-south-africa
(注2)白人至上主義の政党党首(白人)。4月初めに自宅で就寝中殺害された。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/apr/04/eugene-terreblanche-south-african-white-supremacist (太田)
3 終わりに
以上だけで、なんだか現在の南アのことが分かったような気になったのではありませんか?
改めて、ネルソン・マンデラという人物、及び彼が成し遂げたことの偉大さに感服しますね。
ワールドカップ直前の南ア
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