太田述正コラム#4075(2010.6.17)
<皆さんとディスカッション(続x866)>
<太田>
 有料読者の皆さん、本日、注を入れる等の修正を加えたコラム#4014を公開したので、ブログでご確認下さい。
<Fat Tail>
 –米人の対英人コンプレックス–
 コラムにおいて、執筆開始の早い時期から度々アメリカ人が抱く、イギリス人に対するコンプレックスについて述べられています(コラム#0138等)。
 対英コンプレックスと言えば、「先進国イギリスにコンプレックスを抱いていた欧州の各国の知識人達」が、羨望と嫉視が入り混じった目でドーバー海峡越しにイギリスを観察した結果、誤解や曲解により様々なism(19世紀の市場原理主義や18世紀の啓蒙主義、等)を生み出したと、何度も指摘されています(例えばコラム#3711)。
 ここで、欧州文明をも内包したアメリカの人々のイギリス評も、誤解や曲解が少なくないと捉えるべきでしょうか。それとも、アメリカ人の場合、こうした誤解・曲解とは基本的に無縁であり、単に嫉妬が入り混じっていたり、頭が上がらないだけだ、と考えるのが妥当なのでしょうか。
<太田>
 ことは、米国独立のタテマエ(高尚。民主主義)とホンネ(醜悪。奴隷制擁護)が乖離ているということに、当時のイギリス人や北米植民地人のうち、まともな人は気づいていたはずだ、というところまで遡ります。(コラム#225)
 後は一事が万事ってやつです。
 これでは、米国人がイギリス人に頭が上がらないのは当然でしょう。
 つまり、私は、まともな米国人は、イギリスを誤解も曲解もしておらず、的確に理解していると考えている次第です。
<Fat Tail>
≫しかし、仮に私のコラムに関心のある団体があるとすれば、私を部内講師として招いたり、コンサルタント契約を試みても不思議ではないところ、これまでそのような申し出は皆無に等しいのですから、団体用の新しい購読方法を設定したとして、購読してくれる団体があるのか疑問です。≪(コラム#4071。太田)
 これは信じ難い。太田さんが積極的な営業活動とは無縁であることを考慮しても、裏芸で脚光を浴び過ぎたため、表芸が陰に隠れてしまったということでしょうか。
 もったいない話です(太田さん、というよりも企業や研究機関にとって、という趣旨)。
<太田>
 私自身がどれほどお役に立てるかどうかともかく、現在も引き続き日本が鎖国状態にあるため、日本人の大部分は、国際問題に真の意味での関心がない、ということではないでしょうか。
 前回鎖国していた江戸時代の日本人の方が、(少なくともエリートの間では)もっと国際問題に関心があったように私は思います。
 当時は、今と違って日本は「独立」していましたからね。
 と書いてから、「就活で<採用側は>PCスキルはペケ、国際情勢に好印象」という記事
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/100616/biz1006161824022-n1.htm
を見て、オヨヨ。
 でも、記事の中身を読んだら、どうやら経済事情のことのようなので一安心(?!)。
<太田>(ツイッターより)
(コラム#4073に関し、)なぜ戦前の日本の場合は民主主義が経済発展を妨げなかったのに対し、インドの場合は妨げているのか、キミはどう思うね?
<bonkers_blunder>(同上)
 米百俵の精神なんて言ってたバカ宰相がいましたが、米国に依存して独立もできない属国人にインドをどうこういう資格などなさそうですorz
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%B3%E7%99%BE%E4%BF%B5
<hrsh1>(同上)
国民精神の一元化ができなかったから?
<太田>
 インドの場合、かつての英国や日本のように、参政権を国民の教育度、成熟度に応じて漸進的に拡大していくというオプションがとれなかったことによる悲劇でしょうね。
 それでは、記事の紹介です。
 パキスタン唯一のノーベル賞受賞者はアハマディー(カディアニー)(コラム#4037、4067)だったんだね。↓
 ・・・Dr Abdus Salam Khan won the Nobel Prize for physics and, as a proud Pakistani, accepted his award in national dress.
 But he was an Ahmadi so there is no monument to celebrate him, no universities named after him.
 The word “Muslim” on his gravestone has been erased. Even the town he is buried in has been renamed in an attempt to erase our collective memory. ・・・
http://news.bbc.co.uk/2/hi/programmes/from_our_own_correspondent/8744092.stm
 メキシコの麻薬戦争は一層エスカレートしている。↓
 ・・・ More than 23,000 people have died in drug-related violence since December 2006, when Calder���n first sent the Mexican military into the streets, according to a government report. ・・・
 Experts estimate that $10 billion to $25 billion in drug profits flow to Mexico each year from the north. About 90 percent of the cocaine consumed in the United States passes through Mexico, which also smuggles at least half of the marijuana and methamphetamine sold in U.S. cities. Meanwhile, many of the weapons the cartels use, including grenades and military-style assault rifles, are smuggled into Mexico from the United States. ・・・
 It is a battle that is supported by the Obama administration and Congress, which has dedicated $1.3 billion in aid to train police, reform the courts, and supply drug-sniffing dogs, armored cars, night-vision goggles and Black Hawk military helicopters. ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/15/AR2010061503174_pf.html
 サッカーの本質と、どうして米国では人気がないか、が述べられている。↓
 ・・・We in this country prefer pastimes that are rational and quantifiable. Football plays can be drawn up in a playbook and baseball lends itself to statistical analysis.
 Americans prefer pastimes that are rational; the rest of the world rewards resilience and neuroticism.
 But the rest of the world follows a sport that rewards resilience and neuroticism. Soccer is a sport perfectly designed to reinforce a tragic view of the universe, because basically it is a long series of frustrations leading up to near certain heartbreak. ・・・
 ・・・it’s also a game that teaches you that life is unfair. Because goals are so scarce, it is possible for a team to be outplayed for 89 minutes and yet still score one fluke goal and win the game. Superior performance often does not translate into victory. ・・・
http://opinionator.blogs.nytimes.com/2010/06/16/a-world-cup-mentality/?pagemode=print
 対ヒズボラ戦の時のロイターの写真改変を以前とりあげたことがあると思うが、今回のイスラエルがらみの海上の事件でも懲りずにやってたようだ。
 なお、この記事にイスラエル軍兵士がボコボコにされている問題の写真も載ってるよ。↓
 ・・・Jerusalem was all the angrier when the Reuters news agency manipulated the photos before it passed them on to its clients, newspapers and television stations around the world. On one photo showing an Israeli photo lying on the floor, Reuters cropped out the hand of one pro-Palestinian activist holding a knife, and on another photo a pool of blood was missing.
 The agency has been accused before of editing photos in Israel’s disfavor. During the 2006 Lebanon war, a Reuters photographer added darkened smoke in a picture of Beirut, which made an Israeli air raid look far more dramatic. Reuters said the most recent image crops were a mistake. But Israeli Prime Minister Benjamin Netanyahu said they were further evidence of the “prejudice” of the international community.・・・
http://www.spiegel.de/international/world/0,1518,700992,00.html
 欧米諸国のイスラエル白眼視に加えて、トルコの「変節」↓とくると、イスラエルに同情を禁じ得ない。
 ・・・ it is very troubling when Erdogan decries Israelis as killers and, at the same time, warmly receives in Ankara Sudan’s president, Omar Hassan al-Bashir, who has been indicted by the International Criminal Court on charges of war crimes and crimes against humanity for his role in the bloodshed in Darfur, and while politely hosting Iran’s president, Mahmoud Ahmadinejad, whose government killed and jailed thousands of Iranians demanding that their votes be counted. Erdogan defended his reception of Bashir by saying: “It’s not possible for a Muslim to commit genocide.” ・・・
http://www.nytimes.com/2010/06/16/opinion/16friedman.html?ref=opinion&pagewanted=print
 ベイナートの本(コラム#4058、4060、4066、4069)の書評がまたまた出てたよ。
 この書評子、後一声、ローズベルトとレーガン、とりわけローズベルト批判を徹底させて欲しかったな。↓
 ・・・it seems Beinart is still confused about the direction the US should take. He says towards the end that, “What America needs today is a jubilant undertaker, someone like Franklin Roosevelt and Ronald Reagan who can bury the hubris of the past while convincing Americans that we are witnessing a wedding, not a funeral.”
 This is a curious statement coming after chapters about America’s vast overreach in the Middle East. For it was Roosevelt who midwifed America’s rise to dominance and Reagan who rewrote the Vietnam War as a “noble cause.” They were both successful presidents in terms of their foreign policy, yes, but they both also inflated America’s hubris in the process. ・・・
http://www.csmonitor.com/Books/Book-Reviews/2010/0616/The-Icarus-Syndrome 
 米国の移民排斥の歴史が簡潔に記述されている記事。
 我々として忘れてはならないのは、その中での、対支那人/日本人差別の異常な長さであり執拗さだ。↓
 ・・・the noble Saxon forbid the German, and the German forbid the Irish, and the Irish forbid the Italian, and the Italian forbid the Jew, and the Jew forbid the Chinese, and the Chinese forbid the Mexican, and the Mexican forbid the Muslim.
 We were a great melting pot. From forbidden to forbidder, it took but a generation or two.・・・
 For a good part of a century, the Chinese and Japanese – “mongrels” who would never blend in – played the role of whipping boy.・・・
http://www.latimes.com/entertainment/news/la-ca-peter-schrag-20100613,0,1897149.story
 読んで字の如し。
 太っていいことは何もなさそうだね。↓
 ・・・obesity can harm not only health and longevity, but your sex life・・・
http://latimesblogs.latimes.com/booster_shots/2010/06/obesity-and-sex.html
 本日90歳を迎える原節子へのオマージュ記事を載せたガーディアンに栄えあれ。↓
http://www.guardian.co.uk/film/filmblog/2010/jun/16/setsuko-hara-birthday-tokyo-story
 ひょっとして彼女を知らない読者のために。↓
http://hinemosuroko.blog70.fc2.com/blog-entry-72.html
<US:翻訳>
≫大変結構です。9ポイントです。≪(コラム#4071。太田)
 恐縮です。ありがとうございます。
 次はもう少し長いものに挑戦します。
 経済動向に関する海外コラムは、仕事にも役立つと思うので、そういうものを中心にトライしていきたいと思います。
 なお、今回、and half the moralizing のところ、おまけしていただきありがとうございました。
 以下は言い訳です。
 筆者は、前文の Lecture に相対するものとして、この Moralizing を使ったと考えました。
 つまり、ワシントンで受ける Lecture に比し、もっと少ない量の Moralizing で2倍のお金を得られるようになったという修辞の一種と感じました。
 <だから、「今や、彼らは北京で、半分程度の道徳観で2倍のマネーを得ることができるようになったのだ。」と訳したのです。>
 しかし、道徳的説教というものを半分といえども、(中国人でなくても)ビジネスにおいて行なわないという点、また、中国のやり方が拝金主義でそれに対する嫌悪感を滲ませている論調なので、この、Moralizing は、中国の影響で“彼ら”側の道徳観が半減したことを嘆いての修辞と解釈し、このような訳となりました。
 日本人は、“道徳”という言葉を使って遊ぶことはないので、Moralizing を重く受け止めすぎたのかもしれません。
 太田さんの訳<・・「今や、彼らは北京で、半分程度の道徳的お説教を受けるだけで2倍のマネーを得ることができるようになったのだ。」・・>を読んだとき、そんな重い話ではなく、単に、アメリカ人(たぶん)たる筆者は Lecture に対する東洋的雰囲気を持つ用語として Moralizing を述べたに過ぎないのかもしれないと感じました。
<太田>(ツイッターより)
 ・・・翻訳では英語力だけでなく、日本語力も問われる。また、そもそも、翻訳する分野についての深い知識が求められる。
 ホントに翻訳って大変なんよ。
<Fuku:翻訳>
 まったくですね。それだけにとてもやりがいがありますが、かなり頭が疲れます。
コラム#4069より。
 最近の米国での選挙事情から浮き彫りになってきたのは、保守的女性の政界進出とインド系の政界進出傾向だ。↓
 ・・・アメリカ人女性の48%は自身を妊娠中絶反対派と考えており、対して45%が自身を賛成派と考えている。
 何百万人もの反対派女性のうち、議会にいるのはたった13人である。上院には1人もいない。・・・
 まもなくサラ・ペイリンに何人か仲間ができそうだ。今週、2人の反対派女性が共和党上院議員候補としての公認を獲得した。保守派ティーパーティのお気に入り、シャロン・アングルと、ヒューレット・パッカードの元最高経営責任者、カーリー・フィオリーナはそれぞれ、ネヴァダ州とカリフォルニア州から連邦上院議員選に出馬する意向だ。
 3人目の反対派女性、スザンナ・マルティネスはニューメキシコ州知事の共和党候補の指名を獲得した。サウス・カロライナ州議員である4人目のニッキ・ヘイリーは、同州知事候補に指名される見込みだ。
 火曜日の予備選以降、共和党の女性候補者に対する支持について多くのことが言われている。しかしまた別のグループも躍進している。インド系アメリカ人である。・・・
 ・・・彼女が秋の選挙で勝利し、ルイジアナ州知事のボビー・ジンダル(共和党)に続いて2人目のインド系知事になる見込みは十分にある。
 キルギスタンで新たに発生した内紛の背景について、今度はガーディアンでどうぞ。↓
 キルギス南部でのバキエフびいきの運動はまもなく暴力的な民族対立へと変わってしまった。ウズベク人の大半は新しい暫定政府指導部を支持している。政府に力がない中で、長く沸騰寸前だった民族間の緊張は犯罪を伴った対立にあおられて爆発したようだ。・・・
 オシュとジャララバードがある肥沃なフェルガナ盆地はかつては一人の封建領主のもとにあったが、ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンによってウズベキスタン、キルギス、タジキスタンに分割された。彼による国境線は古くからの抗争を再燃させ、民族間の緊張を助長した。
 1990年オシュで、キルギス人とウズベク人の間での土地をめぐった暴力的な抗争の中で数百人が命を落とした。そのときはソ連軍のすばやい配備によってのみ抗争を鎮圧することができた。ロシア軍の派遣が期待できない中で、暫定政府は土曜の夜遅く、50歳以下の予備役兵を一部動員することを発表した。
コラム#4071より。
 キルギスタンでの内紛の背景説明の第三弾。日を改めるごとに、記事の質が高くなってきている。
 要するに人類の太古からの対立図式、遊牧民(キルギス人)対定着民(ウズベク人)の争いってことのようだ。↓
 
 ・・・キルギスタン南部は経済に活気がない地域で、平均年収は全国平均2150ドルの半分以下である。オシュのウズベク人は隣人のキルギス人よりもかなり豊かで、彼らは不道徳な商慣習によってそうなったのだ、という認識がある。・・・
 20世紀までキルギス人は、景色の中にそびえたつ天山山脈で狩猟と群居をする遊牧民だった(キルギスの平均海抜は9000フィート以上である)。ウズベク人は対照的に、何世紀もの間農耕民であり商人だった。
 1876年から1991年までのロシアによる支配の時代に多くのことが変わった。たくさんのキルギス人が伝統的な生活方法を捨て非熟練の都市労働者や移民労働者になった。現在多くが遠くモスクワで働いており、ロシアを本拠地にした労働者からの送金は国民所得の40%を占める。オシュに来た人々のうち多くがウズベク民族のために働いている。というのは、ウズベク人は地域の仕事のうち不釣合いに多くを得ているようだからだ。・・・
 キルギス人は表現型的により東アジア人に似ており、対してウズベク人はロシア人やイラン人に似る傾向がある。・・・
 ウズベキスタンはキルギスタンよりずっと抑圧的で困窮した国家になった・・・
 ウズベク人とキルギス人の間の民族的相違は区別できないほどわずかである、とクーリー教授や他の人は言う。どちらも大部分はムスリムで互いに理解できるトルコ系言語を話す。・・・
 ウズベク人はキルギスタンの人口のうち15%ほどだが南部では人口のうちかなり大部分を構成しており、キルギス第二の大都市オシュでは住人の約半数を占めていた・・・ 
 *言い忘れてました。
 コラム#4071では、Slateの記事
http://www.slate.com/id/2256919/pagenum/all/#p2
からの抜粋は、”The Uzbeks are phenotypically more similar to East Asians, while Kyrgyz tend to look more like Russians or Persians.”となっていましたが、<私がこの記事を読んだ際に>は”Kyrgyz are phenotypically more similar to East Asians, while Uzbeks tend to look more like Russians or Persians.”と、UzbeksとKyrgyzが逆になっていました。
 太田さんが引用した後に訂正されたようです(”Corrections, June 15, 2010: The original stated that Uzbeks appear East Asian, while Kyrgyz look Russian or Persian. In fact, it is the opposite.”)。
<太田>
 やっぱそうでしたか。
 どうもおかしいと思ってました。
 今回、大量に訳していただきましたが、おおむね大変結構でした。
 15+12+24=51 で51ポイントですね。
 もう100ポイント超えてません?
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太田述正コラム#4076(2010.6.17)
<悪について(その2)>
→非公開