太田述正コラム#4095(2010.6.27)
<皆さんとディスカッション(続x875)>
<BERNIE>
 昨日の講演(オフ)会参加者は、太田さんを除き、14名でした。(うち一人はskype参加)
 一次会13名(うち一名はskype参加)
 二次会8名
 三次会6名
<Fat Tail>
–アフガニスタン、マクリスタル大将関連記事–
 “The Economist”に、アフガニスタン関連で3本も記事が出ていました。
1.“Kicking the general’s ass”
http://www.economist.com/node/16430283
 2011年7月という撤退開始予定の設定は、当然2012年の次期大統領選ということとも無縁ではないのでしょうか。
 The great review last autumn produced a plan that both ramped up the war in a hurry and, with an eye on the 2012 election, set a date of July 2011 to begin to wind it down as well. The aim was to give the generals a chance to make progress and himself a chance to extract the forces if the generals failed.
 それにしても、ベトナムの前例があるので、仮に優勢に事が運んでも、不人気な戦争を継続することができるのか、不確実性は払しょくされません。
 It is ingenious?far more so than the refusal of Mr Bush to believe the experts who told him the Iraq war was lost. But winning a war can require a single-minded will as well as a subtle brain. Mr Obama has the latter; whether he has the stubbornness to stick to an unpopular war remains to be seen.
2.“After McChrystal”
http://www.economist.com/node/16432784?story_id=16432784&source=features_box2
 1/3以上の住民がthe insurgentsに対し同情的又は支持しているというのは、驚きです。
 A survey in 120 districts racked by insurgency, a third of Afghanistan’s total, found little popular support for Mr Karzai. Over a third of their inhabitants backed the insurgents.
 が、パキスタン人も含め、いずれNATO軍が撤退すると考えていることからして、無理ないことなのでしょうか。
 Too few Afghans and Pakistanis have thrown in their lot with the West, because too many think America has no stomach for the fight.
3.“More than a one-man problem”
http://www.economist.com/node/16425992
 撤退開始予定日までに、アフガニスタンが変革される可能性は低く、勝負はそれまでにタリバンを弱体化させて交渉のテーブルに着かせることができるか。
 There is almost no chance that Afghanistan will be transformed by the time of Mr Obama’s deadline. The insurgency is too robust. The government is too weak. Too much time has been lost. According to a senior NATO official, it takes on average 13 years to win a counter-insurgency campaign; and this campaign is, in effect, in year two.
 Counter-insurgencyの遂行完了には平均13年かかる、という上記の話もあるぐらいなので、NATO加盟国、特にアメリカの世論が今後耐えられるか、ということも留意すべき点。
 The situation is grim. To stand even a moderate chance of success, General McChrystal’s counter-insurgency strategy would require more time than American and European governments are prepared to give it. Instead, NATO countries, perhaps including a reluctant America, are increasingly concluding that there will have to be a negotiated end to the war. But the Taliban are in no rush to talk. Their position is strong. Perhaps the best that can be hoped for NATO’s current operations is to weaken the militants sufficiently to bring them to the table. That near-impossible task now falls to the impressive, persistent, but human General Petraeus.
<太田>
 米国での最近の世論調査の結果は、まさに反戦感情が危険水域に入ったことを示している、という論調の記事も確かにあります。↓
http://www.csmonitor.com/USA/Politics/2010/0626/Quagmire-Nine-years-on-Americans-grow-weary-of-war-in-Afghanistan
 しかし、徴兵制を廃止した結果、米国の世論は、どれだけ長くても戦争に耐えられるようになった、という説も有力です。
 私は、財政上の制約、ひいては米国の経済上の制約を考慮しなければ、という条件を付した上での話ですが、この説に同感です。
 つまり、このところ私が論じてきた話にからめて申し上げれば、文民統制(civilian control)概念が復活しつつあるような米国においては、米国の世論・・その大部分は文民(civilian)は、基本的に、どれだけ長くても戦争に耐えられるようになったのではないか、と思うのです。↓
 ・・・A democracy cannot fight a Seven Years War,” Gen. George C. Marshall once remarked.・・・
 The wisdom of Marshall’s axiom soon became clear. In Vietnam, Lyndon B. Johnson plunged the United States into what became its Seven Years War. The citizen army that was sent to Southeast Asia fought valiantly for a time and then fell to pieces. As the conflict dragged on, Americans in large numbers turned against the war — and also against the troops who fought it.
 After Vietnam, the United States abandoned its citizen army tradition, oblivious to the consequences. In its place, it opted for what the Founders once called a “standing army” — a force consisting of long-serving career professionals.
For a time, the creation of this so-called all-volunteer force, only tenuously linked to American society, appeared to be a master stroke. ・・・
  The result, once the Cold War ended, was greater willingness to intervene abroad.・・・
 To be an American soldier today is to serve a people who find nothing amiss(不都合) in the prospect of armed conflict without end. Once begun, wars continue, persisting regardless of whether they receive public support. ・・・
 Throughout history, circumstances such as these have bred praetorianism(力や偽計による社会の支配)
http://dictionary.infoplease.com/praetorianism (太田)
, warriors becoming enamored with their moral superiority and impatient with the failings of those they are charged to defend. The smug disdain for high-ranking civilians casually expressed by McChrystal and his chief lieutenants — along with the conviction that “Team America,” as these officers style themselves, was bravely holding out against a sea of stupidity and corruption — suggests that the officer corps of the United States is not immune to this affliction(悩みの種). ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/25/AR2010062502160_pf.html
<Fat Tail>
 ところで、今回のマクリスタルを頸にした件で、”COIN<(=Counter Insurgency=対叛乱戦法)>”に懐疑的な人間は軍出身者にも少なくない、ということを再認識。特に目立ったのが、ブッシュ政権下でColin Powellのchief of staffだった、Lawrence Wilkerson。
http://en.wikipedia.org/wiki/Lawrence_Wilkerson
 (03年、個人的忠誠の対象であったパウエルにthe United Nations Security Councilで悪名高きプレゼンをさせたこと等も手伝い、その後ブッシュ政権、特にDick CheneyとDonald Rumsfeldの批判の急先鋒となり、メディアに引っ張りだこだった。)
 下記のインタビューでは、counter-insurgencyを”bullshit”と切り捨てています(4:45~5:30)。パウエルとの関係から推測するに、パウエルも”COIN”には、批判的ではないのか、と思った次第です。
http://www.youtube.com/watch?v=hZ2sr7hs5wc&playnext_from=TL&videos=VUavHnMX7hI
<太田>
 パウエルについては判断を保留しますが、おおむね、おっしゃるとおりだと思います。
 現在の駐アフガニスタン米大使までペトラユース/マクリスタル流”COIN”懐疑論者のようですよ。↓
 ・・・the top U.S. diplomat <in Afghanistan> is Karl W. Eikenberry, who relentlessly opposed McChrystal’s initiatives. ・・・Eikenberry has no strong base in the State Department and is not steeped in the history and culture of the region. Rather, he is a retired general who in fighting with McChrystal over the past year used many of the same arguments that another American commander, John Abizaid, had used in opposing Petraeus’s approach to Iraq. That is no coincidence — Abizaid and Eikenberry have been close friends since they were West Point roommates in the class of 1973. ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/24/AR2010062402982_pf.html
 要するに、「統制」される側の米軍人達の大部分が、短中期的に自分達の死傷率を高めるところの、ペトラユース/マクリスタル流”COIN” に強い違和感を覚えていて、このことにマクリスタルとその取り巻きの間でフラストレーションがたまっており、それが、彼等によって、(自分達の苦労を分かっていない)「文民」達への悪口雑言となって噴出したのですな。
 ただし、あえて更に茶々を入れれば、マクリスタルが果たして、ペトラユース/マクリスタル流”COIN”の実践者であったかどうかには大きな疑問符がつきますがね・・。↓
  ・・・The McChrystal cadre’s utter distaste for its civilian colleagues on the war team was an ipso facto death sentence for the general’s signature counterinsurgency strategy. You can’t engage in nation building without civilian partnership. ・・・”<McChrystal, >the guy who was promoting and leading the counterinsurgency strategy has shown by his actions that even he doesn’t believe in it.” ・・・
http://www.nytimes.com/2010/06/27/opinion/27rich.html?ref=opinion&pagewanted=print
 更にもっと大きな根本的な問題があります。
 そもそも、イラクと違って、アフガニスタンには、在来流戦法はもとより、ペトラユース/マクリスタル流”COIN”もまた、通用しないのではないか、という疑問です。
 すなわち、アフガニスタン人の大部分が、叛乱者(タリバン等)と戦うことなど欲していない↓
 ・・・the overwhelming majority of the <Afghan> civilian population opposes a military offensive and instead wants a negotiated settlement with the Taliban. ・・
ことから、
 ・・・U.S. allies ? from European NATO members to Pakistan and Karzai ? are skeptical and are pressing for negotiations with the leadership of the Taliban now rather than waiting for a protracted military campaign to turn the tide. Even the Obama Administration allowed only 18 months for the strategy to produce results, in recognition of the declining domestic popularity of what is now America’s longest war. ・・・
http://www.time.com/time/nation/article/0,8599,1999511,00.html
 
という有様↑なのですからね。
 マクリスタルの後任を引き受けた・・引き受けざるをえなかった・・ペトラユースの悲壮な心中が察せられます。
 以上の話、Fat Tailさんは理解してくれたと思うけど、理解できなかった読者・・英文を読まない、ないしは読めない読者に多いのではないかと思われる・・は、遠慮なく質問してね。
<TA>
 「私の考えはいかに形成されてきたか」(コラム#4051、4093)に対してですが、太
田さんはこのコラムについて、
「折に触れて既にコラム等で語った話が大部分ですけど、まとめてお話をすることも一興かと思った次第です。」(コラム#4051)
と述べておられますが、果たして「一興」で終わらせて良いものでしょうか。
 このコラムは太田さんという人間を端的(と言うほど短くもありませんが)に説明す
るに、実にふさわしいものに私は思うのです。
 太田さんに対して、多くの人は「元官僚」というレッテル(先入観)で評価しがちな
ように思います。裏芸(防衛省不祥事の告発)の活動においては、
 それでもマイナスにはならないのかも知れませんが、表芸(比較政治学・安全保障)を主張するときに関しては、このレッテルは明らかにマイナスになるように思うのです。
 官僚あるいは元官僚という言葉で、多くの人は「学校のお勉強が出来るだけの、硬直的で融通の利かない、詭弁を弄して他者を見下す、一般的感覚とはズレている卑劣漢」というイメージを持っているようです(典拠なし)。
 失礼ながら、すくなくとも「たかじんのそこまで言って委員会」
http://www.ohtan.net/video/takajin20071028.html
を観た者のいくらかは、太田さんをそういった目で見たのではないでしょうか。
 太田さんがそういったイメージとは真逆と言っても良いぐらいの人間であることは、間違いないでしょう。
 一般的な官僚の経歴に関しては全く知りませんが、そのことを端的に、経歴を通して、分かりやすく説明するのに、この「私の考えはいかに形成されてきたか」のコラムは、非常に有効なものに思えるのです。
 誤った先入観が、太田コラムの説得力を低下させている可能性は、考察しても良いの
ではないでしょうか。
 次著の冒頭において、このコラムに近いことを載せることも良いと思いますし、ホー
ムページのトップに掲載することも良いと思います。
 また、太田さんの国際感覚を端的に説明するものとして、これまで太田さんが行った
ことのある国を列挙しても、面白いのではないかと思います。
 どうかご検討下さい。
<太田>
>これまで太田さんが行ったことのある国を列挙しても、面白いのではないか
 既にHPでなされています。↓
http://www.ohtan.net/keireki/overseas.html
 この点以外についてですが、おっしゃるようにしたいと思います。
<TA>
 ところで、まったく関係のないどうでもいい質問なのですが、もしかして講演会の会
費(一次会:500円)を、講師の太田さんも払っていたりします?
<太田>
 私は、一次会であろうと何次会であろうと、会費を皆さん同様負担してきました。
 それは、私が、オフ会は、インターアクティブに、相互に学びあい啓発する場であると考えており、私自身も裨益している、と認識しているからであり、当然のことです。
<伝記.com>
 「チャーチルの第二次世界大戦」の「その1」から「その3」まで<(コラム#3509、3511、3513)>、一気に読ませて頂きました。
 マックス・ヘースティングスは、チャーチルを「偉大」とみなしているようですが、そうした評価には、たしかに再検討が必要でしょう。
 「その1」では、チャーチルが犯した「小さな失敗」が取り上げられています。
 「シェルブール」「ドデカネス諸島」「ディエップ強襲」などでの失敗です。
 しかしながら、チャーチルの最大の問題は、「その3」で取り上げられている「大きな失敗」でしょう。
 「第二次世界大戦は、「正義の戦争」だった」とか、あるいは「「米英ソ」という「民主主義連合」が、悪のファシズム諸国を打倒した」といった、「英米史観」が歴史を支配する限り、「偉大な戦争指導者チャーチル」という評価に、修正が加えられることは、難しいと感じました。
<太田>
 部分的には、英国でも米国でも、ご指摘のような修正主義的史観的なものを提起する動きは少なくありません。
 しかし、ご指摘に係る包括的な修正主義的史観を提起できるのは、日本人しかおらず、また、日本人にはそれを行う義務があると思います。
 私自身、向こう見ずにもそれをやろうとしているわけですが、私は歴史のアマチュアに過ぎず、いずれにせよ、能力的に限界があります。
 ですから、私としては、かかる修正主義的史観を持った本格的な日本の近代史家が輩出することを願ってやみません。
 それでは、その他の記事の紹介です。
 少なくとも、イスラム原理主義化、すなわち女性差別の法制化が、イランにおいては、女性一般の地位向上をもたらした、という逆説的オハナシ。↓
 ・・・After Iran’s 1979 Islamic revolution, women were barred from working as judges or attending soccer matches, forced to wear hijab, and declared unequal to men in the realms of inheritance, testimony and divorce — all under the pretext of hewing to Islamic tenets.
 But something interesting happened on the way back from the revolution・・・.” As Iran’s mullahs tightened control, women from conservative religious families who had never had a voice began to ride the very Islamic wave that seemed to be rising against them. Those who had been active in the revolution now elbowed their way into political and civil society, and universities were soon packed with women. Though it did so unintentionally, “the Islamic takeover made formal girls’ schooling acceptable to even the most conservative families,” Coleman writes. “Now that society was Islamized — with girls wearing hijab and schools and many public places segregated — how could a father say no?”
 As fathers began to say yes, Iran’s male-dominated leadership was busy isolating iteself from the international community. But Iranian women were connecting with the outside world: Their One Million Signatures campaign against discriminatory laws drew global recognition; the human rights lawyer Shirin Ebadi won the Nobel Peace Prize; and one year ago last week, when Iranians took to the streets to protest suspicious election results, the symbol of the Iranian resistance became Neda Agha-Soltan, the young woman whose death was broadcast on YouTube. ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/25/AR2010062502162_pf.html
<Fuku:翻訳>
コラム#4089より。
 アフリカ経済が大変好調だという記事が出てました。↓
 ・・・2000年以来、アフリカ大陸では3億1600万人の人々が携帯電話サービスの契約をした。これは米国の総人口を超える数である。また、アフリカに住む10億人の人々が2008年に消費した8600億ドルは、インドの12億人の消費より多い。
 2000年から2008年まで、アフリカの経済は1980年代、1990年代の2倍の速度で成長した。さらに、アフリカは2009年の世界的不況の中でも地域全体として経済が成長したただ2つの地域のうちの1つ(もう1つはアジアである)で、その成長率は1.4%だった。
 アフリカ経済が新たな方向へ向かっている確かな兆候が見える中で、中国は近年、道路、電力、鉄道やその他のインフラのために世界銀行より多くの資金を提供している。
 また、報告書によると、アフリカの秩序安定の兆しの中で、年間死者数が1000人以上の深刻な紛争の数は、1990年代には年平均で4.8だったのが2000年代には2.6に減ったという。・・・
 マッキンゼー・アンド・カンパニーは、アフリカの経済拡大は、物価の上昇、暴力的な紛争の減少に助けられた政治的安定、マクロ経済パフォーマンスの向上、そして市場友好的な経済改革の結果だとする。
 アフリカ全土の物価上昇率は1990年代に22%だったのが2000年以降8%に低下した。財政赤字はGDP比4.6%から1.8%に減少した。民間部門が台頭し、外国からの直接投資は2000年の90億ドルから2008年の620億ドルに急上昇した。・・・
 エリザベス女王が、英国王として、初めて独立アイルランドを訪問します。
 日本の天皇の韓国訪問がまだなのは当たり前か? いや、英国のアイルランド統治を地獄だとすれば、日本の朝鮮半島統治は天国でした。
 だから、天皇はずっと以前に韓国を訪問していても不思議ではないのですがね。↓
 ・・・エリザベス女王は、来年末までにアイルランド独立後初めての歴史的な訪問を行う予定だ。アイルランドを訪れた最後の君主はジョージ5世で、彼は同国がまだイギリス(グレート・ブリテンおよびアイルランド連合王国)の一部だった1911年、アイルランド自治運動による危機の時代にダブリンを訪問した。・・・
<太田>
 最初の方ですが、’Foreign direct investment’ は、「対外直接投資」→「外国からの直接投資」に直しました。
 よって、21-10+4=15で、15ポイントですね。
————————————————————–
太田述正コラム#4096(2010.6.27)
<米帝国主義マークIIの構築者(その3)>
→非公開