太田述正コラム#4042(2010.5.31)
<中共の政治体制>(2010.7.1公開)
1 始めに
 5月の初めに「中共の「資本主義」」シリーズ(コラム#3994、3996、3998、4000)をお送りしました。
 今回は、表記をお送りすることとし、明日からは、経済体制と政治体制とを総合的に見た、「中共の現体制」シリーズをお送りする予定です。
 
 今回、素材として用いるのは、一度コラム#4911で取り上げたことがある本である、リチャード・マクレガー(Richard McGregor)の ‘The Party: The Secret World of China’s Communist Rulers’ です。
 この本の発売日(6月8日)が近づいてきたので、いくつか新たな書評が出てきていることもあり、ご紹介に値すると考えた次第です。
A:http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704250104575238590027868792.html
(5月16日アクセス)
B:http://www.ft.com/cms/s/2/e24caaec-69e4-11df-a978-00144feab49a.html
(5月29日アクセス)
C:http://www.historybookclub.com/pages/nm/product/productDetail.jsp?skuId=1065043145
(5月31日アクセス)
 なお、マクレガーは、英ファイナンシャルタイムスの元北京特派員です。
2 中共の政治体制
 「・・・<中共で>赤い電話機が設置されたということは、自分が、ただ単にその会社のトップになったというだけでなく、党と政府の上級ランクの人間になったということの印なのだ。
 この電話は、究極的なステータス・シンボルなのだ。
 というのは、それは、党と政府の命令によってのみ、各省次官以上のランクの仕事に就いている人に与えられるものだからだ。
 この電話には秘話装置がついている。
 その目的は、党と政府の通信を外国の諜報機関から守るためだけではない。
 党の統治システムの外にいるいかなる人物による詮索からも、この電話<による通信>を守ろうとしているのだ。
 赤電話を持っているということは、自分が、中共を運営しているところの、主として男性からなる約300人の人々の小集団である、固く結ばれたクラブの一員としての資格がある、ということを意味するのだ。・・・」(A)
 「・・・中共の役人のうちのふざけた連中は、教義上の事柄についての無謬性、重要なすべてのポストへの任命についての総括的なコントロールといった点で、自分の国の共産党を、カトリック教会や、少なくとも法王庁になぞらえることで知られている。・・・
 ・・・1997年より後の急速な経済成長の10年間で、労働者の賃金の国民所得に占める割合は、53%から、GDPのわずか40%へと劇的に減少した。・・・ 
 現在、党の中枢で、少なくとも一つのイデオロギー的な議論が行われているように見える。
 強硬派(hardliner)は、党がこれ以上経済へのコントロールを放棄すれば、早かれ遅かれ、国家に対するコントロールを失うだろうと主張している。
 <これに対し、>改革派は、党が経済に対するコントロールをもっと減らさない限り、経済は大して速く成長せず、そうなると党は間違いなく国家のコントロールを失うことになるだろうと答える。
 中共のジレンマは、このどちらの側の主張も間違いなく正しいことだ。・・・
 2009年央時点で、共産党の党員数は7,600万人であり、これは中共の成人12人に1人の割合に等しい。・・・」(B)
 「・・・中国共産党は、もはや、いかなる意味においても、マルクス主義<の党>でも「共産主義」<の党>でもない。
 しかし、極めて断固として、いまだにレーニン主義<(=「一党独裁」の意味か(太田)の党>だ。
 そして、同党は、専制的な国家において、権力のてこ(lever)をどのように維持し続けるかを非常によく理解している。・・・
 ・・・同党の内なる聖域(sanctum)が中央組織局(Central Organization Department)<だ。>
 大部分の人はそれが存在していることすら知らない。
 それは、北京の何の印もない建物の中で活動しており、その電話番号は登録されておらず、その上級幹部は名刺を持っていないけれど、承認、却下、そして、中共におけるあらゆる組織体の上級職位への任命について、権力を持っている。
 党と政府組織だけでなく、国有産業、宗教組織(中央組織局は、中共のカトリックの司教や仏教の大修道院長を任命する)、そして表面上は私的な企業<に係る任命>に関してすら<権力を持っているの>だ。
 しかも、大規模なすべての組織は党書記を持っており、彼等は、名目上責任を負っている人々の決定を拒否する権限を有しているのだ。
 マクレガーは、2008年の<北京>オリンピック直前の数ヶ月に明るみに出た三鹿集団(Sanlu Dairies)の汚染牛乳醜聞について、党当局が一切の言及を禁止したという、気絶させるような例をあげる。
 この意図的な対応の遅延の結果、何千もの中共の子供達が不必要に汚染牛乳に晒された。
 そして、彼等の中の幾ばくかは、生涯にわたる障害を負う結果となった。・・・
 ・・・無視することができないところの、党による「司法的指導」<などというものが行われているため、>自分達に対する捜査を承認する権限を持っている党官僚の間で(捜査などさせるわけがないことから)腐敗が蔓延っているし、弁護士は政治的に微妙な事件を引き受けることを警告され妨げられ、インターネットは検閲されるが、これらはほんの一端に過ぎない。・・・」(C)
3 終わりに
 中共は、北朝鮮の金王朝のそれとは比較にならないくらい洗練された、究極の民主主義独裁ですね。