太田述正コラム#4044(2010.6.1)
<中共の現体制(その1)>(2010.7.2公開)
1 始めに
 最初に、ステファン・ハルパー(Stefan Halper)の ‘THE BEIJING CONSENSUS: How China’s Authoritarian Model Will Dominate the Twenty-First Century’ を取り上げます。
A:http://www.atimes.com/atimes/China/LC27Ad01.html
(5月31日アクセス。以下同じ)
B:http://www.timeshighereducation.co.uk/story.asp?storycode=411291
C:http://www.foreignaffairs.com/articles/66379/stefan-halper/the-beijing-consensus-how-chinas-authoritarian-model-will-domina
D:http://www.ft.com/cms/s/2/d9bb004c-4e62-11df-b48d-00144feab49a.html
(以前に一度使ったことがある記事↑なのだが、どこで使ったか検索できなかった)
E:http://www.economist.com/world/asia/PrinterFriendly.cfm?story_id=16059990
F:http://spectator.org/archives/2010/05/04/china-and-us/print
G:http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/05/28/AR2010052801859_pf.html
 なお、ハルパーは、ケンブリッジ大学のシニア・リサーチ・フェローであり、かつてニクソン、フォード、レーガン政権のスタッフであった人物です。(D、G)
2 ハルパーの本の概要
 お気づきのようにこの本の書評は数多いのですが、めずらしいことに(?!)、アジアタイムスに掲載された書評が、詳細さといいできといい傑出しているので、まず、この書評をざっとなぞってみましょう。
 「・・・『北京コンセンサス』は、ステファン・ハルパーが最初書こうとしたものではない。
 彼は、中共の消費階級が共産党に挑戦しつつあり、この国を民主主義に向けてそっと押しつつある、と主張するつもりだったのだ。
 こういった議論ならば、欧米の読者は一安心できたことだろう。
 しかし、「もともと<意図していた>議論は、初稿でボツにせざるをえなかった」と彼は記す。
 このケンブリッジ大学の政治学者が最終的に書き上げたものは、一安心させないこと夥しい代物だったのだ。
 ハルパーが中共を懸命に観察すればするほど、政権党<、すなわち共産党>は持ちこたえるであろうという確信が深まった。
 それに加えて、中共は、欧米、とりわけ米国の理念(ideas)や価値の世界支配に対する次第に高まる脅威・・必ずしも米国の軍事的かつ経済的な力に対するものではない・・<である、と彼には思えてきたのだ。>
 北京からのこの戦略的挑戦に対抗しなければ、「米国は、この3世紀にわたる欧米の進歩を導いたところの、民主主義的諸価値や諸原則に同情的ではない世界のただ中にうち残されることになろう」と彼は警告する。・・・
 自由市場イデオロギーは、米国が支配する、全世界的な経済援助資金の提供者たる世銀と国際通貨基金の官僚機構を虜にした。
 彼等は、緊急借款その他の信用を求める貧しい諸国に対し、ワシントン・コンセンサスと呼ばれる一連のルールを遵守するよう要求した。・・・
 ハルパーは、このワシントン・コンセンサスを完全に退けるわけではないが、その酷評が時々あてはまる諸国が何カ国かあることは事実であるとする。
 問題は、ワシントン<・コンセンサス>が、同じ解決方法をすべての国に課するところにある、と。・・・
 <いずれにせよ、>この、既にぼろぼろになったワシントン・コンセンサスは、米国が偽善的にもその忠告に2008年から2009年にかけての金融危機において従わなかったことにより、終焉を迎えた。・・・
 <これに比し、>中共は少なくとも偽善的ではない。
 なんとなれば、中共はお説教はしないからだ。・・・
 例えば、2008年には、世銀は、チャドのイドリス・デビー(Idriss Deby)大統領が、自国の貧しい人々の窮状を改善したかもしれないというのに、保健、教育、そして農業へ投資するという約束を破ったため、同国への財政援助を撤回した。
 デビーは、アフリカの独裁者(autocrat)の標準行動基準に則り、そのカネを自分自身の治安部隊の武器のために使ったのだ。
 国際コミュニティーがこのチャドの専制君主(despot)に対してそれまで保有していた影響力は、中共が入って来て彼を財政的に支援した時に消え去った。
 偶然ではないことだが、チャドは中共に石油を供給している。
 同じような類の話、つまり、中共の財政支援が独裁者が何の咎めもなくその国の宝を強奪し国民を抑圧することを許すといった類の話は、アンゴラ、中央アフリカ共和国、ミャンマー、スーダン、そしてウズベキスタンで繰り返し繰り返し起こっている。
 「世界中の最もひどい人権蹂躙者達に新しい甘いパパさんが出現したわけだ」とハルパーは記す。
(続く)