太田述正コラム#4050(2010.6.4)
<中共の現体制(その3)>(2010.7.4公開)
「・・・ハルパーは、中共の軍事的かつ経済的な力よりは「米国の魅力(appeal)を200年にわたって活気づけてきたところの、道徳的権威と欧米の遺産」に対する脅威の方を正しくもより心配している。
それでも、中華人民共和国が米国のモデルに追いつくのは相当先のことだ。・・・
「中共の指導者達は、米国とまともな軍拡競争をすることに伴う財政上の重い負担も政治的に高く付く雰囲気も、どちらも欲していない。・・・
・・・中共の顕著なる軍事的諸投資<は気になる>。「しかし、これは、米国に挑戦し、最終的には戦うという意図的な政策というよりは、中共と台湾周辺の拒否圏、及び、グアムに至る島嶼連鎖を覆う影響力圏、を確立する政策なのだ」<とする。>・・・」(F)
「・・・ハルパーは、・・・彼が「市場専制主義(market authoritarianism)」とレッテルを貼ったところの、開発に係る中共モデルが世界中で信者を集めつつあると主張する。
「ワシントン・コンセンサス」が「北京コンセンサス」でもって置き換えられたというのだ。・・・」(D)
「・・・しかし、中共の学者や役人達自身、(あるいは、米国人コンサルタントであるジョシュア・クーパー・ラモ(Joshua Cooper Ramo)が、はやらなくなった「ワシントン・コンセンサス」をおちょくって「北京コンセンサス」と名付けたところの、)中共モデルなるものが存在するかどうかについて、見解が分かれている。・・・
ハルパーが描写するところによれば、党の指導者達は、コントロールを失って中共が混沌へと陥っていくことへの恐怖に苛まれている。
この恐怖が、中共による我々を心配させるような対外的ふるまいの背後に存在して<中共を>突き動かしている、と彼は述べる。
党の支配<が維持できるかどうか>は、経済成長いかんに依存しており、それが今度は芳しくない諸国によって供給される諸資源いかんに依存している、と<彼の>議論は展開する。
アフリカの政治家達は、事実、「北京コンセンサス」に従っていると語ることはほとんどない。
しかし、彼等が、ガバナンスと人権についての欧米的ご高説抜きで中共からやってくる援助の流れを愛している<こともまた確かだ>。・・・」(E)
「・・・ハルパーの良いところは、・・・米中間の緊張の潜在的上昇についての警告的論議ばかりをすることで、彼が自分の論旨の迫力を増そうなどと試みないことだ。
彼は、中共の軍事費の増大が意味するところについて、米国が長年にわたって傑出した軍事大国であり続けるであろうと主張し、かなり楽観的だ。
同様、ハルパーは、全球化を堀崩すような米中間の大きな貿易戦争が起きるとも考えていない。
また彼は、中共による大量の米政府債購入の意味するところについても特段の心配をしていないように見える。・・・
<もっとも、>中共と密接な関係を取り結ぶのが好都合であると考えるのは悪い諸国だけではない。
欧米のお好みのアフリカ諸国の中にも、中共のビジネスのやり方が斬新に映る国がある。・・・
近年、「北京コンセンサス」によって、中共が提供した支援のおかげで、カンボディアやミャンマーという専制的政府が米国の圧力に抗することがずっとたやすくなったことは確かだ。
しかし、中共が舞台に登場するずっと以前から何十年にもわたって、この両国は専制的政府の掌握下にあったのだ。・・・
・・・<それに、>世界の運命が、ウズベキスタンや中央アフリカ共和国における影響力をめぐっての戦闘にかかっているなどというのは信じがたいことだ。
そんなことより重要なのは、米国と中共の間での国際的議題をこね上げる争いの中に、次第に力をつけつつある(emerging)大国であるところのブラジル、インド、インドネシア、南ア等が自分達自身をどう位置づけていくかだ。
この4カ国とも民主主義国であり、米国は伝統的に民主主義的諸国は米国の側に立つ傾向があることを当然視してきた。
しかし、コペンハーゲンでの気候サミットからイランに対する制裁についての議論に至るまでの様々な分野で、ブラジル、インド、南アといった諸国は、自分達自身が中共の立ち位置に近いことを発見してきた。
それこそが、ステファン・ハルパーが焦点をあてる諸問題(setback)よりも米国にとって心配すべきことかもしれない。・・・」(D)
「・・・北京は、欧米の資本主義/民主主義モデルに挑戦しているけれど、<幸いなことに、>ソ連とは対照的に、中共は自分の体制を<他国に>押しつけようと試みてはこなかった。
しかも、米国は、民主主義と自由市場を推進するにあたって、インドの支援が得られるかもしれない。
現在、この次第に力をつけつつある大国は、不完全にではあっても、資本主義と民主主義を組み合わせるところの欧米的モデルを代表するようにも見えるのだ。・・・
<他方、>どちらかといえば、中共は人権に関し、後退しつつある。・・・
「インターネット・・・は、大衆に政府を批判し、具体的な不満を正すよう要求する、より大きな手段(capacity)を与えた。
しかし、だからと言って、その国の国家論理に<インターネットでもって>挑戦できるということには必ずしもならない。・・・
<それに、>ナショナリスティックで民主主義的な中共は、<欧米にとって、>より深刻な地政学的脅威となるかもしれないのだ。・・・
・・・<欧米にとって>中共は深刻な挑戦となっている<ことは確かだ>。
<いずれにせよ、問題なのは、>米国政府は「欧米的諸価値の至上性(primacy)の主張と維持」のための手段がずっと不足したままだ<という点だ>。・・・」(F)
3 終わりに
中共の現体制は日本型経済システムと民主主義独裁との組み合わせであるととらえるべきであり、この体制が発展途上国に魅力的に映ることに対しては、日本が日本型経済システムと自由民主主義との組み合わせによって、つい最近まで高度経済成長を実現できた、という事実を訴えるべきだ、と私は思います。
この点を除けば、ご紹介した議論に、とりあえずは、私が付け加えることはありません。
なお、westを「欧米」と訳しましたが、日本を除外しているとも思えないので、「西側」と訳した方がよかったかもしれませんね。
(完)
中共の現体制(その3)
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