太田述正コラム#4126(2010.7.12)
<映画評論5:サルバドル/遥かなる日々(その3)>(2010.8.12公開)
6 異界たる中南米世界
以上のようなエルサルバドルの姿は、中南米世界においては、ごくありふれたものです。
最近の記事の中から、中南米世界の写し絵とおぼしきものを適宜並べてみたので、このことをご納得いただくため、ざっとご一読いただければと思います。
「ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領は、同国の最近の歴史上、最も人々を分裂させる(divisive)存在と言ってよいかもしれないが、彼が予期せぬ形で2007年に権力の座に復帰すると、彼は<右派勢力との>和解を約束して現在に至っている。・・・
しかし、友好関係樹立の修辞にもかかわらず、高齢になりつつあるこの革命家の、自分の権力を維持しようとする強迫観念は、この国を暴力的な両極化へと押し戻しつつある。・・・
かつての<左の>サンディニスタのゲリラ達と<これに対抗した右の>コントラ(contra)の戦闘員達のそれぞれの一部・・左と右の闘士達・・は、政治的スペクトル(spectrum)が直線というよりは円環であるところのこの国において、共通の土俵を見出し始めている。・・・
「もし<オルテガが憲法規定に反して>再選されるようなことがあれば、叛乱が起きるだろう」というのが、「再選と詐欺に反対する運動(Movement Against Reelection and Fraud)」と自分達自身を呼んでいる、最近形成されたサンディニスタの異論者達の集団の新しいスローガンだ。
元コントラの指導者達もまた、オルテガが「全体主義体制」を固めるようなことがあれば、ことは危うくなる、と警告している。・・・」
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,2002920,00.html
(7月11日アクセス)
→どうやら、「左」も「右」も大差ないらしい、しかも、どちらの側の指導者達も、それぞれ、もっぱら自分の権力の獲得・維持に血道を上げているらしい、ということが分かりますね。(太田)
「・・・スペインとローマ・カトリック教会がラウル・カストロ大統領の<キューバ>政府と取引を行い、52人の政治的囚人達が解放されることになった。・・・
・・・<しかし、キューバには、これ以外にも>115人の政治的囚人達がいると目されているけれど、彼等は釈放されない。
この数は、・・・1959年の革命以来、最も少ないものではあるが、依然受け容れられるものではない。・・・
当局によって許されている域を超えた見解に基づき声をあげた者は、引き続き、脅され、かつハラスメントを受け、恣意的に拘留され、或いは、不公正でしばしば即決の裁判の後、投獄される。・・・
カストロは、欧州が、人権と民主主義の前進という条件下で関係を正常化するとの1996年の政策であるところの、「キューバに係る共通の立場(Common Position on Cuba)」を緩和することを欲している。
スペイン政府は、関与すること(engagement)が対峙すること(confrontation)よりも生産的であると主張しており、弊紙<(ロサンゼルスタイムス)>もそう思う。
だからこそ、我々は、米国議会が、先週下院農業委員会で承認されたところの、米国人のキューバへの旅行禁止措置を解除するとともに、その他の冷戦的<対キューバ>制裁を緩和する法案を採択するよう促すのだ。
それは、キューバがそれに値するから行うのではない。
今般、52人の<政治的>囚人を<キューバが>解放した見返りに行うのでもない。
50年に及ぶ貿易と旅行の禁止が、半世紀経っても<キューバに>民主主義的変化をもたらすことに失敗しているからなのだ。」
http://www.latimes.com/news/opinion/editorials/la-ed-cuba-20100710,0,7510354,print.story
(7月11日アクセス)
→米国のかつての保護国であったことから米国に対しとりわけ恨み骨髄であるからこそスターリン主義国家となったところの、かかるキューバが、中南米の上記のような第三国に触手を伸ばすことに米国が神経を尖らすのは理解できますし、とりわけ冷戦状況下においては当然のことでした。
興味深いのは、このキューバでも、個人崇拝と、一族間での最高指導者の地位の継承がまかり通っていることです。
紛れもなく、キューバもまた、中南米に属しているのです。(太田)
「パリの裁判所は、<7月7日>に、パナマの元独裁者のマヌエル・ノリエガ(Manuel Noriega)に対し、麻薬の密貿易による利得を資金浄化したとして有罪判決を下し、7年の刑を言い渡した。
3人の裁判官からなる合議体は、彼の凍結された銀行諸口座から、フランスの輸入関税として288万ドル、及びパナマ政府への損害賠償として126万ドルを支払うようにも命じた。・・・
彼のマイアミの牢獄からフランスへの移送に長く戦い続けたノリエガは、そのカネが麻薬から来たことを否定し、自分の兄弟からの相続と彼の妻の個人的財産、及びCIAからの支払いであると述べた。・・・
中南米における左翼の影響力に対抗する存在としてかつてCIAが後ろ盾となっていたノリエガは、彼が麻薬密貿易に関与するようになり、キューバとも通じていると報じられた1980年代末に米国政府の恩寵を失った。
1989年に、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は、<ノリエガ>将軍を捕まえるために米軍部隊をパナマに派遣した。
ノリエガは、バチカン大使館に避難した。
10日間にわたったにらみあいの間、米軍部隊はその建物を取り囲み、ヘビー・メタルの音楽を大音響で流した。
ノリエガは、最終的に降伏した。・・・」
http://www.latimes.com/news/nationworld/world/la-fg-noriega-verdict-20100708,0,6286987,print.story
(7月12日アクセス)
→パナマ運河敷設のために米国がいわば捏造した国であるパナマに対し、米国は、なお、外国であるとの認識など持っていないようです。
こんなひどい内政干渉をやってのけるくらいなら、キューバのスターリン主義化こそ、その芽を軍事介入してでも摘むべきでした。(太田)
「・・・メキシコ政府が米アリゾナ州の新移民法を冷酷で外国人を嫌悪するものとして非難する一方、メキシコを通過する不法移民は、日常的に、しばしば腐敗した警察と癒着した犯罪的なギャング集団による強盗、レイプ、誘拐の被害にあっている。・・・
国家移民協会によると、昨年メキシコでは64,000人以上の不法移民が拘留、国外追放された。数年前にはメキシコで拘留される不法移民の数は20万人だった。数字が減ったのは、米国境の管理強化、世界的な経済の減退、そして何人かの専門家が言うにはメキシコで移民が直面する強盗や暴行の結果である。
政府機関の国家人権委員会の推定では、毎年メキシコでは20,000人の移民が誘拐されるという。・・・
「メキシコ政府は、断固として新移民法を批判している――広範囲に及ぶ影響を考慮して法律を批判することはまったくもって正当である――が、同時に、国境の内側で同じ問題に対処することを望んではいない」・・・
地方警察、タクシー運転手、都市役人らはしばしば賄賂を要求したり、移民たちを誘拐者のところへ連れて行く・・・
・・・10人の<通過移民たる>女性中6人もが旅の間に性的暴行を受ける・・・
・・・メキシコ人の多くは<通過移民のような>よそ者を信用していない・・・」(コラム#4081、4083)
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/17/AR2010061702987_pf.html
(6月20日アクセス)
→米国のすぐ南の隣国メキシコは、ほとんど失敗国家(failed state)に近い、ということです。
イベリア半島の中南米植民地であった国々は、ことごとく、ほとんど失敗国家に近い存在であり続けてきた、と言ってよいでしょう。
中南米と言うけれど、中米の話ばかりではないかと言われそうなので、南米の国を扱った記事もご紹介しておきましょう。(太田)
「・・・アルゼンチンが<1976年から1983年までの軍政から
http://en.wikipedia.org/wiki/Argentina (太田)
>民主主義に復帰して後、<同国の>政府委員会は、行方不明の人物に係る苦情申し立てと<拉致された>生存者達の記憶を踏まえ、軍事政権は約13,000人の<左派の>人々を殺害した、と断定した。
ただし、人権諸団体は、30,000人は死亡したと信じている。
<その一部についての首謀者達の>裁判で、<首謀者達の一人は、>北アルゼンチンの10の州(province)一帯の左翼ゲリラへの軍事的対応を、共産主義者による政権奪取を防止しなければならなかったからだと正当化した。
「連中は無害な(peaceful)市民達ではなかった」と彼は言明した。
他の被告達は、自分達は命令に従っただけだと述べた。・・・」
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2010/07/10/2003477509
(7月10日アクセス)
→左派は左派で、1970年から、毎週のように右派の誘拐・殺害を繰り返しました(ウィキペディア上掲)。既にご紹介した冷戦下のエルサルバドルと状況が瓜二つですね。(太田)
「・・・アフマディネジャド<・イラン大統領>は、テヘランでこれみよがしの愛の祭典をトルコとブラジルの指導者達を呼んで主催した。
この3名は、一緒に手を挙げ、米国が国連諸制裁を課そうとする様々な企てに一撃を加えるためにしつらえられたところの、ウラン移転取引を公表した。・・・
これは、<米国のオバマ政権が、>・・・G8をG20で置き換えることによってブラジルの地位を高めてやった後に起こったことだ。
これらすべてが米国の弱さと解釈され、オバマが丸め込められうる(can be rolled)証拠とされたのだ。・・・」
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/06/10/AR2010061004110_pf.html (コラム#4065)
(6月12日アクセス)
→BRICSの一員で、次のサッカー・ワールドカップが開かれ、また次の次のオリンピックが開かれる、(犯罪横行で悪名高い)あのブラジルでさえ、機会があれば米国の鼻を明かそう、邪魔をしようと虎視眈々と狙っているわけです。(太田)
(完)
映画評論5:サルバドル/遥かなる日々(その3)
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