太田述正コラム#4130(2010.7.14)
<日進月歩の人間科学(続x16)>(2010.8.14公開)
1 始めに
今回は、身近な話題を二つお送りしましょう。
2 中年の女性の性
フランスの小説『ボヴァリー夫人』(1856年)
http://en.wikipedia.org/wiki/Madame_Bovary
やロシアの小説『アンナ・カレーニナ』(1877年)
http://en.wikipedia.org/wiki/Anna_Karenina
、そしてフランス映画『昼顔(Belle de jour)』(1967年)
http://en.wikipedia.org/wiki/Belle_de_jour_(film)
を思いだすまでもなく、中年の女性の不倫は、フィクションの世界における、最大かつ永遠のテーマであると言ってよいでしょう。
実際、『アンナ・カレーニナ』と『ボヴァリー夫人』は、小説に関する各種調査で、常に1、2位を争う高い評価を与えられてきています。(最初の二つのウィキ)
中年の女性が不倫などというハイリスクなことをしでかすのはなぜか、それにはノンフィクション的背景がある、というオハナシをまず申し上げましょう。
「・・・30代と40代初めの女性は、それより若い女性に比べてより性的(sexual)だ。
27歳から45歳までの女性は、18歳から26歳までの女性に比べてより性的幻想にふける・・しかもより激しい性的幻想に・・と申告するだけでなく、よりセックスの申告回数が多い。
しかも、彼女等は、より若い女性に比べてより偶発的な(casual)・・一晩限りのものさえ含む・・セックスを行う。・・・
これとは対照的に、男性の性的関心と実行・・通常は週当たりのオルガスムの申告回数で測られる・・は、10代に最高に達し、それからは少し下がって一定の水準・・平均して週3回のオルガスム・・でその生涯の大部分の間推移する。
・・・大部分の男性は、70代に入るまで性的に活動的であり続ける。
<他方、>女性の性的熱情(ardor)は、閉経以降急速に減退する。・・・
・・・進化は、女性に対し、繁殖力が減退し始め閉経が近づいてくると性的により活発になるよう促すのだ。・・・
・・・20代半ばを過ぎると、<古い脳である>爬虫類脳の、もっと子供をつくろうとする衝動が荒涼たる現実に直面する。
すなわち、残された卵子が齢を重ねるにつれて、女性は妊娠するのがどんどん困難になって行くのだ。
だから、中年の女性はそれに応えて、もっと多く、もっと多くとセックスを求めるわけだ。・・・」
http://www.time.com/time/health/article/0,8599,2002838,00.html
(7月12日アクセス)
こんな風に科学的に解明されてしまうと興ざめである一方、男性から見て女性って可愛そうな、だからこそ愛おしい存在だと改めて思いますね。
ところで、中年の女性の性を語るにあたって、どうしてフランスやロシアのフィクションから始めたんだ、日本の『源氏物語』(1000年過ぎ)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%90%E6%B0%8F%E7%89%A9%E8%AA%9E%E5%90%84%E5%B8%96%E3%81%AE%E3%81%82%E3%82%89%E3%81%99%E3%81%98
から始めるべきだったんじゃないのか、とおしかりを被るかもしれません。
しかし、考えてもいただきたい。
『源氏物語』に登場する女性達、その多くはパートナーがいるにもかかわず、源氏ともセックスするわけだけど、30代に達する女性なんて登場しませんよ。
それに、当時の日本は母系制で一妻多夫制に近かったというのが私の認識なので、そもそもそれらが浮気と言えるのか、ということもあります。
だから、『源氏物語』に言及するのは止めました。
正直に申し上げれば、はっきり年齢が分かるわけではありませんし、そもそもフィクションであるわけですが、『ボバリー夫人』のエマだって、『アンナ・カレーニナ』のアンナだって、『昼顔』のセヴェリーヌだって、浮気を始めたのは10代の終わりか20代の始めであった可能性があります。
その浮気が30代まで続いた、と解釈できそうではありますが・・。
思うに、栄養状態や医療の改善により、時代を経るに従い、女性(卵子を含む)の平均寿命が延び、女性の閉経期も延びたことで、女性が性的に活発になる始期が次第に高齢化してきた・・同時に性的に活発になる期間が長期化してきた・・ということなのではないでしょうか。
3 失恋
今度は、男女を問わず、経験しない人がほとんどいない感情である、失恋についてのオハナシです。
「・・・ロマンスが拒絶された痛みに関連する脳の諸部位は、報酬、動機付け、物理的痛み、切望(craving)、そして中毒に関わる諸部位と同じだ。
(例えば、元恋人の写真を見て活発化(light up)する部位は、コカイン中毒者の脳で活発化する部位そのものだ。・・・)・・・
このことは、胸が張り裂けるような思いがいかに克服困難なものでコントロールすることに至ってはいかに更に困難であるかを説明することに資する。
古典的厳格さでもって行われた・・・研究によれば、肘鉄を食わされた学生達は、「不適切な電話、手紙、Eメールを送ったり、仲直りを懇願したり、何時間もすすり泣いたり、大酒を飲み過ぎたり、これに加えて、或いは、肘鉄を食わした相手の家や仕事場や社会空間に、怒り、絶望、或いは熱情的な愛を表明するために、劇的な進入・退出を行ったりする。・・・
少なくとも、ある意味ではこの痛みは良いことなのだ。・・・
一種、自然が我々を保護するためにこのような反応をさせているのだ。・・・それは逆境において我々が<元恋人との>関係を維持する(keep relationships going)ことを助けてくれる。
それは、我々種族を絶やさないために重要なことなのだ。
これに加えて、若干のケースにおいては、<被験者たる>学生達は、既に再評価に成功しつつあった。
すなわち、元恋人の余り芳しからざる(less convivial)側面を思いだして語るという、彼または彼女<への思い>を乗り越えるための最初のステップを踏み出していたのだ。・・・」
http://www.time.com/time/health/article/0,8599,2002688,00.html
(7月12日アクセス)
ヒモが自分の女をヤク漬けにすることがよくあるのは、文字通り保険をかけてたってことだったんですね。
また、片思いの相手に対してはストーカーと化すよう、我々の脳はできているってことなんですな。
だけど、昔はストーキングが自己責任でできたけれど、最近では、即、犯罪者にされてしまうのがつらいところです。
犯罪者となるのを回避するには、恋に陥っても盲目にならず、平行して、常に目を大きく見開いて相手の欠点を探してはそれを反芻し続けることが大事なようですが、こいつは言うは易く行うは難しですねえ。
日進月歩の人間科学(続x16)
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