太田述正コラム#4209(2010.8.23)
<皆さんとディスカッション(続x932)>
<太田>(ツイッターより)
 (コラム#4207に関し)何で時々読者の間で移民論争が活発化するんだろうね。
 それだけ、太田コラムに共感を覚える人の中に移民を生理的に受け付けない人が多いってことなんだろうけど・・。
 「独立」したって鎖国のままじゃ、江戸時代に戻るだけだ。
 そこを突き抜けなくっちゃ。
<マンネン>
 悪名高き東大阪に住人ですが公営住宅などに大量の中国人がいます。
 数年前まで商売をし、店の隣の賃貸住宅に中国人が引っ越してきたので、中国人と接する機会は少なくありませんでした。
 最初、自転車は大量に放置するし、こっちの敷地にまで物を置いたりするので、困っていたのですが、一度注意をしたら、それからはまったく問題がなくなりました。
 近所の日本人のほうが自動車を長時間路上駐車していて、注意をしても聞く耳を持ちませんでした。
 他の中国人も借りてるモータープールで細かいゴミが落ちていたらゴミ箱まで捨てに行ったりして、逆にこちらのほうが見習わないといけないと思うことすらあります。
 もちろん、悪い中国人もいますが、日本人に対する犯罪が激増したわけではないし、(善し悪しはともかくとして)完璧に日本人化してる中国人の子供も多いし、大騒ぎするほどのことではないように感じます。
 むしろ、暴力団や排他的な集団を作る新興宗教信者たちのほうが大きな問題だと思います。
 日本には何事も議論せず、人に注意してはいけないような雰囲気がありますけど、これが非常に重苦しい感じや抑圧感を与えているように思います。
 でも、外人が入ってきたら議論や注意をせざるを得ないし、それで何かが改善されたら、今の澱んだ雰囲気も多少は払拭されるのではないかと思います。
 まあ、品行方正な住民ばかりで犯罪率が非常に低い地域の人達が移民受け入れを拒否する気持ちも分からない訳でもありませんが、日本全体にとっては移民受け入れ以外、社会を変える方法はないのではないでしょうか。
<γΖγΖ>(「たった一人の反乱」より)
≫国家の選択としての移民受入方針(あなたの言うところの大きな日本を目指すかそれとも小さな日本を目指すか)、その是非については結論を一切保留しているよ。≪(コラム#4207。ΖγγΖ)
 大きな日本を志向する事はイコールで独立日本を志向する事だけど、小さな日本を志向すると言うのであれば属国でもかまわないじゃないか。
 だから、あんさんの話す事の言外には、属国でいるか独立するかについても、『メリットデメリットの比較検討は広く流布され話し合われるべきでその上で方針は決まるのが良い』と、思っているんだと勘ぐっているよ。
 あんさんは必ずしも属国容認派じゃないようだけど、どういう主義・主張から容認をしていないの?
 上記の事から自分は、あんさんがただのエゴイストだと思っている、あんさんの行動原理は下記で説明がつくと思っているんだな。
 『倫理的利己主義(ethical egoism)は「人の行為は自分自身の利害に動機付けられるべき(ought)である」とする倫理学上の立場である。・・・
 “行為の善悪や正否のよりどころは「自分自身の最大幸福」であり(原則上は)他人に被害があってもかまわない”と考えるので、功利主義・・・と対立する。
 ただし実際には社会に利益をもたらせば、めぐりめぐって自分の利益として戻ってくることが多く、また自身の利己的な行動が周囲の行動へと伝染し、他者の利己的な行動を誘発し、めぐりめぐって自己の不利益ともなるので、利己主義(者)であっても、左記を理解し《長期的な合理性を考慮し行動をする者に限定すれば、結果は(ある程度)利他的になるとも考えられている。》』
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%88%A9%E5%B7%B1%E4%B8%BB%E7%BE%A9
 あんさんはただ単に『長期的な合理性を考慮し』て、属国であるのは自分に(めぐりめぐって)不利益になると判断したから反対し、移民を受け入れるのは自分に(めぐりめぐって)不利益になる可能性から反対or慎重に考えるべきである、と言っているにすぎないと思うんだが?
 違うって言うなら、あなたは主義・主張を明かすべきだ。
<γγΖΖ>(同上)
 その人、そんな合理的なメリット主義に突き動かされてるようにみえないなあ。
 自分の足場が変化するのを怖がってるだけ、という、本人は認めたくなさそうな本音を隠蔽するために移民受け入れのデメリットを過剰に強調して「慎重派」を自称してるだけじゃないのかなあ。
≫見ず知らずの外国人がいきなりそこかしこに生活者として増大すれば、一般の元住民軋轢が起きるのは十分想定されるのではないかな。そんな状況は、それなりの対処策を考えてからでなければ、安心できず怖いのではないかな? ≪(コラム#4207。ζζΓΓ)
 当然こういう軋轢は想定されるだろうけど、不安に支配された悲観的な人を完全に安心させられる「それなりの対処策」なんていつまで検討したって永遠に完成しないと思う。
 悲観的な人はどんなに対処法を整備したって「まだ不十分」とゴネ続けるだけでしょ。
 よそ者はイヤだという感情が出発点なんだろうから。
<太田>
 γΖγΖサン、私の人間主義論と交錯する日本語のそんなウィキペディア項目があったんだね。
 教えてくれてありがとう。
<Bigshort08>
 Christina Romer、大恐慌下での財政政策は経済回復に寄与しなかったという実証研究・業績を持っているのに、オバマ政権下で史上最大規模の財政出動による雇用創出の任に就くとは、何とも皮肉なものです。
<太田>
 打てば響くように、Fat Tailさんが、とりあえずの答えを書いてくれました。
 Fat Tailさん、多謝!
<Fat Tail>
 –大恐慌と第二次世界大戦–
≫経済力を軍事力に転換しなかった戦間期の米国は有効需要不足で長期不況に陥り、第二次世界大戦の軍需によって救われた、こういう意味でも、そして、資本主義と民主主義を守るためにも、米国は世界の警察官役を積極的に果たして行くべきであるとニール・ファーガソンは言ってるらしいけど、Fat Tailさん、その後、「研究」、進んでます?≪(コラム#4207。太田)
 お陰様で、”Google Scholar”を利用して、順調に各種論文を消化しています。せっかく話を振っていただいたので、この段階で多少種明かしを致します。
 それにしてもニール・ファーガソン、アメリカの財政赤字について、”Political”エコノミストたるポール・クルーグマンとその是非を巡って泥仕合を演じていますが*、第二次世界大戦参戦がアメリカ経済を救った、という説に依拠している当たり、この点についてはクルーグマンと意見が一致しているとは**。情事に現を抜かしている暇があったら***、「経済史家」らしく以下の点をきちんと踏まえて研究に励んでもらいたいものです。
*その後も論争は延々と続いているが、これが最初の直接対決か。
“Niall Ferguson v Paul Krugman”
http://www.andrewpurcell.net/?p=375
** NYTの彼のコラム参照。
“Decade at Bernie’s”
http://www.nytimes.com/2009/02/16/opinion/16krugman.html
から、以下抜粋。
“If you want to see what it really takes to boot the economy out of a debt trap, look at the large public works program, otherwise known as World War II, that ended the Great Depression.”
→まがりなりにもノーベル経済学賞受賞者だというのに、クルーグマン、一昔前の通説に無批判に拠っているとするとこりゃ事件ですねえ。(太田)
***奥さん、魅力的な人だ。
“Naughty Niall Ferguson: The dashing TV historian and the string of affairs that could cost him millions”
http://www.dailymail.co.uk/tvshowbiz/article-1252460/Naughty-Niall-Ferguson-The-dashing-TV-historian-string-affairs-cost-millions.html
→この記事、ちら読みしかさせてもらってないが、キャイーン。愛人ってあのAyaan Hirsi(コラム#1081、1181、1183)だったのか! そりゃ、奥さんよりも更に魅力的でしょ。(太田)
 –大恐慌と第二次世界大戦:草稿種明かし–
1.1942年までに、金融緩和によってアメリカ経済は成長トレンドに回復していた
Romer, Christina D. 1992. What Ended the Great Depression? Journal of Economic History 52 (December): 757?84
http://www.fcs.edu.uy/multi/phes/Romer%201992.pdf
 大恐慌関連の論文の中でも引用数が上位に位置する、オバマ政権でChair of the Council of Economic Advisersを務める、Romerの代表的業績の一つ。
・アメリカ経済が大恐慌から脱出した最大の要因は金融緩和であり、1942年までの財政政策の寄与は無きに等しい(1942年の段階でも、寄与は殆ど無い)。
・金融緩和の源泉は、一、ルーズベルト政権による1934年の金平価切下げ、二、それに続く欧州の安全保障上のリスク上昇とアメリカへの金流入、三、金流入に対するルーズベルト政権の非不胎化政策。
・アメリカ経済は、金融緩和によって1942年までに成長トレンドに回復しており、参戦による財政出動によって経済回復を成し遂げたという説とは、相容れない。
・但し、欧州における戦争勃発によって金流入と金融緩和が結果的に達成されたことに鑑み、第二次世界大戦が大恐慌を終わらせたとは言える(Fat Tail:したがって、参戦が大恐慌終焉をもたらしたわけではない)。
→論文の結論部分だけ読ませてもらったけど、金融面による米国経済回復へのローズベルト政権の寄与度がどれくらいか、知りたいなあ。(太田)
2.第二次世界大戦に参戦したアメリカの経済は、参戦期間中に成長を遂げていない
Robert, Higgs 1992. Wartime Prosperity? A Reassessment of the U.S. Economy in the 1940s. Journal of Economic History 52 (March): 41?60
http://www.independent.org/publications/article.asp?id=138
・価格統制に伴う物価水準の歪み等を是正し、GNPと民間消費を推計し直した結果得た結論。
→この論文の終わりあたりを読ませてもらったけど、戦時中、経済は成長こそしなかったが、(軍関係雇用の増加で)ほぼ完全雇用が達成され、かつ人々のムードが楽観的になったので経済が成長しているような錯覚をもたらしたってわけか。ウーン。
 ちなみに、私は、『防衛庁再生宣言』の中で、「1941年に米国が第二次世界大戦に参戦すると、ケインズが正しかったことが証明された。軍需生産によって経済は活況を呈し、失業率は42年には4.7%に急低下し、44年には何と1.2%になり、米国経済は完全に復興したのである。」(176頁)と記したところだ。
 なお、先の大戦中の米国は計画経済(command economy)だったから、(近代)マクロ経済学は適用できないってくだりは面白かったなあ。日本型経済体制は、資本主義国家における戦時体制を日本の顔をさせつつ平時化したもの、と言ってもいいかもしれないね。(太田)
3.戦争遂行に伴う財政出動の乗数効果は1を下回っており、主に投資をクラウディング・アウトさせる(第二次世界大戦を含めたアメリカの防衛費に係る乗数効果の推計結果)
Barro, Robert J. and Charles J. Redlick. 2009. “Macroeconomic Effects from Government Purchases and Taxes,” NBER Working Paper 15369.
 個人的に直接当たったのは、BarroのWebに掲載されているこちらの論文。結論は変わらないものの、記載されている年月日が違うので、内容が修正されている可能性はある。
http://www.economics.harvard.edu/faculty/barro/files/Barro%2BRedlick%2Bpaper%2B0210.pdf
 この論文の結論はWSJにも掲載されており、要点を掴むにはこちらがお薦め。
“Stimulus Spending Doesn’t Work”
http://www.economics.harvard.edu/faculty/barro/files/wsj_09_1001.pdf
・Fat Tail:第二次世界大戦中、民間投資が大幅に減少していたことと整合的で、参戦がアメリカ経済を救ったという説と矛盾している。
→軍事支出、(いやそもそも政府支出?)の乗数効果が1未満であるとの主張はホントにホントだろか。それじゃケインズ経済学の半分は誤りだったということになってしまうが・・。
 ちなみに、私は、『防衛庁再生宣言』の中で、Steve Chan, The political Economy of Military Spending and Economic Perfromance、及び、R・ディグラス『アメリカ経済と軍拡–産業荒廃の構図』(55、176頁)を援用しつつ、「「過度な」軍事支出こそ、米国経済の相対的衰退の原因ではないかという・・・問題意識を持った者は、ディグラスやチャンら、ごく少数の学者にとどまった。しかも、彼等の結論は、はっきりしたことは言えないというものであった。」(177頁)と記したところだ。 (太田)
 
 こうした実証研究にも係らず、何故第二次世界大戦参戦がアメリカ経済に大恐慌終焉をもたらしたという説が広範に、しかも直接戦争を体験した世代も含めて支持されているのか。
 この点も「研究」したいテーマの一つです。
<太田>
 後段については、バーロ論考でそれなり説明されていますが、前段については、クルーグマン(ファーガソン)を含め、不思議ですねえ。ぜひ解明して欲しいところです。
 そして、上述したところの、ローズベルト政権の経済政策の経済回復への寄与度についてもね。
 話は全く変わるけど、消印所沢クンのサイトに拙著『防衛庁再生宣言』の集団的自衛権の箇所がコピペされていた。
http://mltr.ganriki.net/faq05d09r.html
 関心ある方は読んで欲しいが、遺憾なことに、「太田述正情報はクロス・チェック必須だが,この記述に関しては,モラル的側面はともかく――モラルのような抽象を論争の種にするとキリがない――,理に叶っている主張と愚考する.」というコメントが付されている。
 前々から「太田述正情報はクロス・チェック必須だが,」的disclaimerをつけるのなら、私の本やコラムからのコピペは控えて欲しい旨申し入れてあるというのに、困ったものだ。
 私は、議論をする場合、典拠を常につけるので、疑義が生じたら、クロス・チェック(注)するまでもなく、その典拠の信頼性を確かめた上で、つけられた典拠に直接あたってチェックすれば足りる。
 (注)「複数の資料を照らし合わせて調査すること。または、複数の方法で検証すること。」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%AF
 そうすれば、私が典拠引用の際にミスを犯したり、歪んだ引用の仕方をやっていたりすれば、すぐ分かるのよ。
 従って、誰かの情報が信頼できるかどうかは、(信頼できる)典拠に拠っているかどうかで判断すべきだし、原則としてそれで足りる。
 なお、「モラルのような抽象を論争の種にするとキリがない」に典拠が付されていないが、こと法(憲法も法だ)の立法論や解釈論を展開する場合に、道徳(モラル)を無視することは不可能だし不適切だ。
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Cinema/4855/lawmoralweb.htm
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B3%95_(%E6%B3%95%E5%AD%A6)#.E6.B3.95.E3.81.AE.E5.A4.96.E9.9D.A2.E6.80.A7.E3.81.A8.E9.81.93.E5.BE.B3.E3.81.AE.E5.86.85.E9.9D.A2.E6.80.A7
 少しでも典拠に基づいて議論をする習慣が身についてたら、こんなばかげたことを言ってのけたりはしないはずだ。
 以上のような初歩的な素養に欠ける消印所沢クン、幸い本職があるらしいから、生き甲斐の趣味なんだろうが、世のため、そして何よりも自分自身の恥をこれ以上晒さないため、店じまいしてネットの世界から退去した方がええんちゃう?
 話が変わるけど、こんなサイトを発見。↓
太田述正氏の次著、日本「独立」論(仮称)を、共同で編集するサイトです。
http://w.livedoor.jp/fifa5963/d/MenuBar1
 一体誰が、何のためにつくったの?
 それでは記事の紹介です。
 アフガニスタンで現在NATO軍が戦っている相手は、タリバンたるアフガニスタン人であって、アルカーイダの姿はもちろん、隣国人の姿すらほとんど見えないようだ。↓
 ・・・Although U.S. officials have often said that al-Qaeda is a marginal player on the Afghan battlefield, an analysis of 76,000 classified U.S. military reports posted by the Web site WikiLeaks underscores the extent to which Osama bin Laden and his network have become an afterthought in the war. ・・・
 ・・・fewer than 50 of the 950 prisoners come from outside the country. Of those, about three-quarters are Pakistanis. He said fighters from outside Central Asia are rare: “This is a very local fight.” ・・・
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/22/AR2010082203029_pf.html
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太田述正コラム#4210(2010.8.23)
<落第政治家チャーチル(その3)>
→非公開