太田述正コラム#4184(2010.8.10)
<映画評論6:バンド・オブ・ブラザース(その2)>(2010.9.10公開)
(3)戦争犯罪と刑事犯罪
このTVシリーズでは、
「10話<(Episode 10)>で、<米軍下士官>らが独断で強制収容所の所長とされるドイツ人を探し出して射殺する場面があるが、史実では収容所の元囚人から潜伏情報を受けた<主役部隊の士官>の命令を受けて射殺している。(その人物が本当に強制収容所長だったかは不明)」(日本語ウィキペディア(A))
と米兵が刑事犯罪を犯すシーンがありますし、また、
第3話で攻撃後の建物から出てきた無抵抗のドイツ兵を.45口径拳銃で射殺するシーン、第5話で<主役級の米軍士官>が突撃した際に、最初に遭遇した無防備な<ドイツ>武装親衛隊の少年兵を射殺するシーン<もあり、これら>について、実際の<部隊の>OBから相当顰蹙を買ったと言われてい<ます>(実際の戦場であれば前者は戦争犯罪である)。・・・」(A)
そのほかにも、捕虜にしたドイツ兵を多数射殺した・・当然、戦争犯罪・・ことを仄めかすシーンがありました。
ところが、面白いことに、英語ウィキペディア(B)には、こういったことへの言及が一切ありません。
ニューヨークタイムスのこのシリーズ評論記事
http://www.nytimes.com/2001/09/07/movies/tv-weekend-an-intricate-tapestry-of-a-heroic-age.html?pagewanted=print
においてさえ、刑事犯罪にも戦争犯罪にも該当しないところの、上に出てきたところの、無防備なドイツの武装親衛隊の少年兵が射殺されるシーンへの言及があるだけです。
一方、このシリーズの主役米軍部隊も参加した、バルジ大作戦の際にも、ドイツ軍による約150人もの米兵捕虜射殺事件(マルメディー虐殺事件=Malmedy massacre)が起こり、
http://en.wikipedia.org/wiki/Battle_of_the_Bulge (太田)
もっと小規模なものは結構あったと思われるというのに、ドイツ軍側による米兵捕虜殺害シーンが全くこのシリーズには出てきません。
元へ戻って、このシリーズでは、米軍側については、刑事犯罪であるところの、強制収容所の所長と目されるドイツ人の米兵による殺人(上出)までとりあげる、という執拗さです。
私は、この点に関しては、先の大戦の際の米英連合軍とドイツ軍との戦闘においては、悪いことは、むしろ米英連合軍の方が多くやらかした、ということをアッピールするという制作者の意図を感じました。
この意図は、ウィキペディアや上記評論記事を見る限り、米国の人々には不評であったようです。
(4)米国の先の大戦参戦目的
上掲のニューヨークタイムスの評論記事は、以下のように記しています。
「・・・第9話<では、>・・・<このシリーズの主役部隊である>中隊が強制収容所を発見し、カメラは、収容者の異常なほど痩せ衰えた身体やシリーズ主要登場人物たる米兵達の衝撃を受けた顔に焦点をあてる。
この第9話は、「なぜ我々は戦うか」という題であり、このシリーズの終わり近くになってから、<この>中隊の観点からどうして<先の大戦で米軍がドイツ軍と>戦ったのかを、力強く、かつ誠実に示したものだ。
しかし、視聴者の観点からは、どうして戦ったかが示されるのが遅すぎると言えよう。・・・
最初から、第二次世界大戦と<現在と>の世代間の距離が大きいのは明白だ。
各話の冒頭で<この>中隊の(名前が伏せられたところの、)本当の帰還兵達が<毎回>コメントをするのだが、最初の時に、一人が、自分の小さい町で、身体検査ではねられて軍隊に入れなかった4人の男達が自殺したという話をする。・・・」
ここでの制作者の意図は、後付で、ようやくドイツとの戦争は正当化できたけれど、実のところ、戦争目的は薄弱であったことを示唆しつつ、それにもかかわらず、米国の青年達が積極的にドイツとの戦争に係わったことの不思議さを視聴者に考えさせる、といったところでしょうか。
日本との戦争に関しては、真珠湾があったので、事情は異なるのでしょうが・・。
ところで、「・・・太平洋戦争末期の1943(昭和18)年、海軍は航空兵不足を解消するため、全国の中学校に甲種飛行予科練習生の志願者を強制的に割り当てた。・・・全国屈指の進学校だった旧制愛知一中・・・の生徒たちの反応は当初、冷ややかだったが、時局講演会で将校らの熱い口調に心を動かされた生徒たちは、次々と志願を誓っていく」という実話が、来る8月15日にNHKで放映されます
http://hi.baidu.com/lli0704/blog/item/71c83a100342e6cba7ef3fb6.html
(8月9日アクセス)が、当時の日本の大部分の青年達も、徴兵された者、志願した者を問わず、積極的に戦争に係わったのです。
一見、米日の状況は似通っていたようですが、米国の青年達は、(対日戦争に関しては)偽りの戦争目的を吹き込まれ、(対独戦争に関しては)薄弱な戦争目的にもかかわらず、その大部分が積極的に戦争に係わったのに対し、日本の青年達は、本当の戦争目的・・反共ないし反帝・・を理解した上で、その大部分が積極的に戦争に係わったのですから、米日の状況は根本的に異なっており、日本の状況の方がはるかに健全であった、と言えそうです。
(続く)
映画評論6:バンド・オブ・ブラザース(その2)
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