太田述正コラム#4188(2010.8.12)
<映画評論6:バンド・オブ・ブラザース(その3)>(2010.9.12公開)
(5)101空挺師団
さて、主役部隊という言い方をしてきましたが、それは、米陸軍第101空挺師団第506落下傘歩兵連隊第2大隊E中隊(E Company (“Easy Company”) of the 2nd Battalion, 506th Parachute Infantry Regiment(PIF) assigned to the 101st Airborne Division of the United States Army)です。
第101空挺師団は、米陸軍のエリート師団であり、E中隊は、第二次世界大戦でノルマンディー上陸作戦、マーケット・ガーデン作戦、<バルジ大作戦の最終局面の>バストーニュの戦い(Battle of Bastogne)等に従事し、戦争末期には、いわゆるヒットラーの鷲の巣、ケールスタインハウス(Kehlsteinhaus)奪取を行います。(B)
戦後は、この師団は、ベトナム戦争、湾岸戦争、対アフガニスタン戦、対イラク戦に従事します。
興味深い挿話を2つご紹介しましょう。
第一ですが、1957年、学校での黒人隔離を違憲とした最高裁判決を受け、この師団の部隊が、アーカンソー州リトルロックで黒人の生徒達を、それまで白人ばかりだった学校まで護衛しました。
これは、判決に不服のアーカンソー州知事が、州兵を招集して、黒人の生徒達の学校登校を阻止しようとしたのに対し、アイゼンハワー大統領が連邦陸軍を投入したものです。
その後、連邦軍化されたアーカンソー州兵が第101空挺師団隷下部隊の任務を引き継ぐこととなり、この部隊は撤退します。
第二ですが、2001年にTVシリーズが放映されていたところ、同年の対アフガニスタン戦にこの師団が投入されたことから、その第506連隊には、バンド・オブ・ブラザースという渾名がつけられました。また、2003年に対イラク戦にこの師団が投入された時、そして、治安維持のために2005年に同師団が再びイラクに投入された時には、同師団は、正式にバンド・オブ・ブラザース任務部隊(Task Force)と呼称されました。
なお、歴代の師団長の中には、ベトナム派遣米軍司令官を務めたウエストモーランドや、前中央軍司令官で現在アフガニスタンNATO軍/米軍司令官のペトラユース(ペトレイアス)がいます。
http://en.wikipedia.org/wiki/101st_Airborne_Division
(6)英国との関わり
このTVシリーズは、米国史上・・恐らくは世界史上・・最もカネをかけたTV番組であり、約1億2500万ドルが投じられました。
このうち、英BBCが1,010万ドルを負担しました。
さて、このシリーズの制作総指揮にあたったのは、スティーブン・スピルバーグ(Steven Spielberg)とトム・ハンクス(Tom Hanks)であった(A)ところ、当時の英首相のブレアは、スピルバーグに撮影用に英軍装備と2000人の英軍兵士を貸与し、更にスピルバーグにナイト爵を授与し、その見返りに(?)息子のユアン(Euan)(注)を、スピルバーグ自身の映画スタジオであるドリームワークス(DreamWorks)に就職させた、と噂されています。(B)
スピルバーグもブレアも、相当の玉だということです。
それにしても、英米の特殊関係は、こんなところにも顔を覗かせていますね。
(注)ユアンは、2006年に米エール大学の大学院、Center for International and Area Studiesに入学し、恐らくは2008年に卒業しているが、同大学院から2年間の授業料と生活費をほぼカバーする50,000ポンドの奨学金を授与されている。
このことをめぐって噂が飛びかっている。
国際問題の大学院として、エールのそれは全米第12位・・ちなみに、トップはジョンズホプキンス、2番はジョージタウン、ぐっと下がった3番はハーバード・・に過ぎないけれど、ユアンはハーバードとプリンストンにも合格したが、破格の奨学金を出してくれることになったエールを選んだとされている。
その第一の可能性は、有名とは言えない英ブリストル大学で古代史を専攻し、2.1(優・秀(上)・秀(下)・良・可のうち秀(上))
http://en.wikipedia.org/wiki/British_undergraduate_degree_classification
の成績を収めて卒業し、その後一年間仕事(インターンシップ)に就いていたユアンが本当にエールのこの大学院志願者のトップ数人に入っていたのかもしれないこと、第二の可能性は、GRE(コラム#2501)と推薦状のできが抜群であったかもしれないこと、第三の可能性は、9.11同時多発テロ以降外国人学生の米国での就学が困難になっていることから、外国人学生の数を減らさないために外国人学生たるユアンに下駄が履かされたかもしれないこと、第四の可能性は、ユアンの父親がブレアなので、この大学院が将来多額の寄付が期待できると思ったかもしれないことだ、とうるさいことうるさいこと。(以上、全般的に以下に拠った。)
http://www.thefirstpost.co.uk/2643,news-comment,news-politics,how-euan-blair-got-into-yale
小泉進次郎衆議院議員の場合は、コロンビア大学の政治学科大学院であったから、国際問題の大学院とはまた違うが、ついつい彼のケース(コラム#3364、3422)を思い出してしまう。
政治家の親の七光りは、日本も英国も変わりないのかもしれない。
3 終わりに
スピルバーグとトム・ハンクスが、再び共同で制作総指揮した、今度は太平洋戦争をテーマにしたHBO局のドラマ『ザ・パシフィック』が2010年3月14日より全米放送されているといいます。(A)
こわいもの見たさで、機会があったら、こちらのシリーズも鑑賞してみたいものです。
(完)
映画評論6:バンド・オブ・ブラザース(その3)
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